第25話「キュウカ」

時は未・来・に・さ・か・の・ぼ・る・。




キュウカはXXX-009というタイプで、市場では待望の黒ギャル型セックスアンドロイドだった。








もちろん、そういった性的嗜好の男性はもちろん、その明るくあっけらかんとした性格から女性からも友達代わりとしての需要が高かったのだ。








セックスアンドロイドは他の用途のアンドロイドよりも感情表現が豊かで、見た目や体の使い方から最高の技術が使われていたこともあり、既にユーザーの間では性的な用途以外の別の使い方がされていたのである。




何事もエロが絡むと進化は早いものである。








そして、キュウカも、とある女性のもとへ配達されたのだった。




アカナという名前のその女性はレズビアンなどではなく、むしろ男が大好きなストレートだったが、甘やかされて育ったお嬢様の出自からか自分勝手な性格のせいで友達がおらず、友達代わりとして、XXX-009を注文したのだった。








「XXX-009・・・だと、なんだかイマイチだなー。009だからー、んー、9・・・キュウ・・・あなたの名前はキュウカ!私の親友ね!」




アカナはドン、という効果音とともに初対面のキュウカに告げた。




「んー、キュウカね、おっけー!」




キュウカはキュウカでギャルのノリで軽く答えた。




「なるほど、これがギャルってやつなのね。私はアカナよ」




アカナは既に高校生になってしばらく経っていたがギャルとは無縁の生活だったので本物のギャルとは何かしらなかったが、何となくネットの知識で知っていた。












それからというものアカナとキュウカは友達として色々なところに出かけた。




甘やかされた結果、親にもドン引かれるほどのわがままに育ったアカナのことを、二次元的ギャルの心の広さでキュウカは受け入れた。








そして、キュウカがやってきて1年経ったころ、二人は親友となり、アカナはあることを打ち明けた。




「私、好きな人ができたんだ。」




「マジ!?誰?」




今流行りの未来パンケーキを未来タピオカで流し込んでいたキュウカは急いで身を乗り出した。




ギャルは甘いスイーツよりも恋バナが好き、というプログラミングでもされているかのようだった。








「実は、隣の家の人なの!」




アカナは顔を赤らめて恥ずかしそうに言った。




「えー!2年前に引っ越してきたっていう、あのお坊ちゃんの?」




相手はアカナと同い年で同じ大学に通う隣家の坊ちゃんだった。




確かに、女受けがよさそうなイケメンだった。








「そうなの。1年前くらいから話しかけられて仲良くなって・・・。キュウカ、応援してくれる?」




「もちろん!ダチの恋愛なんて応援しないわけがないじゃん!」




その日はアカナの恋バナで盛り上がった。








「そういえば、キュウカは好きな人とかいないの?」




ひとしきり恋バナが盛り上がったところでアカナはふと我に返って聞いた。




「うーん、私はいないかなー。もともとセックスアンドロイドだし、恋愛感情はなるべく持たないようにプログラミングされてるってきくし。


情がわきすぎると不都合がなんとか、って製造工場で言われたけどよく分かんなーい。」




「えっ、そうなの?じゃ、じゃあ、そういう知識はあるってこと・・・?」




そういう知識とはもちろん性知識のことである。








「もっちろん!任せて!男を悦よろばせる術すべはメインプログラムに叩き込まれてるから!まぁ、経験はないんだけど。」




ペロ、とキュウカは舌を出して力こぶをつくってみせた。








それから1か月が経った頃、家の近くで何とキュウカはその隣の家の坊ちゃんに声をかけられた。




「キュウカちゃん、だよね?アカナちゃんからいつも聞いてるよ。ちょっと話があるんだけど・・・。」




「え?何?」




キュウカは何故アカナじゃなくて自分に声をかけたのか分からなかった。




よくアカナといるところは見かけたが、一度も話したことはなかったのだ。












「好きです!付き合ってください!」




近くの公園で坊ちゃんはキュウカに手を差し出した。




「わ、わたし?アカナちゃんじゃなくて?」




びっくりしてキュウカは手に持っていた未来タピオカを落としかけた。












「そうなんだ。1年前に初めて見た時からずっと気になってて・・・。アカナちゃんからも良く話を聞いててどんどん好きになったんだ。」




「ありがとう・・・。でも、どんなところが良いなと思ってくれたの?」




「顔ももちろん好みなんだけど。じ、じ、じつは、ぼく、エロいコが大好きで、特に君みたいな素敵な性格の黒ギャル、人間ではいないと思うし、セックスアンドロイドなら全部が叶えられるだろ?」




