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第1話



 ミサキがソロモン計画の研究機関の観察派であるとわかり、それ以降に初めて学校へ登校する。


 ミサキが今までと違う態度を取るのではないか、心のどこかで不安な気持ちがあったが、夢の中で見ている限りでは不安になるのがアホらしかった。


「やっほー、ちー」

「やあ、ミサキ。変わらず元気だね」

「まあね!」


 教室へ入るといつものようにミサキが僕のところへやってきた。相変わらずの明るい表情で裏表なんて感じさせない。


 彼女についてはあまり気にしないことにしてもいい。それに聞きたいこともいくつもあるし。


「ミサキ、今日のお昼だが、リンヤのところに行こうと思ってる」

「お! 密会!?」

「密会なら伝えないだろ? それとミサキも来て欲しいんだが……」

「そんな楽しいところに誘ってくれるなら、もっちろん私はついて行くよ! 去年までは毎日話していた二人が今年度からは距離が出来てしまう……。意地らしい関係に見ている私も歯痒い思いだよ!」


 何を言っているのか、まるでわからないが、ミサキも付いてきてくれるようだ。僕は事前にサクラくんにメッセージを送っており、今日のA組に起きている事態について話を聞きに行くつもりなのだ。


「ミサキなら知っているだろ? 今日、A組にアイツがやってきた」

「おー! わかったけど、私はこのクラスで普通の子なんだから、そういう話はお口チャックでお願いだよー」


 ミサキの言葉に彼女が研究機関に属していることを秘密にしたがっているのがわかった。あえて口にすることはないが、遠回しに伝えれば伝わると思い話しているので、バレはしないと思っていた。


「まあ、気をつけるよ。それに君は思ってるよりもこのクラスで目立ってるから普通ではないと思うぞ」


 僕がそう伝えるとミサキは意外そうな顔をして首を傾げていた。疑問に思ってるようだけど、僕からしたら疑問すら思わない。


「それにしても、ちーの情報網は早いね。これもちーの特別な情報源から?」


 ミサキが嬉しそうに尋ねてくる。きっと僕が未来予知によって情報を得ているのか知りたいのだろう。


 彼女の知り得たことは研究機関へ報告が上がる。僕が未来予知の能力で情報を知ったと研究機関は知ることになる。


 それは観察派が未来予知の能力者が存在していると情報を掴むことになる。そもそも、ミサキがどこまで推測して研究機関へ報告しているかにもよるが、観察派はどこまで僕のことを知っているのだろうか。


「まあ、そうだね。僕の特別な情報源からだ。君は誰かにバラすつもりがあるのかい?」


 僕が探るように訊ねると彼女は楽しそうに笑った。


「あはは、そんなのどっちでもないよー。ちーが嫌なら言わないし、別に気にしないなら言うかも。私も同じ立場だからね」


 彼女の言う同じ立場とは、同じソロモンの子供として観察されている、という意味だろう。


 ミサキが報告するか否かをどっちでもないと言ったのは、その行動すらも観察対象なのだろう。


 観察派。ただソロモンの子供を観察するだけで特別に手助けすることはない。殺し合おうが、勝手に殺されようが、観察派は見ているだけだ。


 僕がミサキに接触しようが、ミサキから研究機関について尋ねようが、それですら観察対象。そこから僕がどのように行動するのかを見てみたいのだろう。


「あ、でも、そうするとお昼休みってそういう話だよね?」


 ミサキが思い出したように言った。お昼休みにする話について、僕がしようとしていたのはソロモン計画についてである。


「まあ、そうだね。僕が話すことに君は無関係ではない。普通の君なら関係ないのだけどね」

「んんー、どういう気持ちで聞けばいいんだろ。もういっそのこと話した方がいいのかなぁ」

「それは君次第じゃないかい? それすらも見ているつもりだろ?」


 観察派はミサキの行動すらも観察対象だ。観察派に所属する彼女ですらもソロモンの子供であるが故に観察する。何に巻き込まれようが、手助けするつもりはないのだろう。


「はてさて、ちーはどうしてほしい?」


 ミサキは僕の目を見て笑いかけてくる。


 その質問の意図が分からない。どうしたいのかはミサキ自身が決めることだと思っていたが、わざわざ僕に尋ねてくるあたり、何か求められている気がする。


 しかし、わからないのなら素直に答えるしかない。


「ミサキがどうしたいかで決めた方がいいんじゃないかい?」

「んー、だって、そこは私とちーの関係性によるでしょ? それにちーの情報次第じゃあ、私の協力が必要じゃない?」


 ミサキの言葉に僕はもう一度考えてみる。


 この後のことについて、アレが起きるのならミサキの手助けが必要になる。ミサキが必要だからお昼休みに呼ぶわけで、彼女の協力が必要かどうかであれば必要である。


「まあ、ミサキの協力が必要かな」

「ふんふん。それは友達として?」

「それは……。突然なんなのだい?」

「いやいやー。別に! ちーが私の言葉を覚えてくれていたのが嬉しくてね!」


 照れたように笑うミサキ。


 彼女が言っていた言葉はおそらくフタバさんと初めて会う前にしていた会話だろう。彼女もよく覚えていると僕は思った。


「ちーが私を信じてくれるなら、私もちーのことを信じてるからね。てれてれ」

「自分で照れていると言うのかい? バカらしい」


 ミサキの言葉に僕は目を逸らした。彼女は何故、僕にこうも味方でいてくれるのだろうか。

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