その味の違いって。

一色 サラ

その味の違い

 高校が休みの日曜日。自室で勉強をしていた高校1年の西口にしぐち 和樹かずきは、14時を過ぎたころ、小腹が空き始めた。部屋を出て、キッチンに何かあるか探しに行くと、お母さんと小学5年になる弟の亮太りょうたがリビングのソファの所にいた。

 お母さんの姿を見て、買い物を頼んでいたカップ麺を思い出して、和樹はいつもカップ麺を入れている棚を開けて、探すことにした。

 「ねえ、トン平のきつねうどんは?」

 知樹は、キッチンの棚には、なかったので、リビングにいるお母さんに聞いた。

「えっ、何が?」

 ソファでスマホをいじっていた顔をこちらに向けて、キッチンの方を見た。

「頼んだカップ麺のことだよ。朝、買い物に行ったんでしょう。」

「行ったわよ。あんたが、今、待っているじゃない。」

和也は手に赤いきつねを持っていた。

「えっ、違うよ。僕が頼んだのは、トン平のきつねうどんだよ。これは、赤いきつねのうどんだよ。」

「味なんて、どこも一緒でしょう」

「違うでしょう」

「もう、お兄ちゃんもお母さん、うるさい。テレビの音聞こえないですけど。」

さすがに、お母さんはソファから話して、和樹はキッチンの所から話していたので、うるさいかったのだろう。亮太はこちらを見ることもなく、テレビを凝視している。

 和樹は仕方がないので、お母さんの買い間違いの赤いきつねを食べることにした。不快だが仕方がない。いつも和樹は自分でカップ麺を買っていた。今日、買い物に行くと聞いて、お母さんに頼んでしまったことが悪かった。

「食べればいいんでしょう。」

和樹は、不貞腐れるように小声で言って、キッチンあるケトルに水を入れて、不機嫌な気分でスイッチを入れた。カップを線までフタを開けて、何なんだよと買って来てほしい商品が違って、苛立ちは募っていく、

 カップの入っている調味料を取り出す。中に黄色の物体が入っていた。いつも買っているトン平には入っていない卵があって少し驚いた。

ケルトが沸騰して、パンッとスイッチが切れた音がした。調味料を入れて、お湯をカップに注ぐ。

お母さんたちのいるリビングのテーブルで食べるのがしゃくで、そのまま、自室に戻って食べることにした。

 カップのフタを開けて、とりあえずスープから飲んだ。濃厚な昆布の濃い味が染みこんでくる。お揚げを一口食べる。お揚げに味が染み込んでいて、おいしかった。麺を注ぎ込む。少し歯ごたえがあった。後味まで濃さが残った。


食べ終わって、キッチンに行くと、お母さんがいた。

「どうせ、カップ麺なんてどれも同じだったんでしょう。」

お母さんが言う。

「まあ、赤いきつねの方が、味が濃いかもしない」

「へえー、そういうもんなの。」

お母さんは、そう言って、ベランダに洗濯を取り込みに行った。

まあ、いつもと違うカップ麺を食べるのもいいかもしれない。それから、赤いきつねをよく食べるようになった。

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その味の違いって。 一色 サラ @Saku89make

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