「あ、あははー。そうなんだ・・・。」




基本引かないキュウカも流石にドン引きだった。




「でも、もちろん、アカナちゃんから聞いてる性格もすごい素敵だと思ったんだ!僕も超お金持ちだからね君のモデルくらいは何体も買う余裕はあるんだけど。君が良いと思ったんだ。」




それを聞いてキュウカは親友の顔が思い浮かび、決心した。








「うーん、ごめんね。私、人を好きになるとかよく分からないから・・・。それにあなたのことを好きな人が身近にいると思うよ。」




「・・・そっか。」




「うん、ホントごめんね!」




「いや、でもいいんだ。答えは何となくわかってたから。・・・そういえば、僕のこと好きなのってアカナちゃんのこと?」








「え、あ、そのー。・・・うん。てか知ってたの?」




「まぁね。さすがに僕だってわかるよ。あまりにもあからさまだもん。でも、友達ならいいけど、付き合うのはちょっとなー。」




「アカナのこと嫌なの?可愛いじゃん!」




親友だからというのもあるがキュウカはアカナのことを美人だと思っていた。




「うーん。まぁ、見た目じゃないんだよな。だって、アカナはすごくわがままじゃないか。」












「はは・・・。」




いつも話を聞いている限りだと、わがまま加減はアカナも坊ちゃんもどっちもどっちだと思ってさすがのキュウカも苦笑いしか出なかった。








「で、でもさ!なんだかんだ言っても私は2人のことをとってもお似合いだと思ってるよ!」


キュウカは坊ちゃんに近づいて肩をポンと叩いた。




「そ、そうかな・・・。」




ぷるん、と制服の中からでも分かるくらいに大きく弾むキュウカの巨大な胸に目を奪われながら坊ちゃんは答えた。








それから二人は公園でアカナのことについておしゃべりしていた。




「そうそう、わがままなんだけど可愛いところがあってさー。」




「ああ、確かにあのときなんか・・・」








そんなふうにアカナのことについて笑顔でしゃべくっている二人の姿を少し離れたところで一人の女性がにらみつけていた。




そう、キュウカの持ち主であり親友のアカナが少し遅れて帰ってきて2人のことに気づき、見ていたのだった。




挿絵(By みてみん)




