第41話「三繰の気持ち」

「おめでとう!お姉ちゃん!」


妹の三季みつきが見つけた時、三繰みくりも同時に合格者の中に自分の受験番号を見つけていた。


「やった!ありがとう!三季!」




バイトを受験勉強で休んでから数カ月後、第一志望の東京の某有名国立大学に受かった三繰は妹の三季と抱き合った。


三季はまだ小学生だが、超姉好きスーパーシスコンなので合格発表の場にも母と来ていたのだ。




「流石だね!これで主席合格だよ!」


「はは・・・そんな言葉よく知ってるね。でも卒業はまだ4年後だから・・・」


三繰は苦笑いした。


「もうこれで高校生活思い残すことはないかしら?」


母がにこにこと話しかけてきた。




前日まで家族全員がドキドキだったが、仕事で来られなかった父も含め、家族全員が安堵していた。


「うん・・・。」


三繰はそういったが一つだけ心残りはあった。




それはもちろん花成のことだった。


花成とはバイトの先輩後輩との中だったが、いつの間にか素直で実直な彼のことを意識するようになっていた。




もちろんその気持に至るまで様々なことがあったが、日に日に一緒にいたいという気持ちを抑えることができなくなっていた。


「元気かな・・・」


受験を言い訳に花成と会わなくなったものの、本当は違う理由だった。




周りの人は友達含め、三繰のことを清廉潔白せいれんけっぱくな少女だと思っていたが、自分では本当は欲張りでいやしい人間だと実感していた。


花成の親戚だという君津 ニレイという美少女が現れてからというものの、彼の周りには魅力的な美少女が増えていった。




関係性は計り知れないが、彼女たちと親密にし、頼られている花成の姿を見ると三繰の卑屈な面が出てきて自分自身に嫌気が指していた。




簡単にいうと、三繰は嫉妬していたのである。


花成と会っていない時、彼が誰かと二人きりになっているかと思うと受験勉強に集中できないレベルで気が散ってしまうのであえて全く会わないという道を取ったのだ。


まさに複雑な乙女心だった。




なお、花成が他の美少女と二人きりどころか3人と共同生活しているとまでは三繰も知らなかったのだが。






「はぁ・・・」


家に帰ってからも受験合格の喜びはありつつ、花成のことを思ってため息をついていた。


果たして自分はどうしたいのだろうか。




受験という言い訳を失った今、彼女は花成に会うべきなのだろうか。




スマホで花成との今までのやりとりを眺めていると唐突に電話がかかってきた。




「わっ・・・わっ・・・」


あやうく三繰はスマホを落としそうになった。


何と電話をしてきたのは花成だったのだ。




「か・・・花成くん・・・!?」


「も・・・もしもし・・・」


その声は久方ぶりに聞いた花成の声だった。




「ど・・・どうしたの・・・?」


「いや、さっき喫茶店のマスターから先輩が第一志望校に合格したって聞いたから・・・。」


そういえば、合格してから一応学校とバイト先にはその旨を連絡していたのだ。




「ご・・・ごめんね・・・直接言おうと思ってて・・・」


実際はどう話して良いものか悩んでいたのだったが。






「そっか、でも、おめでとうございます!良かったですね!


あ、そうだ、合格パーティーでもしますか??」


「そ、そんな大げさだよぉ・・・。」


そう言いながら三繰は嬉しくて笑っていた。


よく知っている素直で実直な花成がそこにいた。




そうこうしているうちに、2人は1時間も話していた。




2人ともとっくに気まずさを忘れ、三繰がバイトを辞めたあの日のことなど思い出しもしなかった。




「わ、すみません!そろそろバイトも休憩終わりだ!じゃあ、また連絡しますね!」


「あ、うん!またね!」


そういって三繰は電話を切ったが、晴れやかな気分になっている自分の心を感じて何も心配することなど無いと悟った。




やはり私は花成のことが好きだと三繰は思った。








一方、ニレイは花成と一緒に働いていた。


三繰が抜けて人手不足になったので、時折、カフェで一緒に働いていた。




ニレイもまた自分の気持ちに薄々気づき始めていた。


花成と一緒にいると気持ちが華やぎ、他の女性と話しているのを見ると胸がざわざわする。


最低限の知識以外にほとんど記憶を失ったニレイは日々、図書委員として現代の知識を取り入れていた。




その中でこの気持ちについて思い当たる記述を見た。


それは”恋”というものらしい。




元来、セックスアンドロイドとして生まれた彼女は性交渉に関する知識は最も重要な知識としてほとんどのことを知っていた。


しかし、”恋”に関してはむしろほとんどのことを知らなかった。


なので、彼女の気持ちが本当にそれなのかどうかまでは確信は無かった。




「やっと落ち着いたな~。ニレイ、ありがとな!助かったよ!今日はお客さんが多くて一人だったら死んでた!」


「いえ、花成のためになったのならなによりです。」


「いつも助かってるよ!ずっと一緒にできたらいいよな!」


花成の何気ない一言にニレイはドキッとした。


それにしても、人はなぜ通常、死や永遠についての言論は避けるくせに冗談や軽い気持ちの時はそれを口にできるのだろうか。




そんな哲学的なことを考えていると、突然ひどい頭痛と吐き気を感じて倒れ込み、持っていたグラスを落としてしまった。


「大丈夫か!?」


パリン、というグラスの割れる音で気づき、花成が急いでニレイを抱き上げた。




「すみません・・・急に体調が・・・」


ニレイはそういったものの、アンドロイドが体調悪くなるなど聞いたことがなかった。


「おいおい、働きすぎなんじゃないか?大丈夫。もう波は去ったから、休憩してなよ。」


「いえ、ご迷惑をおかけしてしまうので今日は失礼します。」


そう言ってニレイは控室へと戻っていった。


「ニレイ・・・大丈夫か・・・?」






同時刻、全員出ているため誰もいない花成の家の机の引き出しが開いた。


そこから濡れた裸体らたいをさらし、一人の女性がずり落ちるように這い出てきた。




大きく張り出た胸部と似合わぬきゅっと絞られたウェストに、ほどよく筋肉のついた背中、丸みのある形のいい尻、細く長い脚は1とほぼ同じ体型だった。




「ふふ。やっと花成君と会える・・・。」


そう、妖しげにそうつぶやいた女性は髪の色こそ違うものの、顔も含め姿かたちはニレイそっくりだった。


白く透き通るような肌が夕焼けの光を受けてきらめき、豊満でハリのある胸の上部にはニレイと同じ”XXX-002”ではなく、”XXX-001”という文字が浮かび上がっていた。




その女性は棚に飾られた写真をなでた。


それは花成とニレイが並んで立っている写真だった。


「ふうん、ニレイもとっても楽しんでるみたいね。。」


謎の女性はあやしく舌なめずりした。

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