第44話「最初で最後のわがまま」

「俺は・・・やっぱり三繰先輩が好きだ。」


花成かなりはニレイの目を見てキッパリと断言した。




ニレイは肩を落としたように見えた。


「ええ。それは知って・・・」


「でも!」


「えっ?」


ニレイは花成が言葉を続けると思ってなかったので驚いた。




ちゃんと驚いたニレイの顔も初めてだ。


「・・・ニレイのことも好きなんだ。」


「・・・ウワキモノ。」


ニレイは不機嫌そうに言って見せた。


「だ、だって本当なんだよ!最後なんだろ?ニレイも本当のこと話してくれたから、だから本当のことを俺も話そうと・・・」


「フフッ。でも嬉しいですよ。」


慌てふためく花成にニレイは意地悪そうに笑った。


「おいおい・・・意地悪しないでくれよ。俺だって最低だって分かってるけどさ、ちゃんと言うって決心したんだ。・・・三繰先輩のことはずっと好きだった。告るタイミングがなかった・・・いや、告白する度胸が無かっただけなんだ。」


「・・・・・・。」


「そこに君が、ニレイが現れた。それから色んなことがあった。ナナミクやキュウカ、皆が一緒になった。でも、何よりニレイと一緒にいることが楽しかった。正直、揺れ動いたよ。心が。」


「それは良かっタ・・・。」


「でもゴメン。どちらか選べって言われたら。俺はやっぱり三繰先輩を選ぶ。同じくらい好きになってしまっているのは本当だ。それでも・・・。」


花成は自分が期待させておいてヒドいことを言っていることを承知の上で正直な気持ちを伝えようとしていた。




「ふふ。ざーんねん。時間がちょっとタリなかったカナ・・・。でもちゃんと三繰に気持ち、伝えてあげてください。」


ニレイは寂しそうに笑った。


花成は言葉が出てこなかった。


段々とニレイの声が先ほどのイチハと同じくぎこちなさを増してきていた。




「最後ニお願いいいですか?」


唐突にニレイがニッと笑って言った。


しかし、その笑顔はどこかキツそうだった。


きっと人間なら冷や汗をかいているくらいキツイのだろう。


「お願い?」


花成は今、ニレイがなんとか耐えて、普通の声を出そうとしていることを知っていた。


「キスしてください。」


「キッ・・・!」


花成は言葉が出てこなかった。




「なな、なんで・・・!」


「だって、私のこと、好きなんですよネ?」


またしてもニレイはいたずらっぽく笑った。


「い、言ったけど、でもだって・・・。お、おれはニレイのこと振って・・・」


「最後のオネガイ・・・」


もうニレイは言葉を紡ぐのも難しそうだった。




「う・・・」


ニレイは知っているのだ。




花成が断れないことを。




もう寿命を迎えるニレイのお願いだから。


好きになってしまったニレイのお願いだから。


二重の意味で。




「ニレイ。俺は最低だ。二人も好きな人ができてしまった。これが最初で最後だ。それと、これが俺の人生唯一のファーストキスだ。」


「ウン・・・」


ニレイは目を瞑った。


表情を保つのも難しいらしくもう笑っていなかった。


いつものニレイの無表情に戻っていた。


不謹慎ながら、花成はそんな顔をいつものニレイだと安心していた。




きっとこれがニレイの最初で最後のわがままなのだろう。




「好きだよ、ニレイ。」


花成はそう言ってニレイにキスをした。




「・・・ありがとう。」


ニレイはそう言って花成のことをそっと抱きしめた。


花成も静かに抱きしめ返した。


しかし、ニレイの腕がだらん、と力なく落ちた。




「ニレイ!」


バッと花成は肩を掴みニレイの顔を見た。


しかし、ニレイの顔には何の表情も無かった。


そこに既にニレイの魂がないことが分かり、花成は静かに1人で涙を流した。




「ごめん・・・救えなくて・・・。」




「花成!」


後ろから声が聞こえた。


それはニレイの次に一緒にいた時間が長いナナミクだった。




「・・・ナナミク。ニレイ、いっちゃったよ・・・。」


花成は静かに笑った。




「花成・・・」


「花成君!」


ナナミクの後ろから現れたのは三繰だった。




「三繰先輩・・・!なんで・・・?」


「ナナミクちゃんに教えてもらったの!ニレイちゃんのことも・・・皆のことも・・・未来の花成君のことも・・・」


「ごめん先輩。言わなくて。」


「・・・いいよ。私も言わなかったことあるから。ニレイちゃんは・・・」


三繰は途中まで言いかけて、ニレイのことに気づき二人に駆け寄って抱きしめた。




「ニレイ・・・!」


ナナミクも同じように三人を抱きしめた。




「ニレイ!花成!」


花成のブレザーとコートがかけられたイチハをお姫様抱っこの形で抱えてキュウカが現れ、続いてとおる、ライサ、リュートが現れた。


リュートはナナミクたちと和解したようだった。




それから真っ暗な教室の中で、皆で抱きしめあいながらニレイがいなくなった事実を噛みしめるのだった。


キュウカはイチハを抱きかかえながら涙を流し、通は静かに花成の背中に手を当てていた。




雨はもうんでいた。




「ニレイは知ってたの。自分が死ぬこと。」


皆でニレイとイチハを抱きかかえながら花成の家に帰ってから、ナナミクは教えてくれた。




「そうか・・・。」


花成はそれだけ答えた。


タイムスリップの影響で記憶を無くした時には忘れていたのだろうが、死ぬ直前に思い出したのだろう。




それからナナミクやリュートは話そうとしなかった未来での出来事を話してくれた。


ニレイたっての希望で、自身の寿命が縮むと分かっていても過去へタイムトリップしたこと。


それを花成博士が止めようとしていたこと。




それでも止まらなかったニレイを守るためにナナミクとキュウカが花成博士によって送り込まれたこと。


リュートもニレイの寿命が尽きる前に彼女の想いをなんとか成就させたいと思って未来から来たが、自分の想いに歯止めがきかなくなってしまったと花成に謝った。




「そ、そんな・・・!悪いのは俺だ。俺が、ウジウジしてるから。」


そう言って、花成は三繰を見た。


ニレイのためにもきちんと伝えなければいけない。


今ではないとしても。




それからナナミクは未来のことを色々と話した。


三繰がしいたげげられがちなセックスアンドロイドの人権を取り戻すために活動を行っていたこと、なぜニレイやイチハなどXXXシリーズが生まれることになったのか、何が問題だったのか、そして、花成博士が何百人もの不良や問題を抱えるセックスアンドロイドを助けた話など色々と話した。


花成と三繰が将来どうなるかはあえて何も言わなかったが花成には確信があった。




俺は絶対、三繰先輩と結ばれる。


そうじゃなくてもそうなってみせると。


約束したニレイのためなのはもちろん、何よりも自分のために。

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