第27話「花成のいない日」
「ニレイちゃんおはよー!・・・あれ?花成は?いつも一緒に登校してるよね?」
「花成ですか?忌引きで本日は休みです。黒い服の方々が数人付き添いでいらっしゃいました。」
花成が手紙を受けとった次の日、通とおるが登校中のニレイに声をかけてきた。
朝、花成は数人のボディーガードと一緒に実家へと戻ったのだった。
実家である翠石峰家のボディーガードとのことだったが、花成は明らかにその対応を嫌がっていた。
「忌引き?花成の家族ってこと・・・まさか・・・!」
通は何か思い当たる節がありそうだったが、すぐに口をつぐんだ。
「通。何か知っているのですか?」
「え?ああ・・・いや。そ、それよりさぁ、ニレイちゃんと二人きりで登校できるなんて幸せだなぁ。これから毎日花成抜きで登校しちゃう~?」
「・・・二人きり・・・。他の生徒もいますが・・・。」
「あ、ああ。そうだよね。てか、冗談だから・・・。」
「?」
苦笑いする通は何か隠そうとしているようだったが、ニレイにはよく分からなかった。
「そういえば通は昔から花成のことを知っているのですか?」
通はこれ以上の情報を言おうとしなかったのでニレイは話題を変えた。
そういえば、花成抜きで通と話すのは初めてだった。
通はいつも誰とでも仲良く話していて女子とも二人きりで話していたが、ニレイとは絶対に二人きりで話すことはしてこなかったように思った。
それは花成がいる、いないに関わらず、通自身の問題のように見えた。
「俺たちは昔から親友だったからな。とは言ってもライサちゃんよりかは花成と出会ったのは後だな。
ライサちゃんは幼稚園の時で、俺とは小学校からだからちょうど入れ替わりだな~。」
「花成はどんな人間だったのですか?」
そういえばライサと花成は幼馴染だと言っていたのをニレイは思い出した。
「どんな人間だって?花成を見たら分かるだろ?」
「・・・優しくてお人よし?」
ニレイは花成のことを思い出しながら言ったが、通は吹き出した。
「そうそう。アイツ、昔から困ってる人をほっておけないからさ。」
「・・・・・・。」
通がそう言っているのを聞きながらナナミクやキュウカとの出来事だけでなく、未来でも同じようなことがあったことをニレイはぼんやりと思い出していた。
花成は道行く老人の荷物を持ってあげたり、泣いている迷子を助けてあげることなんかいくらでもあった。
彼の優しさと高潔な精神に日々近くで触れていたような気がする。
ただ、どうしても重要な部分が抜け落ちてしまっている感覚がある。
学校が終わった後、ニレイはライサと落ちあい、三繰がバイトしているカフェにいた。
「はー、花成おやすみかー。会いたいなー。」
ライサがクリームソーダをがぶ飲みしながらため息をついた。
カフェはいつも以上に空いていて2人しかいなかった。
「はい。これ、オーナーから差し入れ。」
バイトしている三繰は2人の机にケーキを置いた。
「三繰先輩!良いの?これウルトラハイパースペシャルベリーショートケーキコンプリートエディションじゃん!」
「うん、今日はお客さんも少なくて売れ残っちゃうだろうからって。そういえばさっき聞こえたけど花成君はお休みなの?」
シックなウェイトレス姿の三繰はにこっと笑った。
三繰は最近、掛け持ちしていたファミレスのバイトをやめ、こちらのバイトに集中していた。
そろそろ受験勉強に集中する時期が来ていた。
「ええ。お父様がお亡くなりになったとかで。」
ニレイはケーキの御礼を言った後、三繰に伝えた。
「お父さんが?それは心配だね。」
「そういえば、花成の家族の話って聞いたことなかったよね。誰か知ってる?」
ライサの問いに誰も答えられなかった。
なんとなく答えたくないような雰囲気があったので誰も花成に家族のことを聞けないでいた。
「あ・・・花成のお姉さんという方に会いました。」
ニレイは花成の家に手紙を渡しに来た紫色の髪の美女の話をした。
「か・・・花成のお姉さま・・・!」
その話を聞いてライサの顔が輝いた。
