第3話「花成少年」

「ありがとうございます。花成かなり博士。」




花成のTシャツと半ズボンを着たXXX-002は無表情のまま礼を述べた。




華奢で細身のXXX-002は体型的には花成の服はだぶつくはずだったが、豊満な胸部のお陰でむしろ、前のほうは少しへその部分が見えていた。




恥ずかしかったが、パンツを履かせないわけにもいかず、最近買ったばかりでまだ履いていない自分のパンツを履かせた。








「・・・それで、きみはなぜ過去の僕のところに来たんだよ。」




先程のやりとりで疲労困憊した花成は少しムスッとしながら言った。








まだ、花成はXXX-002の首から下を直視できなかった。




結局、ブラジャーをつけていないため、いろいろなものの形が顕になっていた。




かといって、ブラジャーを男が買いに行くわけにもいかず、とりあえず、Tシャツを着せることでOKとすることにした。








「それが・・・わからないのです。」




「え、分からない?」




「はい。花成博士。」




「でも、きみはその未来の僕に言われて来たって言ったじゃないか。」




花成は少し責めるような口調になってしまったことをすぐに後悔した。




「すみません。」




「い、いや、謝らなくていいけど・・・。ごめん。」




少しの間重たい沈黙が流れた。








「・・・どうやら、タイムトリップした際に一部のシステムにエラーが起きたようなのです。




” セックスアンドロイド ”の知識や情報、そして私が未来のあなたにつくられて過去の自分に向けて送られたこと、それ以外は何も思い出せないのです。




まったくもって全てが分からないというより、タイムトリップの原理や未来の世界情勢など知っているはずなのですが、もやがかかったようで・・・。




私がここに来た目的もそんな感じで・・・。」




「なるほど。・・・このさい、未来からやってきたことに関しては一旦信じることにしよう。」




とはいいつつ、花成はまだ半信半疑だった。








「仮にじゃあ、未来の僕がつくったとして、それを過去に送ったとしてもその理由が分からないじゃないか。




その・・・セ・・・そういうことをするためのアンドロイドなら、過去の自分じゃなくて自分で楽しめばいいのに・・・。




それとも未来の地球に危機が迫ってて過去の僕しか救えないとかだったら・・・え、こんなことしてる場合じゃなくない?」




先程まで初めて見る大人の女性の裸にドギマギしていたが、よく考えれば、タイムトリップしてきたアンドロイドなど、




今の時代に無いものばかりでそのスケールの大きさに気づいていたなかった。








「マズイ・・・えーと、どこにこのことを言えばいいんだ・・・?自衛隊・・・警察・・・アメリカ宇宙軍・・・?」




SFのような話をして、あたふたする花成を見て不思議そうな顔をしながらXXX-002は言った。




「うーん、でもそこまでの規模の話でも無かったような。・・・・あったような・・・。」




「おいおい、どっちだよ!でも、そうだよな。仮に僕がその・・・セ・・・アンドロイド研究の第一人者だったとしても自分に送るのは違うよな、 直接そういう組織に送れば良いわけだし・・・。


