episode2

「来たい場所ってここ?」


「そう。」


 本当に?という気持ちしかない。なぜならここが、遊園地だからである。日本一人気な遊園地。夢の国。


「こういうところって、彼氏とかと来るんじゃないの?」


「じゃあ、なってよ。」


あ、そういう感じ?そういうためのここな感じ?流石にそこまでは予想できなんだ。


 平日の午前中だからなのか、いつもよりも人が少ない気がする。と言っても最後に来たのが中学になる前だったのでよくわからないといえばわからない。


彼女は、早速。と言って、一番近くにあったショップに入っていった。来い。と言われたわけでもないので外で待っていると彼女は最近人気のクマのキャラクターの被り物と、リボンがついているバージョンのものを持ってきた。


「ん。」


と何も言わずにリボンなしの被り物を被せられた。思わず、何かと聞くと


「これがないと、来た!って感じがしないでしょ!」


と言われたので、従ってあげることにする。しかし、代金は彼女持ちなのも悪いと思ったのでいくらだったのか問うと「ただ。」と答えられた。「私が可愛いから、彼氏の分もくれるって。」と言う。彼女の嘘であることはわかりきっているが彼女なりの優しさなのでありがたくもらっておくこととした。そこから、彼女はありったけのジェットコースターなどのいわゆる絶叫系アトラクションと呼ばれるものに僕を連れ回していった。そして、僕よりも先に目を回している。水を渡してあげると、「ありがとう」といって素直に受け取ってくれた。だいぶ落ち着いたようで安心した。


「どうよ。楽しかった?君はだいぶこういうのに強いんだね。」


 まぁ楽しかったといえば楽しくなかったこともないので、まあそこそこだね。と可愛げのない返事をする。絶叫ものは何が怖いのかよくわからないので大丈夫だ。ジェットコースターは単純に乗り物に強いだけである。君は終始楽しそうに「アハハハハハハ」と絶叫していたが。


 そんなことを言ってやると、君は「そっかそっか」と言って立ち上がった。


「さあ、次は緩やかな感じの方に行きますよ!」


と言って僕を引っ張っていった。


大きなお城がいい位置で見えるポジションに立って無理やり僕とツーショット


を撮ったり、船に乗ったり、射撃をしたり、アメリカ式のゲーム場に行った


り。。


 はっきりいえばとてつもなく楽しかったけど、君のしてやったりという顔がお気に召さなかったので、少し偉そうだが内緒にしておく。


「ちょっと待ってて。」


最後!と行って乗ったジェットコースターから降りて、唐突に君が言う。僕がわかった。と答えると、君は笑顔で走り去っていった。トイレかなんかだろう。その時は、そう軽い気持ちで捉えていた。


 しかし、目の前に奴らが通ったことでそれは変わった。奴らは俺には気がついていないようだった。だが、僕は奴らのいやな笑い声の中に棗という言葉を聞いて、僕は走り出した。トイレエリアについて、彼女が周りにいないことがわかると、何も考えずに女子トイレに入った。幸い、彼女は手を洗っていて、彼女以外に使用している様子もなかった。しかし、どことなく彼女の髪が濡れている。


 彼女に「どうしたの⁉︎」と驚かれたが、僕はかまわず彼女にタオルを渡し、ただ「ごめん。」と言った。


 聞こうかどうか迷う。彼女にとって、きっと辛い思い出だから。消したい思い出のはずだから。それでも僕は意を決して声をかけた。


「奴らに会った?」


彼女はとても驚いた顔をした。


「なんで知ってるの?」


と直ぐ笑顔で返してきた。だが、その笑顔はさっきジェットコースターで見た


ような花が咲くような笑顔ではなかった。闇を見せる笑顔だった。


「さっき、僕の前を通っていった。」


そう言うと、彼女はとても辛そうな痛そうな顔をした。そうだよな。思い出したくなんてなかったよな。本当に僕は彼女を傷つけてばかりいる。やっぱりあの時死ぬべきだったのだ。


「嫌なこと思い出したよね。大丈夫?辛くない?」


思いよらず、僕のことを心配する言葉をかけられてびっくりした。辛くて苦しいのは君の方だろ。


「私は大丈夫だよ。ずっと言ってるじゃない。君に助けられたって。だから私は大丈夫。それより君は、やっぱり死ねばよかったなんて思ってるんじゃないだろうね。許さないよ。そんなこと。」


 図星を当てられた上に怒られて。だって、その通りじゃないか。君を傷つけたろ。君の大丈夫は信じられないよ。だって君は、昔から大丈夫って言う時ほど苦しがってるじゃないか。


「そんなことない。大丈夫なものは大丈夫なの!だから君に心配されなくても平気なの!それに、そんなに君は、死にたい死にたい言うけど、君が死んだら私はどうしたらいいのかわからないよ。愛おしい人を失って、生きる意味を失って後追いすることになるじゃないか。そんなの君だって困るだろう。だから、君は私のために生きなさい。私のために死ぬなんて考えんな。」


そういって、君は僕の頬を両手で挟むように叩く。バチっと音がなるほどに。痛い。とてつもなく痛いのに、この痛みが嬉しいと思ってしまうよ。君にそれほど必要とされていることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。君に「私のために生きろ」と言われてこんなに嬉しいなんて知らなかった。僕は生きていていいの?君のために生きていいの?こんなクズでも生きていいのかい?こんなクズでも君を愛してもいいのかい?もしもそうなら君のために生きたいよ。君のことを愛したいよ。


 気づかないうちに涙が頬を伝う。君は「どうしたの⁉︎」といって、僕の涙を拭ってくれる。ああ。幸せだ。こんなに世界は明るくなったんだね。気づかないうちに止まっていた時間がまた、始まったみたいだ。灰色の世界がどんどんと色づいていく。ありがとう。やっぱり、僕が君を助けたんじゃなくて、君が僕を助けてくれるんだね。


 君は僕が落ち着くまでずっとそばにいてくれた。そして、僕が落ち着いてくると、「最後に観覧車だけ乗って帰ろうか。」といった。


 君と乗った観覧車からの景色はとても美しかった。大好きなあの川の流れと同じくらい、いやそれ以上に美しかった。帰り道、君の最近の趣味を聞いたり、好きな音楽の話をしたりしていたらあっという間に君の家に着いたね。故郷から離れているこっちでも家が近くて驚いたけど、僕の家の場所を教えると


「近いね!よかった!」


とまたあの花の咲くような笑顔を向けてくれた。僕は、絶対に守り続けてみせる。君のその桜のように綺麗な笑顔を。今度こそ絶対に。守るから。そばにいさせて。

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