第27話 あなたの為に
「おはよう奏多君」
いつもの部屋で。
裸のままの怜が俺を起こす。
昨日も、彼女は部屋に泊まっていって。
俺は彼女を抱いた。
「おはよう、怜。うん、つかれてたのかな」
「あはは、昨日も激しかったもんね奏多君。ほんと、えっちだなあ」
「……」
やがて下着姿になって、それでも無防備なままうろうろする怜を見ていると朝からムラムラしてしまう。
ただ、さすがに学校に行く前からはまずいだろうと俺も服を着る。
すると、朝から彼女がキスをしてくる。
「んぅ……えへへっ、しちゃった」
「したくなるからやめてくれよ」
「ならしたらいいのに。私はいつでもどこでもいいよ? 奏多君が望むなら」
「……」
もう、こいつがストーカーだったとかそういう話は気にならなくなってきたけど。
不思議なのはどうしてここまで俺のことを好きでいられるか、だ。
話したことも無かった相手にここまで惚れこんでいるのなら一層意味不明だし、俺の記憶が欠損してるにしても、その間に一体何があったらここまで俺に陶酔できるのか不思議だ。
そう、不思議なことばかりだ。
まだ、謎は多く残る。
「ねえ、奏多君は私のどこが好き?」
「え、ええとそれは」
「ねえ、どこがすき?」
「……可愛いところ、とか」
「とか?」
「……俺を好きでいてくれるとことか」
「とか?」
「……料理もうまいし」
「うん、よかった。ちゃんと好きなんだね、私の事」
よく言えました、と。
俺にもう一度キスをしてから彼女は制服に袖を通し。
そのまま玄関に向かいながら、振り向きもせずに言う。
「そうそう、他の女の子と喋ったらペナルティだからね」
◇
「おはよう、綾坂さん」
「おはよう綾坂さん」
登校すると、いつものように怜のところへ女子が群がる。
ただ、今朝の言葉もあって俺はそそくさと席に逃げる。
ペナルティとは。
その意味を彼女に訊いても答えてはくれず、「どうしたの、もしかして他の女の子と話したいの?」と詰められる始末。
だから理由はわからないが、多分嫉妬なのだろうと想像はつく。
この手のタイプの女は、他の女子と話すことを必要以上に嫌う。
浮気防止には正しい判断なのかもしれないが、しかしクラスの半分の人間と一切話せないというのはいささか不便である。
「……」
授業が始まるまでの間、警戒心を強めながらじっと席で本を読んでいた。
中学までの時なら、やはりこんな時間にだって無数の女子に囲まれて、毎日お祭り騒ぎだったのだから、警戒もする。
ただ、今は不思議と誰もやってこない。
話しかけるどころか、見向きもされない。
……ホッとする反面、やはり不思議だった。
やっぱり、彼女がいるってなると反応はこんなものなのかな。
とか。
怜に悟られたら殺されそうなことをぼんやりと考えながら一日を過ごす。
学校では、怜も他の友人と会話することが多く、俺はあいつに声をかけられない限り、基本的に寂しい時間を過ごす。
時々、俺の方から男子連中に声をかけてみるけどそっけなく。
無視はされないが会話が盛り上がることもない。
なんか、随分と孤独感を感じる一日だった。
◇
「奏多君、帰ろ?」
放課後になってすぐ、怜は荷物をまとめて俺のところへ。
なぜか声をかけられてほっとする。
「ああ。真っすぐ帰るのか?」
「んー、今日はちょっとカラオケでもして帰る?」
「いいけど、俺あんまり金持ってないぞ」
「いいのいいの。私が出すから」
「いや、それは」
「お金が気になって好きな人と遊べないなんて、私いやだもん。好きな人のためになら、借金したってお金使うもん」
「……」
そこまで言われたらそれ以上言うことなんて何もなく。
俺は怜と二人でカラオケに向かった。
すると、先に来ていたクラスの連中が受付でたむろしている。
早く手続きを終わらせてくれよとウンザリするくらいダラダラとしている。
「……邪魔だなあ」
ポツリと、そんなことを呟いた。
すると、怜がスッと前に出てそいつらのところに行く。
「ねえ、邪魔なんだけど」
