第38話「3人会議」

それからというもの、リュートは花成博士の会社兼研究室へとよく足を運んだ。


表向きは定期メンテナンスや検診を行うという名目だったが、実際にはニレイに会いにいくためだった。


やがて、ニレイや花成博士だけでなくナナミクやキュウカ、ときおり訪れる他のアンドロイドたちとも話すようになった。




花成博士のことを頼るアンドロイドや企業の絶大な信頼を見ているうちリュートは花成博士のことをすっかり見直していた。


この人なら信頼できそうだ。




ある日、修理してもらい、リュートの体には特に異変もなくメンテナンスの必要性がないことを聞きつけたナナミクやキュウカにニレイのことが気になり始めているのを感づかれた。




「アンタ、ニレイのこと好きなんでしょ?」


ニヤニヤと悪戯いたずらな笑みを浮かべるナナミクは得意げだった。


なぜならナナミクが花成博士のことが好きなのを隠しきれていないのを、いつもキュウカやリュートにからかわれているからだった。


今度は自分の番だと意気込んでいた。




「な・・・わかんねぇ。」


最近はすっかりナナミク達と馴染んでいたリュートはポリポリと頬をかいた。


リュートが生まれて初めての本当の友達だった。




「あっ、ごまかすんじゃないわよ!しばくわよ!」


「ごまかすなって・・・ナナミクが言う?」


キュウカはしらーっと横目で見た。




「うっさいわね!で、実際のところどうなのよ?」


「・・・だから、分かんねぇんだって!・・・俺の過去知ってるだろ。これが本当に好きって気持ちなのか。」


「あっ・・・」


ナナミクは黙ってしまった。


リュートの過去には女性に捨てられた思い出があるというのを忘れていたからだ。




「だから俺はこの気持ちが好きってことなのかも分からねぇし、好きだとしても怖いんだ・・・。」


「そうだねー。でも、だからこそ前に進まないと!」


キュウカが提案した。


さすが黒ギャル。驚きのポジティブパワーだった。


彼女もかつて、友人だと信じていた人と友人の好きな人を巡ってトラブルになった苦い思い出をニレイたちに救われた恩があった。


今、彼女が元気でいられるのはニレイたちに背中を押されたおかげで自分もリュートのためにそういうことをしたいと考えたのだ。




「お、あ、あんた良いこと言うわね・・・。」


ナナミクもフォローのできない自分のことをポンコツと思いながら感心していた。




「でしょー!えっへん!」


キュウカはどでかい胸をピンと張った。




「うざいわそのデカチチ。」


「え!?急にディスるじゃん!」


「そんなことより、リュート!前に進まないと!あんた、明日ニレイをデートに誘いなさい!」


「は・・・デート!?俺そんなことやったことないし・・・」


リュートはあたふたした。




「ふん、デートのその先を散々やってきたヤツがあたふたすんじゃないわよ!根性なしね!」


「確かにー。でも、私達は逆にデートしかしたことないもんねー。負けてるのでは?」


「うるさいわ。私と花成は清廉潔白な関係だもの。」


「え?お前ら処女なのか?」


「「うるさい。悪いかっ。」」


「いてっ!!!」


キュウカとナナミクは同時にリュートの頬を殴った。




「・・・とにかく。アタシ達が最高のプランを考えてあげるから。どーんと泥舟に乗った気持ちでいなさいよ!」


「大船ね。泥舟にどんどん乗ったらすぐ沈んじゃうよ。」


「・・・う、うるさいわね!そう、鉄板ギャグよ鉄板。漫画とかで何億回もコスられてきたネタでしょ!」


「具体的にどうすればいいんだ?」


ナナミクの苦し紛れの言いわけを無視してリュートは聞いた。


今はそれどころじゃなかった。


「ふん、作戦はね・・・」


コショコショと話している3人のことをニレイは遠くから「?」と見ていた。






数時間後、夕食のあとリュートに呼び出されたニレイは庭へ出ていた。


「おう、来たな。」


「あ、リュート、どうしたの話って?」


「ん、お、」


「お?」


「お・・・」


「おお?」


「お前に!申し込む!あ、明日・・・俺と・・・」


「明日?」


ニレイは未だ頭に「?」が浮かんでいる。ひょっとして昼間に3人が話していたのはこれなのだろうか。




「あのバカ・・・!壊れたアンドロイドか!」


物陰からこっそり見ていたナナミクは悪態をついた。


「まぁまぁ。きっとうまくやれるってー。」


同じく物陰から見ていたキュウカがなだめる。




「俺と・・・デ・・・」


「デ?」


「デ・・・出かけよう。し、市勢(しせい)調査だ。アンドロイドの。」


「シセイチョウサ・・・?んー、いいよ!」


「本当か!」


思わずリュートはニレイの手をぎゅっと握っていることに気づき、飛び退いた。




「す、すまん・・・!」


「いいよ、全然!じゃあ、また明日ね!」


リュートは天にも昇る思いだった。


これが・・・恋か・・・!

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