第17話 不安と抑制
その日はクラス当番の仕事が予想以上に長引いて、遅れて部活に行ったのだった。
「ごめん!ちょっと遅れちゃった」
私は智子の方へ駆けよると、そばに立つ見慣れない女の子に気づいた。
すごくきれいな子。
私とは違い、スラっとしていて背が高い。
「紹介するよ。こちらが二年の岡村彩先輩」
「はじめまして。岡村です。この子が新しいマネージャー?」
「あ、はい!一年の桜木葵といいます。よろしくお願いします」
「うん!こちらこそよろしくねー」
智子とは親友のようで、とても仲がいい。
私のようにふわふわした人間とは違い、しっかり者のイメージ。
けれども智子の友達らしく、根は優しそうで安心した。
「どうでした?葵は」
葵ちゃんと会ってからしばらくして、啓介くんが話しかけてきた。
だが私は少しモヤモヤした。
啓介くんが女の子の名前を呼び捨てにするのは初めてだったから。
「すごくいい子ね。しっかりしていそうだし」
特に呼び方を気にしていないように答える。
「葵ちゃんのこと知っているの?」
しかし、気になるものは気になってしまう。
二人はどういった関係なのか。
「葵とは腐れ縁で、小さい頃から隣に住んでるんです」
「幼馴染なの?」
「まぁそんな感じです。最近はそこまで会ってなかったんですが……」
「いいなぁ、あんな幼馴染」
「いやいや。あいつは自己中心的だし、しっかりしてそうで抜けてるんですよ。それに前に言った、飛んできたボールをはじき返したっていうのはあいつのことなんですよ。ホントに暴力的なヤツで……」
私は深く聞いたことを後悔した。
幼馴染ということも衝撃だったが、口では文句を言っている啓介くんの表情はどことなく嬉しそうだった。
彼が葵ちゃんのことをただの友達とは思っていないことはすぐに察した。
そしていつも彼が話している女の子は彼女のことだろう。
急に襲ってくる不安に耐え切れず、私はある決断を下す。
「啓介くん、ちょっといい?」
部活の後で啓介くんを呼ぶ。
「今ですか?」
「うん。ちょっとでいいから」
自分で声を掛けておきながら、今更ながら恥ずかしさがある。
それを私はどうにか抑えながら倉庫の裏へ歩いていく。
「どうかしました?」
案の定、啓介くんはここに連れてこられたことを疑問に思っているよう。
私は意を決して口を開く。
「次の日曜日、部活休みでしょ?一緒にどっか行けたらいいなと思って」
「行きましょう!俺たち一緒に帰ることはあっても出かけたことはなかったですし」
明らかに喜んでくれている。
本当は誘ってほしかったけれど、彼の態度を見ていると自分の不安も幾分か楽になった。
「そうなの!最近部活も忙しかったしね。ここ最近あんまり話せていないでしょ?じゃあ細かいことはまた連絡するね」
こうして私たちは初めてのデートをする。
デートでは啓介くんが私を大切に思っていることが分かったし、私はなんとか自分の心を納得させ、また日常を取り戻していくのだった。
しかし、その日常も所詮は不満を無理やり抑えたものに過ぎないのだった。
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