SF好きだけどなぁ~、自分がその状況に身を置かれると何も考えられないし、そんな嬉しくない・・・。」




花成はため息をついた。




「・・・ただ、そういうところに君を差し出しちゃうと、分解されたりするのかな・・・じゃあ、その話は無しだ・・・。」




「ちなみに未来の花成博士から過去の花成博士へのプレゼントということは考えられませんか?」




XXX-002が思いついたように言ったがどうやら思い出したわけではないようだ。




「プレゼント?」




「はい。私は男性方、ことによっては女性も愉しませるために開発されているアンドロイドです。


そのため、最も考えうることとしては未来の花成博士が過去の花成博士へ、性的欲求を満たすためのプレゼントとして送られたというのが


最も現実的かと。」




「・・・まじか。ということは未来の、え、50歳近い僕はまだ独身で欲を満たすためにアンドロイドを作って・・・。」




花成は絶望的な表情をしていた。




三繰みくりと結ばれるどころか、独りで性的欲求を満たすためのアンドロイドの研究をしているなんて。




「しかも、それを過去の自分にプレゼントとか・・・。いったいどういうやつなんだよ。死のう・・・。」




花成はがっくりと肩を落とした。涙が溢あふれてきた。








「大丈夫ですか?花成博士。どこか体調に不調をきたしているのですか?」




XXX-002はゆっくりと花成を抱きしめた。




「え?え?何?」


モニュ、と弾力があって柔らかいものが花成の体にあたり温かさがじんわりと伝わってきた・・・ってそういう場合じゃない。




「あ、違いましたか?こうすると男性は心が落ち着くはずなのですが・・・。プログラムを修正しておきます。」




「いやいや、そうじゃなくって・・・。うん、まぁ、ありがとう。もう大丈夫。」




花成は素早くXXX-002の肩を掴んで、自分から遠ざけた。




つかんだ肩は、大きな胸にたいしてやけに細く華奢に感じた。




「てか、その花成博士ってのやめてくれないかな。未来のことは僕にも分からないけど、とりあえず今は博士じゃないから!」




「ええと、それでは。花成・・・少年。」




「それも何かおかしいんだよなぁ!」




「それでは何と?」




「ううん・・・花成でいいよ。友達にもそう呼ばれてるし。」




”ハナ君”は三繰にしか呼ばれたくなかったので教えなかった。




「花成、これからよろしくお願いいたします。」




XXX-002は深々と頭を下げた。




貸したTシャツがぶかぶかなため、魅惑の谷間がTシャツの奥に見えてしまった。


Tシャツの陰になって少し暗くなっているなかに見える、透き通るような白い肌に花成の視線は釘付けになった。






「い、いいよ!そんな・・・とりあえず、僕は君を未来へ送り返す方法を探す!


だから、君は自分が何故、未来から過去の僕に送られてきたのかを思い出すようにしてくれ。」




「はい、花成。」




「なんか・・・初めて会った人にいきなり名前で呼ばれるのって緊張するなぁ。」




「では、やめますか?花成博士。」




「・・・いや、花成でいいです。」




はぁ、とまたしても花成はため息をついた。




「全く君は・・・というか、君の名前は?」




「私ですか?私は高感度コミュニケーション型自律式アンドロイドXXX-002です。」




「いや、そうじゃなくって!名前は?」




「私は高感度・・・」




「固有の名前ってこと!」




「固有の名前・・・。ああ、そういうものを所有者につけてもらう"セックスアンドロイド"もいますね。私は・・・すみません、思い出せなくて・・・。」








「うーん、でも”君”とか”XXX-002”じゃなぁ・・・」








ふと、その辺に置いてあった漫画雑誌の表紙が目に入った。




表紙にはニレイという名のグラビアアイドルが水着で、体を強調したポーズをとっている。


やれやれ、何故少年雑誌の表紙はこういったグラビアアイドルが多いのか。




そういえば、あのグラビアアイドル、道が好きな子だったけな・・・。




どことなく目の前のXXX-002に似てなくもない。




本名ではないらしいが、変わった芸名だったので覚えている。


確か ”白美浜しらみはま ニレ” という名前だったはずだ。




もともとコスプレイヤーらしく、好きなゲームの主人公、ニレからとったらしい。




花成はやったことはないが、アンドロイドの女性主人公が、人類の敵となったアンドロイドの仲間たちを裏切って人類を救うため戦うストーリーらしい。








XXX-002・・・そういえばxxxってキスって意味のスラングだったよなぁ。




キス、ゼロゼロツー、キスツ・・・




002ってレイレイニとも読める・・・ニレ・・・。








「よし、決めた!君は今日から君津 弐零キミツ ニレイだ!」




花成は目の前の美少女にポ◯モンマスターのようにビシッと人差し指を向けた。








「かしこまりました。キミツ ニレイですね、データ登録致しました。




どちらが名前でどちらが性でしょうか。」




「ニレイのほうだね。よろしく、ニレイ。」




花成は右手を差し出した。








「よろしく、花成。」




ニレイも右手を差し出し、2人は握手を交わした。

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