第39話「ニレイの秘密」
「おーい!買ってきたよ。はい!」
「あ・・・ああ。」
リュートはニレイの美しい顔をぼーっと眺めながら、半分うわの空でソフトクリームを受け取った。
ついに念願のニレイとのデートが叶ったリュートは天にも昇る思いだった。
二人は遊園地に来ていた。
「美味しい?」
ニレイがソフトクリームを舐めながら覗き込んできた。
「ああ。」
ちょっと恥ずかしくなり、リュートはそっぽを向いた。
感無量だったが、リュートは働いていないのでお金を持っておらず、デートに誘ったくせに全て奢られているのでかっこがつかなかった。
「少し疲れた?」
「ん・・・ああ。」
心配そうなニレイにリュートは気のない返事しかできなかった。
「お、おもった以上に激しいんだな。遊園地の乗り物って。」
「ふふ、苦手だった?」
「う・・・ジャ、ジャイロが少し揺らされただけだ気にするな。」
全然平気で愉快そうなニレイにリュートは情けない気持ちになった。
正直、絶叫系が苦手だった。
午前中から遊園地で遊び、既に昼過ぎになっていた。
なにぶん、ちゃんとしたデートなど初めてでランチの時に何を話せば良いのかわからなかったが
ニレイは優しく、自分から話して盛り上げてくれた。
何から何までおんぶにだっこだったリュートは次こそ良いところを見せようと立ち上がった。
「よし!次はどこ行く?何でも行けるぞ俺は!ジャイロも調整終了だ。」
「んー、そうだなぁ、あ、あれ行こうよ!」
そう言ってニレイが指したのはお化け屋敷だった。
「あれか・・・!」
リュートはおばけ屋敷も初めてだった。
そういえばニレイは遊園地は来たことあるのだろうか。
「遊園地は花成博士に頼んで連れてきてもらったかな!何回かいろんなところの!お化け屋敷も行ったよ!」
「何・・・!」
花成博士に対抗心を燃やすリュートは俄然やる気だった。
「恩人だと思っているが・・・負けるわけにはいかない!」
リュートは思い切ってニレイの腕を取り、おばけ屋敷へ踏み込んだ。
「はぁはぁ・・・」
数十分後、やっとのことでお化け屋敷から抜け出したリュートは息切れしていた。
ドヤ顔で踏み込んだものの、すぐにリュートは自分がお化け屋敷も苦手なことに気づいた。
途中で腰が抜けてしまい、爆笑するニレイに手を繋がれてやっとの思いで出てきたのだった。
「大丈夫??」
お化け屋敷から出てきてから数分経つのになおも顔色が悪いリュートをニレイはにこにこ笑いながら心配してくれた。
「あ・・・ああ・・・」
叫びすぎてガラガラ声になったリュートは大して答えることもできず、返事をした。
「花成博士と同じでおばけ屋敷苦手なんだね。なんだか、面白くなってきちゃった。」
クスクス笑うニレイはあくまでも無邪気な感じで、嫌な気持ちはしなかったが相変わらず少し恥ずかしかった。
「・・・・・・。」
「喉乾いただろうから飲み物買ってくるね!」
そう言って走っていくニレイのすらりとした姿をリュートはベンチにぐったりともたれかかって眺めていた。
申し訳なさと不甲斐なさがありつつ、これはこれで幸せだと実感していた。
「自分から誘っておいてこんなんになってすまん。」
ズズーとジンジャエールを飲み干すとクリームソーダを飲んでいるニレイに謝った。
「ううん。むしろお陰で楽しかったよ!おばけ屋敷は怖がってナンボだもんね!」
なおも楽しそうにしながらニレイは笑った。
「・・・そういえば、」
リュートはせめてものできることをと、二人の飲み物のカップを捨てるとベンチに戻って聞いた。
「ん?」
「ニレイはどうして花成博士のところにいるんだ?」
「んー。」
ニレイは少し考えていた。
「ほら、ナナミクやキュウカみたいに事情があってとか・・・」
言いかけてリュートはハッとした。
もしかして言いづらいことを聞いてしまっただろうか。
リュート自身、パートナーだと思っていた女性に捨てられてしまったこともあり、花成博士のもとに集まるアンドロイドは何か深いワケアリのものが多い気がしていた。
というより、普通の施設では救えないアンドロイドが訪れる最終防衛線のような場所が花成博士の研究所なのだった。
「ご、ごめん、聞いちゃいけないことだったか・・・?」
「ううん。大丈夫!そのうち分かるだろうから。どっちかというとどういうふうに言うべきか悩んでるだけなんだけど・・・」
そう言ってニレイは自分のことを話し始めた。
その内容にリュートは衝撃を受けた。
なぜなら、ある意味リュートやキュウカ、ナナミクよりももっと絶望的な状況だったからだ。
「なっ、そんなこと・・・」
話を聞いてからリュートは衝撃で立ち上がった。
ニレイの明るい笑顔の裏にはとてつもない暗いセックスアンドロイドの闇があったのだ。
リュートやナナミク、否、一般的なセックスアンドロイドのトラブルとは違って、
今の進んだ科学技術の基準からは考えられなかったが、事実なのだろう。
「まぁ、みんなも大変だしね。それに今が幸せだから私は気にしてないよ!」
「でも、じゃあ、どうして花成博士のところにずっといるんだ?た、例えば他の男や他の場所に行ってもいいだろ?」
「ううん。だからこそ花成博士のところにいたいの。あのね、」
ニレイは何かを決心したような顔で立ち上がった。
「私、花成博士のことが好きなの。」
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