まるで感情をなくした人形のように、無機質な声で怜は連中に言う。
大丈夫なのかと、心配になりながら見ていると男の一人が「うるせえ」と。
声を荒げたところで怜が受付にあったボールペンをそいつに向ける。
「あ……」
「刺すよ?」
「や、やめ……」
「奏多君が邪魔って言ってるの。邪魔、殺すよ?」
「や、やばいってこいつ……い、いこうぜ」
ささっと道をあけるように連中は散る。
そのまま、店を出るそいつらを見て、ふっと笑った時はペンをクルクル回しながら俺のところにくる。
「はい、邪魔な人はいなくなったよ奏多君」
「……大丈夫なのか、あれ」
「なにが? 奏多君の邪魔になる人はみんな嫌いなの。目くらいくりぬいてやった方がよかったかなあ?」
「ば、ばか言うな。そんなことしたらお前が捕まるだろ」
「あれー、もしかして私の心配してくれてるの? 嬉しい……奏多君、やっぱり大好き」
「っ!?」
受付に従業員がいるというのに、構わずキスをされた。
冷ややかな目で店員が見てるが、そんなことはお構いなしだ。
そして、キスが終わると恥ずかしげもなくその店員に「二人で一時間お願いします」と。
部屋の札をもらってから、俺の手を引っ張る怜。
まるで何もなかったかのようにカラオケが始まる。
「なんか暗い部屋で二人っきりって緊張するね」
「……」
「奏多君は最初に歌う曲決まってるんだよね。これ、入れてあげる」
「あ、ああ」
俺は結構アニメが好きだ。
それに最近はアニソンを歌う方が盛り上がるので、まず初めに歌う曲は決めてある。
もちろんそれを彼女は知っていた。
早速イントロが流れ出してマイクを渡されると、俺は彼女の前ではじめて歌を披露する。
結構自信はあった。
しかし、手拍子をしながら楽しそうにする怜は、俺とのカラオケすら慣れた様子だ。
「あはは、やっぱり上手だね奏多君。声も好き」
「そ、そっか。じゃあ次はお前が」
「うん、そうする。でもその前に……ちゅー」
「んんっ!?」
薄暗い部屋の中でキスをされる。
そしてすぐにそれが終わると、「一曲ごとにキスするんだよ」って。
だから、彼女の歌が終わると同時にまた、キスをされる。
ちなみに怜の歌は抜群にうまかった。
女子で音痴は少ないと思うけど、でも、そういうレベルではなくて、歌手並みにうまい。
こいつの苦手なことってあるのだろうか。
交互に歌い、何度もキスをして。
あっという間の一時間だった。
カラオケが終わる頃には、キスをし過ぎて唇がひりひりしてるほど。
「えへへ、いっぱい歌っちゃったね」
「そうだな」
「キスもいっぱいしたね」
「そう、だな」
「また来ようね、奏多君」
「……ああ」
彼女とのデートってこういうものなんだろうかと、少し疑問に感じながらも、まあこんなものなのかもしれないと納得する自分がいる。
好きだからキスをして、一緒にいたいからいる。
そんな単純なことの繰り返しというか、それを飽きるまで目いっぱい楽しむというのが恋愛の本来あるべき姿なのかもしれない。
とか。
恋愛経験もろくにない俺がそんなことを悟ったように思いながら店を出ると。
さっき受付にいた連中がカラオケ店の前にたむろしていた。
「あー、まだいるんだ。邪魔だよね、奏多君」
「い、いや別に今は」
「邪魔だよね? 目障りだよね?」
「……」
「あはは、ちょっと行ってくる」
「お、おい」
俺の制止なんて聞きもせず、怜は男たちのところへ行き。
連中はその存在に気づくとすぐに走って逃げていった。
「なあんだ、つまんない」
「……お前、学校で変な噂流れるぞ」
「なんで? 悪いのは向こうでしょ?」
「そ、そうだけど。でも」
「心配してくれてるんだ。奏多君優しいね。でも」
でも。
そう言ってから怜は少しだけ沈黙して。
やがて後ろから俺に抱きついてきながら、言う。
「奏多君にとって邪魔な子は、みーんな消しちゃうからね」
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