第45話「少年たちの決意」


「それじゃあ。待ってるわ。未来で。花成。通。」


ナナミクがいつになく真剣な顔で振り返った。


「バイバーイ!花成!」


キュウカが背中にイチハを背負って元気に手を振った。


「花成。お前に託した。」


リュートがニレイを抱きかかえて花成の目をみた。




「ああ。皆、元気で。また、未来で。」


花成はあえて言葉少なにみんなを送り出した。




「また俺がタイムマシン作るまでの間な!・・・今度は完璧にしてみせる。」


通も後半は決意をあらわすように真剣な表情で言った。




花成、三繰、通、ライサは花成の家に集まっていた。


ニレイやナナミクなどアンドロイドたちが未来へ帰る日だった。




未来で天才物理科学者とよばれることになった通からアンドロイドたちは口酸っぱく言われていたらしい。


過去を改変してはいけないと。


また、目的を達成したらすぐに戻ってくるようにと。


変えられるのは未来だけだと。






タイムマシンといえば、


実は最初にニレイが出てきて、その後続々とアンドロイドたちが現れた花成の机とその引き出しは未来でも花成が大切に使っているらしい。




未来で通が開発したタイムマシンにはいくつか欠点があった。


ひとつは完全なアンドロイド以外は使えないことだった。


ニレイのような致命的な不良を抱えるアンドロイドは寿命を縮めることになり、人間や普通の物質はそもそも形を保てない。


当の本人には一瞬のように感じるらしいが、実際には途方もない時間分、物理的な負荷がかかっているようだった。


正確には分からないが少なくとも人間の寿命を軽く超えるレベルらしい。


ただでさえ、寿命が短いと言われていたニレイは思った以上に一か八かの賭けに出ていたということだ。




もう一つは時間の座標指定は自由に可能な代わりに、場所の座標指定ができないことだった。


全く同じ物質同士にしかタイムマシンは機能しない。


つまり、現代から未来の花成がずっと使い続けていて、かつ、アンドロイドたちが通れるくらいの大きさのものは花成の昔からの机だけだった。




アンドロイドたちは未来へと帰っていった。




「さーて、俺は勉強しなくちゃな。タイムマシン作らなきゃだからなー。どの科目に力を入れるか考えてなかったけど。俺は物理だな。」


通は頭の後ろで腕を組んで嘯いた。


しかし、皆それが真剣であることを知っていた。


「俺は機械工学を極める。未来が変えられるかなんてわからないけど、変えてみせる。」


花成も言った。


通のタイムマシン研究とは違って将来、セックスアンドロイドたちを、ニレイを救うためだった。


「私はアンドロイドの人たちの人権のために戦うってきめた。だから法律を中心に勉強する。って言ってももともと法学部志望だったから結果良かったかな。」


三繰も言った。


既に日本トップクラスの大学で法学部にすすむことが決まっていた。




「あ、アタシもなんか、しよーかな。」


ライサも言ったが、決まっていなかった。




ちなみにナナミクが皆の将来について話したとき、ライサだけは自分の未来について聞くことは拒否した。


1人だけ微妙な未来だったら嫌なのだそうだ。


花成がこっそり後でナナミクに聞いたところによるとライサは心理学や脳科学を研究して、未来の花成博士と別方向の”アンドロイドのお医者さん”、つまりは精神科医になっているらしかった。


それも世界最高峰の名医と言われているらしいのだが、本人が聞きたくないと言っているのだ。


何も言うまいと花成は思った。




その日はアンドロイドたちを未来へ見送って解散となった。




次の日、花成は三繰を公園に呼び出していた。




時間はまだ真昼間まっぴるまだというのになぜか誰もいなかった。




「しっかし、驚いたなー。まさか花成君が未来のアンドロイドたちと一緒に住んでたなんて。あんな可愛い女の子たちと共同生活なんて。」


いつかのニレイのように三繰は少し意地悪に花成に言ってみせた。


「しょ、しょーがないでしょう。勝手にあがり込んできたんだから・・・。」


花成は慌てて顔を赤らめる。


何回も裸を見たり、不可抗力で色んなところに触ってしまったことは一生言えないなと思った。




「ふふっ。じょーだんだよ。私も楽しかったし。でも、もっと早くに未来から来てたって教えてくれてたら色々協力できたかもね。」


「それは・・・すみません。」


「それで、今日はどうしたの?」


三繰は急に真剣になって聞いた。


座っていたベンチを三繰は立ち上がって数歩歩いて振り返った。




「はい。三繰先輩に話したいことがあって。」


花成も立ち上がって三繰を見つめた。


「そ・・・そうなんだ。」


私も話したいことある。三繰は喉までその言葉がでかかったが、言うことができなかった。


自分のこういうことが嫌になる。


何を言われるのか、分かっていてこうなのだ。


いつか自分を変えなければいけない。




自分の身可愛さに口をつぐむのではなく、はっきりと言いたいことが言えるように。




花成は既に変わったようだった。


ニレイが死んでから明らかに。




それも良い方向に。




花成は意を決して口を開いた。


三繰の瞳を見つめた。


ニレイのためにも決意したが、もうニレイの姿をそこに映し出すようなことはしなかった。


花成の瞳は三繰だけを見つめていた。




「三繰先輩。俺はあなたのことが・・・」


花成が口を開いた瞬間、二人の周りにざぁ・・・と柔らかな風が吹いた。

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