第2話
教室へ着くと、後ろの扉から中へと入る。
後ろから入ることに特別な意味はないが、前から入るよりも注目を集めないような気がしているからだ。
人から視線を向けられるのはあまり得意ではない。
苦手というほどではないものの、視線を向けられないのなら、向けてほしくないのだ。苦手な理由なんて思い当たらないが、あえて言うのなら両親の職業柄だろう。
そんなことはさておき、教室へと入るといくつかの視線がこちらを向いた。……まあ、このくらいなら許容範囲だ。それに朝礼までには時間があるため人も少ない。入ればそれなりに視線も集める。
その視線の中に僕の知っている顔を見つける。視線が合えば彼女はニカッと笑い、僕に手を振った。
その行為に恥ずかしげもないのは、僕にとってはとても恥ずかしかった。遠慮がちに手を振り返すと彼女は嬉しそうに微笑んだ。
重たげなボブヘアーの彼女から視線を逸らして、僕は自分の席へと座る。
リュックサックから教科書や筆記用具を取り出していると、目の前の席に先程の彼女がやってきた。
「おはよ、ちー」
「……おはよう、ミサキ」
僕は視線を彼女へと向けた。
重たげなボブヘアーに、目尻が下がった人当たりの良さそうな顔をしている彼女は、
僕のことを“ちー”と呼ぶ唯一の友人だ。
「恥ずかしがり屋なちーも可愛いよ」
彼女はキメ顔で僕の顔撫でようとするので、僕は頭を仰け反らせて避ける。
「なんだい、突然に。僕を口説いたって、なんにもならないだろうに。また頼み事があるなら、そんな口説き文句は必要ないよ」
僕がそういうと彼女はぷっと吹き出した。
「そんなつもりはないよ。私はちーが可愛いからそう言っただけだよ」
彼女は楽しそうに笑う。僕はそれを今日は欲求不満なのかと思い、怪しむように見る。
僕が可愛いかの議論になれば、それなりの容姿であると自覚しているが、朝っぱらから口説かれるような容姿でないことぐらいわかる。
それにこんなことを毎朝に言われているかと言えば、言われていないのだ。
「僕で良ければ相談にのるぞ」
「別に悩み事はないよ!」
僕は真剣に聞くと、彼女は勢いよく否定した。
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