書き下ろし第3巻(完結巻)発売記念おまけSS
大切な妹を想う その1
~作者よりごあいさつ~
3月24日に書き下ろしの完結巻『迷子宮女は龍の御子のお気に入り ~龍華国後宮事件帳~』第3巻が発売日を迎えます~っ!ヾ(*´∀`*)ノ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322410001614/
というわけで、第3巻発売記念のおまけSSをアップいたします!
KAC参加作でもおまけSSを書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ~!(*´ω`*)
『迷子宮女は龍の御子のお気に入り』番外編
~牡丹宮からの帰り道~【KAC20252】
https://kakuyomu.jp/works/16818622170753470776
なお、本編後のおまけということで、ネタバレを含みますので、未読の方は書籍版を先にお読みいただけますと嬉しいです~!(ぺこり)
ちなみに、今回のおまけSSは第3巻に収録されている番外編「鈴花の里帰り」にリンクした内容となっておりますので、書籍版もお楽しみに~!( *´艸`)
◇ ◇ ◇
この町が、これから暮らしていく町なのだ。
宿の二階の窓辺から、
夏の陽射しが降りそそぐ町は活気にあふれており、菖花のところまで
菖花は明日、この町の裕福な商家の跡取り息子である
龍華国では、結婚式の日には花婿が花嫁の家を訪れ、自分の家まで花嫁を連れて行くという風習があるが、菖花の実家はこの町から少し離れた村だ。
明日は花嫁行列の後に式を挙げるだけでなく、憲栄の親戚達や商家の取引相手などを招いた大規模な宴もあり大忙しの一日となるため、両親と一緒に町の宿に宿泊し、明日はここから花嫁行列が出ることになっている。
久々の宿泊、しかも費用は婚家持ちということもあり、菖花の両親は娘を放って町へ出ていってしまった。今頃はきっと楽しんでいることだろう。
もともと両親に大きな期待を抱いているわけではない菖花としても、あれこれかまわれるより、ひとりのほうがずっと気楽だ。
明日になれば家を出られると思うと、むしろ
ただひとつ、心に残ることがあるならば――。
菖花は遠く離れた王都で暮らす、大切な妹・鈴花のことを想う。
王都の後宮でとある事件に巻き込まれ、消息不明になってしまった菖花のことを、宮女になってまで捜しにきてくれた鈴花。
菖花が宮女を辞めて故郷へ帰ってきた後も、鈴花は後宮で働き続けている。
それは、後宮にこそ妹の幸せが――鈴花が想う人がいるからだとわかっているものの、家を出るいまになって、心配でたまらないのだ。
家でいた頃、妹は幸せだっただろうかと。自分は姉として、可愛い妹を幸せにできていただろうかと。
両親に疎まれていた鈴花にとって、家にいた頃よりも、後宮で想い人に大切にされている今のほうが遥かに幸せだということはわかっている。
けれど、いざ家を出るとなると、過去の自分を振り返り、不安になってしまうのだ。
どうか、鈴花にはこのまま幸せになってほしい。
想い人との高い身分の壁を乗り越えるのは一筋縄ではいかないだろうが、それでも――。
菖花が遠く離れて暮らす妹の幸せを願っていると、扉が優しく叩かれた。
聞こえてきたのは
「どうかなさったんですか?」
人柄のよさがにじみ出ている顔立ちに困ったような表情を浮かべて扉の前に立つ憲栄に、菖花は首をかしげる。真っ先に浮かんだのは両親のことだ。
「申し訳ありません。もしかして、両親が何かご迷惑を……」
「いや、そうではない!」
不安も
「母上に、叱られてしまってね。式の前日で不安な気持ちになっているだろう花嫁を放っておくとは何事だ、と。これから我が家に嫁ぎ、ともに歩んでくれる伴侶なのだから、その第一歩から不安にさせてはいけない、と」
「お義母様が……」
喜びの声をこぼした菖花の胸が、夏の陽光に照らされたように熱くなる。
憲栄の両親は実の娘のように菖花を可愛がってくれている。特に息子しかいない憲栄の母は昔から娘が欲しかったそうで、嫁入りの支度を整える時も、菖花の意見を聞きながら楽しそうに一緒に支度をしてくれた。
さほど裕福ではない菖花が、いくら望まれたからとはいえ憲栄に嫁ぐ決心がついたのは、憲栄の深い愛情だけでなく、義両親が菖花を可愛がってくれるからという理由も大きい。
「それほどお気遣いいただけるなんて、嬉しいです。でも……」
どうして憲栄がこんな困り顔をしているのかわからず、戸惑って見上げると、憲栄の顔に朱が散った。
「その……。扉を叩いて、きみが出てきてくれたのを見て、結婚したらこんな風にいつでもきみの顔を見たり、話したりできるのかと思うと、嬉しさで胸がいっぱいになって……」
話すうちに、さらに憲栄の顔が赤くなっていく。
「気をしっかり持たないと、顔がにやけて融けてしまいそうで……」
「憲栄様ったら」
許嫁の可愛らしい姿に、思わず顔がほころんでしまう。
「私も、憲栄様に嫁げることが嬉しくて仕方がありません。こんな風に気遣ってくださり……。本当に、ありがとうございます」
にっこりと微笑み、心からの感謝と喜びを伝えると、憲栄の面輪にも柔らかな笑みが浮かんだ。
「礼などいらない。わたし達は明日で夫婦になるのだから……。いつまでも、互いを思いやっていこう」
「はい……っ」
愛しい許嫁を見上げ、大きく頷いたところで、菖花はひとりの少年が宿の階段を上がってきたのに気がついた。
うっかり二人の世界に入りかけていたことに気づき、頬に熱がのぼるのを感じながら少年を見やる。
菖花と視線があった少年が、
吊り目がちの顔ときびきびした動作に、菖花は覚えがあった。
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