地球防衛軍でもこれは食べる。

白兎

第1話

 今日は朝から、大騒ぎだった。なぜなら、都庁の上に大きな宇宙船。それは突然現れた。宇宙からゆっくり近づいてきたのではなく、夜が明け空が白んできたらそれはそこにあったのだ。どこのテレビ局でもこのニュースしかしていない。それはここだけではなかった。世界中の大都市で同じことが起こっていたのだ。

「松村奏、出動命令だ」

 寝起きの悪い私に、朝一からこれはないよ。でも、やっと出番です。私が地球防衛軍の特殊部隊に所属していることは家族も学校も承知している。公認なので、

「お母さん、おはよう。出動命令が出たから、行ってきます」

 と普通に出かけた。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 私が出動するのは初めてだ。しかし、これまで訓練を重ねてきたから、自信はたっぷり。日本に現れたのはあれ一つだけだ。私一人では無理でも、仲間がいれば排除できる。ただ、国民を巻き込まないように、

「岸総理大臣、今お電話大丈夫です? 私、松村ですが、これから出動し、都庁の上にいる敵を撃破します。半径十キロくらいの住民を避難させて下さい。避難が終わったら連絡ください」

 と、業務連絡よし。それから、

「あれっ? もうあいつらいるじゃん。遅れをとったか」

 特殊部隊日本支部の連中はとうに集まっていた。都庁はすでにものけのからだ。といっても、だれも出勤していないだけだが、一人を除いては。

「おはようございます、知事。今、総理に国民の避難をお願いしたところですよ。知事も早く逃げてください。あとは私たちで対処しますから」

 この女性の都知事、こんな状況でも来るとは責任感強すぎだ。

「でも、私はみなさんが無事に避難するまでは逃げられません」

「いやいや、困りますよ。逃げて下さいってば」

 鋼屋鋳次が割って入って来た。自衛隊、警察官も集まっていたが、彼らも私たちからしたら邪魔でしかない。彼らを巻き込めばみんな死んでしまう。

「ほんとに、みんなここから去ってくださいよ。都庁から半径十キロは無人にしないと、私たちの破壊力半端ないんで、よろしくね」

 そのとき、東京アラートがみんなのスマホを鳴らした。総理がアラートの発動をしたようだ。サイレンが鳴り、総理が直々に生声で放送した。

「皆さん避難してください。これは訓練ではありません。都庁の半径十キロ圏内の方は今すぐに避難してください」

 それでも、自衛隊、警察官、都知事は断固として動かなかった。

「ちょっと、やりますか」

 仕方ないので、一発宇宙船にお見舞いしてやった。ど派手な音と共に、大きな宇宙船の端っこを撃破。すると、小型の戦闘機が蜘蛛の子を散らすように出て来て、こちらに攻撃してきた。

「おい、おい。誰が戦闘開始していいって言ったよ。一応俺がリーダーだぞ」

 鋳次がそう言って、無数の敵の戦闘機を一度に撃破。

「ね、見たでしょ。あなたたちとは次元が違うのよ。だから、いてもらっても邪魔なの。犠牲者が出るだけよ。だから、出てって。都知事もよ」

 あまりの攻撃力に、己の力及ばないことを悟ると、自衛隊も、警察官も都知事を連れて去っていった。

「さてと、さっさと終わらせましょう」

 特殊部隊日本支部のメンバーは、私と鋳次、桜井千夏、横山嵐の四人だけ。みんな現役の高校生だ。特殊能力が半端ない連中の集まりで、本格的な戦いはこれが初戦だが、みんなワクワクが止まらず、ド派手に宇宙船を総攻撃。出てきた無数の戦闘機も鋳次と嵐が全部まとめて撃破した。私、四人の中じゃ結構おとなしい方だ。

 都庁もろとも、なんとも無残な残骸だけが残った。

「半径十キロにしておいてよかったね。街が一つぶっとんだね」

「なあ、腹へった。朝飯さえ食う暇なかったぜ」

 せっかく活躍したのに、誰も私たちの活躍見てない。みんな離れて行ったからね。

「おーい」

 空を飛んできたのは、特殊部隊日本支部の訓練生、野村依千子。彼女はまだ中学生で、戦闘には出動できない。

「お疲れーっす。おなかすいていると思って、家にあったこれ、持ってきました」

 赤いきつね5個。スーパー袋に入れて持ってきた。割り箸も五膳ある。しかし、

「ありがとう。お湯は?」

 私に言われて、ハッとして、

「忘れたっす。でも大丈夫っす。あたし、水出せます」

 彼女が手のひらを上に向けると小さな水の粒が集まり球体になった。

「水って。誰かこれお湯にしてよ」

「出来るか、そんなもん」

「だよねー。この四人誰もそんな特技はないよ」

 嵐と千夏が言ったが、

「俺、開花しちゃったぜ。まさかのその特技、最近身に着けたんだ」

 と鋳次が得意げに水の珠をアツアツの熱湯に変えた。さっそくカップに湯を注ぎ、待つこと五分。

「戦闘の後に赤いきつねって……。でも、いい香り」

 おだしを一口。

「しみるねー」

 みんないい顔してる。やっぱ、いつも食べ慣れたこのお味。なんだかほっとする。私たち四人ですべてを吹っ飛ばして、瓦礫しかない大都会。でも、これって平和なのかも。

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