第2話



 時間は経ち、お昼休みになった。僕とミサキはお弁当箱を持って彼らのいる特別教室へと向かった。


 教室に入ると何かしら賑わっているようで、いつもの面々に加えて一人多いようだ。その顔も先日に見たので見覚えがあった。


「やあ、どうかしたのかい?」


 僕は白々しく訊ねるとカリンさんが勢いよくこちらを見た。


「センっ! どうかしたも何も、コイツが何故かいるのよ!」


 そう言って指差す方向を見ると、そこには白髪の少年がいる。整った顔立ちで、笑みを浮かべて楽しげに状況を見ているかのようだ。


「君は先日の能力者だね」

「どうも。こんにちは。トーマス・ノイヤーだ」


 彼はそう言って僕に微笑みかけてくれる。彼は僕が能力者だと知っているが、ソロモンの指輪でもあると理解している。だからなのか、この間の出来事に深く話をしてこなかった。


「サクラさんを誘拐したのにっ! 平気な顔して朝に転校してきたのよっ!」

「僕は普通の転校生だ。まだ右も左もわからないから仲良くしたいと思ってるんだけど」

「誰ができるのよ!」


 カリンさんの言うことは最もであり、誘拐犯が転校してきて仲良くしたいとは、疑われて当たり前の発言である。


「まあ、カリン。そんなにがならなくてもいいだろ」

「……フウマ」

「でも、仲良くできるかどうかで言えば俺にもできない」


 ホムラくんがトーマスを睨む。その視線に気が付きながらも、トーマスは笑みを崩さない。


 そもそも彼らの言い分は当たり前である。友達を誘拐した犯人が次の登校日に転校生として現れて、しかも部活にまでやってきて仲良くしたいと言っているのだから、信用する方がおかしなやつだ。


 重々しい雰囲気の中、リンヤが真剣な表情で口を開く。


「トーマスだったか? 聞きたいことがある」

「なにかな?」

「なんでここに来たんだ?」


 それは誰しもが気にする疑問。既に聞いていたと思っていた。


 すると、サクラくんが慌てたように口を開いた。


「それは、僕が話しかけたらトーマスが部活が気になるって、一緒にここまで来たの!」


 つまり、サクラくんが連れてきたようだ。そもそも、被害者のサクラくんがトーマスに話しかけにいくのも相当不思議な展開だ。


 しかし、拐われている最中に何やらサクラくんはトーマスと話し込んでいたようだし、サクラくんは拐われたことを気にしていない節がある。


「サクラちゃんが誘ったのか。そうにしても、なんで部活が気になったんだ?」


 リンヤは何でもないように尋ねて行く。この中ではユキムラさんのように冷静に見える。


「超能力を研究する部活なんて聞いたことないからね。僕は僕自身の能力をきちんと把握してないから興味があったんだ」


 さらっと嘘を吐くトーマスに少し呆れる。よくも自分の能力を把握してないなんて言えたものだ。


「よし、一緒に部活やろうぜ」

「……」


 リンヤの言葉にみんな唖然とした。唯一、ユキムラさんは睨むようにリンヤを見ていたが、本人は気が付いていない。まあ、僕は昨日の夢で見た光景なので驚きもしない傍観者なのだが。


「……本気か?」


 トーマスも驚いているように思わずそんなことを口にした。


「本気に決まってるんだろ。俺の部活に興味があるんだろ? なら一緒にやろうぜ」

「ちょ、ちょっとリンヤ!? コイツ、サクラさんを拐った犯人よ!?」

「そうだぞ、リンヤ。さすがに俺も賛同できない」


 カリンさんとホムラくんがリンヤに反対する。この二人は普通の人なら当たり前の反応である。僕が何も知らなければ反対していた。


「まあ、いいじゃん。サクラちゃんが連れてきたなら、サクラちゃんも気にしてないんだろ?」

「うん。気にしてないよ」

「それなら部活に勧誘して部員増やした方がいい。むしろ、名前だけでも籍を置いて欲しい。お願いします」


 途中から下心があるように頼み込むリンヤにみんなから呆れたようなため息が聞こえてくる。


 SPS部は活動内容の不透明、活動メンバー不足により生徒会から監視対象になっている。


 その監視委員であるユキムラさんも一時的に部員になっているようなので部員は五人。トーマスが加わると六人になる。


 うちの学校の部活規約だと部活メンバーは六人以上が必要になるため、彼が加わることで規約を満たすことができる。


 秋まで保留されている部室の強制退去を免れるのに一歩前進するわけなのだ。


 リンヤが必死に頼み込むのも頷けるわけだが、あえてトーマスを引き入れるのも考えものだ。


「僕も……。トーマスくんと一緒に部活したいかな」


 サクラくんがトーマスを見つめる。


「僕と君は……、ううん。は同じ運命を背負ってるんでしょ? そうしたら、僕は最期まで笑って幸せに過ごしたい」


 サクラくんは微笑みながらトーマスに伝える。同じ運命を背負ってる仲間に優しく語りかける。


「僕は君が背負ってる悲しみはわからない。どうして冷たいふりをしているのかも知らない。でも、これから一緒に笑い合うことができると思うの」


 これはサクラくんとトーマスにしかわからない話である。あの工場で話していたことの続きだ。


「つらいことばかりじゃない。過去ばかりじゃなくて、これから一緒に部活で楽しく過ごしたい」


 そう言って笑ったサクラくんは優しい笑みを浮かべて、もはや後光すらも見える。


「ね! みんなもトーマスくんと部活しようよ」


 そう言って問いかけるサクラくんは寛大で包み込むような温かさすら感じた。そんな彼に反対できる人はおらず、みんな静かに頷いた。

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