おそらく花成の姉、八美ヤツミに挨拶しようと思ったのだろう。
基本的にライサは気持ちがダダ漏れだった。
その時、カランと鈴が鳴り、カフェの扉が開いた。
「いらっしゃいませー、あ、通くん!」
三繰は入ってきた通に声をかけた。
通は珍しく真剣な表情をしていた。
「どうしたの通先輩。珍しく神妙な顔しちゃって。真面目な顔なんて微塵も似合わないよ。」
ライサがショートケーキにかぶりつきながらナチュラルにひどいことを言った。
通はその言葉には反応せず、つかつかと歩み寄ってきて三人の顔をかわるがわる見た。
「みんなは花成のことが好きか?」
唐突なその言葉にライサはショートケーキに顔を突っ込み、三繰は持っていたティーポットを落としかけ、ニレイは椅子からずり落ちかけた。
「な・・・な、なによ急に。」
ライサがショートケーキから顔を上げ、生クリームまみれになりながら通に聞いた。
「そ、そうだよ。おかしいよ。」
三繰も顔を最大限まで赤らめていた。
「あ、そうだよな。スマン。意味わからんよな。」
通自身もなんだか混乱しているらしく、頭を掻いた。
「通。花成がどうかしたのですか?」
ニレイは冷静に向き直ってきいた。
「ああ、どっから話したもんかな。そうだ、ニレイちゃんは花成のお父さんが亡くなったって聞いただろ?」
「ええ。花成が手紙を読み上げていましたから。ですが、花成のお姉さまは『悲しくない知らせ』だと言っていたのが引っ掛かりました。」
「うん。変だよな。親が亡くなったっていうのにそんな会話を姉弟でするなんて。でも、実はそうともいえないんだ。花成とヤツミさんは父親は一緒だが、お母さんが違うんだ。」
「ふーん、腹違いってやつね。まぁ、そんな珍しくはないじゃないの。」
ライサはそう言ったが、とはいえ、姉も花成争奪戦に加わったら厄介だと思った。
「まぁな。花成のお父さんは、翠石峰家っていう超超名門というかまぁ貴族みたいなところなんだけど、花成のお母さんはな、まーいわゆるあれだ。愛人ってやつなんだよ。」
「あ、愛人・・・」
三繰にはその響きは刺激的すぎたようだ。
「ま、まぁ、それも金持ちならよくあるわよね。知らないけど。」
一応、ライサは平静を保とうとしていたが、もうよく分からなくなってきていた。
「つってもな、花成も別にそんな超超超名門ってところも気に入ってなかったし、結局は花成のお父さんは花成のお母さんを捨てたんだ。精神的に参ってたのもあって花成のお母さんも早くに亡くなっちまったしな。だからめちゃくちゃ恨んでた。それでも花成は優しいから、一応父親だしってことで葬式には出ることにしたんだ。急病らしかったしな。」
「流石ですね。花成。」
詳しいことは分からなかったが、ニレイは花成が家族のことを話したがらないようすから複雑な心境だったのだろうと予想できた。
それでも、葬式に呼ばれたら行くというのは花成っぽいなと感じた。
「で、重要なのは実はここからなんだ。」
「何よ?早く言いなさいよ!」
ライサが通の首をつかんだ。
「おいおい!待て待て!ちゃんと話すから。
本当は花成から言うなって言われてるんだが・・・。
親友だからこそ、話すべきと思ってるんだ。
・・・でな、花成しか男の後継者はいないわけなんだが・・・遺産を相続しろという話になっているわけだ。」
「ふーん、なるほどね。その話は手紙にも書いてあったんでしょ?ニレイから聞いたけど、何?
遺産相続でもめてるとか?そっちのほうが良くある話よね。」
素早くケーキを食べ終わったライサがズズと紅茶をすすった。
「まぁ、そんな感じなんだがちょっと変わっててな。遺言状に遺産相続しろと書いてあるんだが、なんと、花成と八美さんがお互い未婚だったら結婚して二人で遺産を相続しろと書いてあったってことだ。」
「えっ!?」
通の言葉に三繰は固まり、ライサは紅茶を吹き出した。
「花成が・・・お姉さんと結婚・・・?」
ニレイはライサの吹き出した紅茶を顔で受けながら茫然としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます