エピローグ「平凡な日のはじまり」

三繰みくり。今日も行ってくるよ。」


花成は仏壇に飾ってある三繰の写真に声をかけて家を出た。


それは40年前の高校生最後の三繰の写真だった。




三繰は2年前、「先に死ぬなら仏壇に飾る遺影は高校生の時の写真にしてほしい」と言っていた。


「なんで?」と花成が聞くと、三繰はこう答えた。


「だっておばちゃんのシワシワ写真なんて恥ずかしいし、それに・・・」


「それに?」


「なんだかタイムマシンに乗って過去に戻れたみたいじゃない?」






ニレイが死んで10年後、花成は三繰と結婚し、それから更に30年後となった今や、花成博士はアンドロイド研究の第一人者となり、通はタイムマシンの開発まであと一歩のところまで行っていた。






三繰もアンドロイドの人権保障のため活動家となっていたが、体調を崩してしまい1年前にこの世を去っていた。


それでも三繰の残した功績は大きく、彼女の熱い想いが大衆を動かしてセックスアンドロイドに限らずアンドロイド全体の人権を保障する法律が世界各国で制定され始めていた。




ここ日本でもあと数年しないうちに施行される予定だった。






「そういえばまたイチゴの季節になったよ。」


花成は職場までの途中のケーキ屋で三繰の好きだったイチゴののったショートケーキを買うことにした。


いつでもイチゴのショートケーキはあるが、やはり今の時期が一番美味しい気がする。


ちなみにケーキは例の事件があった日に買っていったあのケーキ屋のものだった。




三繰が死んでショックで数日食べ物がなかなか喉を通らなくなってしまったが、三繰が大好きだったショートケーキをとおるとライサが差し入れてくれてようやく回復したのだった。




ちなみに花成は既にセックスアンドロイド研究の第一人者だったが、ナナミクをはじめキュウカやリュートなど過去に出会ったアンドロイドとはまだこの時代では出会っていなかった。


本当に彼らに会うことができるのか、未来が変わってしまってやいないか心配になっていた。






オフィスについて、さぁ、ショートケーキでも食べるかとパッケージを開けたとき、部下が話しかけてきた。




「所長。ちょっとお話が。」


「どうした?まだ始業前だぞ。」


「それが・・・昨日の夜にとあるアンドロイドが搬入されまして・・・。」


「昨日?昨日は新規の患者はいないはずだが・・・」


「それが夜中に運び込まれまして・・・先ほど診たのですが私にはかなり難しく・・・」


「?」


花成はこの部下のことを信頼していた。


大手メーカーを引退した今、花成の経営するアンドロイドのお医者さん、つまり修理メーカーの中ではエースといえた。


性格も素晴らしいし、何より腕が確かだ。


花成にも負けず劣らずの実力だった。




その部下が難しいと言っているのだ。


かなり覚悟が必要なようだった。


「分かった。とにかく行くよ。」


花成は持っていたフォークをおいて白衣に着替え、患者(点々)のもとに向かった。




横たわっているアンドロイドの顔を見た瞬間、心臓が止まりそうになるほど驚いた。





そう、診療台に横たわっていたそれはXXX-002だった。


ナナミクやキュウカに先がけて出会うのは知っていたが正確な日付までは知らなかった。




その時、入口のドアが勢いよく開いた。




「花成!できたぞ!」


「え、通?いきなりどうした?」


通が忙しすぎて、なんだかんだ三繰の葬式以来、つまり1年ぶりだったが、相変わらずそれを感じさせないくらい急で能天気だった。




「だからできたんだよ!」


「え?」


「だ・か・ら!タイムマシンだよ!アンドロイド限定だけどな。」


「そうか、今日だったのかおめでとう!」


過去では知らされなかったが、まさか同日だったとは。




「ああ、苦節数十年だ・・・!途中、資金繰りがヤバくなったときはどうしようかと思ったが、お前から出資を受けられたからここまでこれた。」


通は相当興奮している。


「ああ・・・。まぁ、うちの会社ももとはと言えば、八美やつみ姉さんの出資を受けてるからな・・・。感謝はそちらに・・・。」


花成の腹違いの姉、八美は花成と和解したあと、翠石峰家すいせきほうけの遺産を継ぎ、また家業もついで世界的な一大企業にまで成長させていた。


まさにやり手女社長だった。




八美の美貌は若い時のままで金もあるが、なぜかいつまで経っても結婚はしなかった。


あまりにも美しいままなので彼女自身がアンドロイドなのではないかというあらぬ噂まであった。


八美の遺産はゆくゆくは三繰の設立したアンドロイドの人権を守る財団に寄付するつもりらしい。






「それに聞いてくれ!今度はアンドロイドへの身体的負担も大幅に削減できそうなんだ・・・!


あれ、そういえば、花成は何をしてるんだ?・・・オペか?」


通は花成の姿を見て言った。




「あ、ああそうだった。これから診察なんだ。彼女の。」


にやりとして花成は言った。




「おいおい、どうした嬉しそうな顔して。ただでさえスケベな顔がより下品にスケベになってるぞ。」


「うるせぇ。スケベな心なんてもう微塵も残ってないわ。・・・でも俺もついに夢を叶えるときが来たかもしれん。」


「おいそれってどういう・・・待てよ。まさか彼女って・・・!」


通も診療台に横たわった彼女、XXX-002に気づいたらしい。




「じゃあ、俺は行ってくる。」


花成は診療室のドアに手をかけた。


「おう、俺も調整を進めるぜ。」


花成がドアを閉める時、通は後ろ手にひらひらと手を振った。


XXX-002と花成が二人きりできちんと話せるようにしてくれたのだ。




「さてと・・・。やぁ、目が覚めたかな?」


花成は半ば緊張しながら診療台の上に寝ている彼女に話しかけた。


最近じゃ、こんな緊張することなどまず無いが、今は違った。




きっと次こそ上手くいくはずだ。


未来の自分が、未来のニレイがバトンを託してくれたのだから。




あったはずの未来を超えていくんだ。




この未来では、ニレイを完全に直してみせる。






XXX-002はパチッと大きな瞳をあけて、花成博士に目線を移すとこう言った。




「初めまして。私は高感度コミュニケーション型自律式アンドロイドXXX-002です。」


それを聞いて花成博士はにっこりとして口を開く。




「初めましてXXX-002。私は・・・」






END

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SEX ANDROID -セックス アンドロイド- @MichikazuSashie

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