第4話



 髪の毛を整え終えると、洗面所を後にする。廊下に出ると美味しそうな匂いがしており、僕は匂いにつられるように台所へ向かった。


「ばあちゃん、おはよー」


 そう言って台所へ入ると、白髪で背の低い老女が鍋の前に立っていた。


「おはよ、千歳。朝ごはん食べちゃいなさい」

「はーい」


 こちらを向かずに僕へ挨拶を返したのが僕のばあちゃん。名前は千代田ちよだ正子まさこである。


 僕に両親はおらず……というのは嘘で、僕の両親は海外で仕事しており、僕は父方の祖母に預けられた。今は二人で暮らしている。


 祖父はどうしたのかというと、三年前に亡くなった。


 両親と離れて寂しくないかと聞かれれば、なんとも言えない。昔は寂しかったような気もするが、今となってはこれが日常なので、僕にとって寂しいことはなくなった。


 僕は椅子に座ると、机の上に置かれたおかずを目にする。


「鮭かー」

「なんだい、文句あるのかい?」


 僕が呟くとばあちゃんは目を光らせてこちらを向いた。


「文句はないよー。美味しそうだってこと」

「そうかい。……それにしても、あんたいつまでパジャマなのよ!」

「食べたら着替えるよ」

「はぁ……まあいいか。ほら、ご飯とお味噌汁だよ」


 ばあちゃんは僕の前にご飯と味噌汁を置く。


「ありがとう、ばあちゃん。いただきます」

「はいはい。召し上がれ」


 ばあちゃんは口が悪い。それでも僕に優しく、あれこれ言うのも僕のためだとわかる。


「ばあちゃんも食べないの?」

「これから食べるよ。先に食べてなさい」

「はーい」


 僕はそう返事をして、箸を手に取った。

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