「ふぅ~、もう夜か。ひと仕事終えたぜ。やれやれ。」




何とか、坊ちゃんがアカナに告白する流れをつくりだしたキュウカはおっさんくさい喋り方をしながら家に帰った。




日は暮れ、アカナは帰っているようだった。








「ただいまぁ~。あれ、誰もいないの?」




いつもはアカナのお母さんがひょっこりと顔を出すのに誰も出てこないことに気づいた。








「おや、帰ってきましたね。待ってましたよ。君がキュウカ、いや、XXX-009だね。」




お母さんの代わりに黒服の知らない男が数人顔をだした。




「え?そうだけど・・・。おじさん、誰?」




「申し訳ないが失礼するよ。」




そういうと男たちはキュウカを縄で縛り上げた。








「ちょ、何するの!?」




「・・・やっと帰ってきたわね。キュウカ。」




慌てるキュウカのもとにアカナが顔を出した。








「ちょっとアカナちゃん!この人たちだれ!?」




「あばれないで頂戴ちょうだい。この人たちはちゃんとした人達よ。セックスアンドロイドの高級不良品回収サービス。あんたを破棄してもらうのよ。」




「破棄!?どういうこと?」




キュウカは縄をほどこうともがいた。








「ふん。良くもしらばっくれて・・・。私の好きな人を奪った罪よ!アンタは持ち主の意志に反して勝手に動く不良品よ!ふ・りょ・う・ひ・ん!!!」




最後のほうは叫ぶようにアカナが冷たく言い放った。




「そんな・・・私はアカナのために・・・」




「うるさいわね!アンタなんかどっか行っちゃいなさいよ・・・アンタなんか・・・アンタなんか友達じゃない!この淫乱ロボットめ!」




アカナは泣きながらも話を聞こうとしなかった。




「アカナ・・・」




「さぁ、オジサマたち連れて行って!」




その言葉で再びキュウカを男たちは縛り上げた。




「さ、そういうことだ。気の毒だが、アンドロイドには最低限の人権はあれど、破棄されるのは食い止められないんだ・」




「イヤ!変なところ触んないでよ!放して!」




そう言うと、キュウカは持ち前のパワーで男たちを吹き飛ばした。








「ぐぁぁぁ!」




「なんて力だ・・・!」




吹き飛んだ男たちはアンドロイド用の縄がほどかれたことに驚いていた。




「キャアッ!」




その時、アカナの悲鳴が響いた。








「あっ、ごめん・・・。」




「痛い・・・。」




キュウカが弾いた縄がアカナの頬に当たり、少し切れてしまったのだった。








アンドロイドには流れていない、本物の血がぽたりと流れた。








「わたし・・・わたし・・・アカナのこと親友だと思ってるから!でも・・・捕まるのは・・・ごめん!」




パニックになりながらも、キュウカはそう言って玄関のドアを開け走っていった。












「アカナ!どうしたの!悲鳴が聞こえたけど・・・。あら、血が出てるじゃない!あのアンドロイドにやられたの!?警察呼ぶ!?」




悲鳴を聞いてアカナの母親が出てきた。




手塩にかけて育ててきた自分の娘が、けがをしているのを初めてみたので気が動転していた。




アンドロイドが起こした傷害犯罪は人間の傷害犯罪よりも罪が重い。




どんな理由があろうと、基本的には廃棄処分。




つまり、アンドロイドにとっての死刑だった。




つまり、警察を呼ぶということはキュウカの廃棄処分を意味しているのだった。




「・・・ううん、いい。でも・・・あいつとは絶交よ。」




母のそんな提案を聞かず、アカナは頬を抑えながら自分の初めての傷を抑えていた。




キュウカのことは自分の決めたことなのに、アカナは悲しくて自分が号泣していることに気づいた。




彼女のことを許せない気持ちがありつつも、心のどこかで逃げてよかったと思っていることにアカナ自身は気づいていなかった。












「どうしよう・・・。」




家を飛び出したものの、キュウカはどうすればいいか分からなかった。




着ていた制服は破れ、どこもかしこも肌が露出してしまっていた。






このままでは通報されるか事件に巻き込まれるのも時間の問題だった。








その時、懐中電灯の光がキュウカを照らした。




「君!大丈夫かい?」




「誰・・・?」




「私かい?私は・・・。」




そう、それはたまたま通りがかった未来の花成博士だった。






それから事情を知った花成博士にキュウカは助けられ、ナナミクとニレイと本当の友達になった。


やがて、キュウカは優しい花成博士のことが好きになったのだった。




もちろん、その感情に至るまでには諸々あったが、それはまた今とは別の話だった。








再びキュウカの意識は現代に戻ってきた。




花成、三繰、キュウカはまだ洞窟にいた。


花成は、とりあえず男Aたちをそこにあった縄でしばってみた。




「よし、とりあえず警察にも通報したし、俺らはトンズラしよう。満潮前には来るだろうし。」




「うん。・・・怖かった・・・。」




三繰も水着を直し、立ち上がった。












「アカナどうしてるかな・・・。」




キュウカはひとり呟いた。




今思えば、アカナをはじめ、回収屋の男たちにも怪我をさせたにもかかわらず、警察に通報されなかったのは彼女の優しさなんだろうか。








でも、最後に見たアカナの悲しい顔の中にあった恐怖の表情が忘れられなかった。




「バケモノ。」




そう、あれば人間と似て非なるバケモノを見る目に違いなかった。








「花成も怖かったかな・・・。」




三繰を助けるためとはいえ、成人男性の数倍もの力を持つキュウカに恐怖を感じてはいないだろうか。




そんな風に思った瞬間、花成が歩いてきた。








「キュウカ!」




ビク、とキュウカは震えた。




やっぱり、花成も私には近くにいてほしくないのだろうか。








「な、なに?いやー、あはは。やっちゃったね。ぶっ飛ばしてやったぜ。私強いからね~ほら、花成も近くにいたら危ないかもよ?」




柄がらにもなくキュウカは作り笑いしながら力こぶをつくってみせた。








「何言ってんだ!すごいよキュウカ!お陰で助かった!」




キュウカの予想に反して花成は目をキラキラさせていた。








「え・・・あ、そう・・・?」




「私もキュウカちゃんのお陰で助かった!ありがとう!私・・・怖かったから・・・。」




三繰はそういうと泣きながらキュウカに抱きついた。








「うん。良かった・・・。」




少し驚きならもキュウカは三繰の体を抱き返した。




キュウカはここでなら、本当に人間の友達ができるのかな、と思うのだった。

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