第3話



 僕はミサキの悩みがないことを不思議に思いながら首を傾げていると、近づいてくる人物に気がついた。


「おはよう、センさん」


 僕をセンと呼ぶ声に、僕はいつもの日常を手に入れたような実感を得る。


 声の主へ視線を向けると、そこには豊満で、くびれていて、グラマラスな、長身の女の子がいた。とても魅力的なのだが、筋肉質で、髪の毛はボーイッシュと呼べるほどに短い。


「おはよう、マナカ」


 僕は彼女、真中まなか香織かおりに挨拶を返した。


「先日は相談にのっていただいて、ありがとうございました」

「いやいや、とんでもない。別に僕が出来ることをしただけだよ」


 彼女は物腰柔らかく、そして丁寧な口調で僕に軽く頭を下げた。僕はそれに両手を振って遠慮をする。


「その出来ることだけでもありがたかったですよ」


 彼女は微笑んで僕にお礼を言うので、少し得意げに感謝の言葉を受け取ろうと思う。


「ふふん。まあ、マナカのためになったら僕も嬉しいよ」


 僕がそういうと彼女はクスクスと笑う。


「お話の邪魔をしてしまって、すみませんね。またお話しさせてください」

「ああ、もちろんさ」

「では」


 彼女は軽く頭を傾げて、私から離れて行った。ミサキへと視線を戻すと、彼女はマナカの背中を見ていた。


「何かあったの?」

「まあ、ちょっとね。バレーボール部の相談でものってたのさ」


 ミサキの質問に僕ははぐらかすように答えた。彼女は僕の言葉に納得したように頷く。


「ああ。マナカさん、バレーボール部の副部長だもんね。三年生と問題があったって聞いたことあるかも」


 ミサキの言っていることは適切であり、僕がその相談に適当に答え、マナカがそれを元に的確な行動を取った。それにて、問題が解決したことである。


 つまるところ……。


「僕は何もしてないけどね」


 解決したのはマナカであり、僕ではない。


 そういうとミサキはこの話に興味を失ったのか適当な生返事で答えた。

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