残り5秒

昼休みの昼食は弁当だ。炊いたご飯に、冷凍の唐揚げ、前日のうちに買っておいたカット野菜を炒めたもの。


この弁当は別に美味しくはないがコストとしてはコンビニ弁当を買うよりは多少安い


その差額分の価値が用意する手間に見合うかはかなり微妙なところだが。


とはいえ、こんな適当弁当でも、自宅から弁当を持ってくるだけで、やかましいタイプのパートのおばさんをある程度黙らせることができる。


曰く「最近の若者は料理をしない」だの、「栄養バランスが偏ってる」だの、説教をしたがるが、自分の弁当箱に冷凍食品をいれるだけで、「若いのに立派だ」という評価になるのだ。


控えめに言って頭が悪いと思う。しかし、そう言った人の発言力は得てして大きいので、あらかじめ防げるところは防いでおこうという程度の自己防衛と、多少円滑に人間関係を進めるためだけのものにすぎない。


10分もかからず食べ終わり、少し物足りなさを感じつつも差し入れの菓子に手を付ける気にもなれず、昼寝をすることにした。仮眠室でもあれば別なのだろうが、残業0を建前にして動くこの職場は、寝泊まりするために必要となるような部屋という認識で仮眠室は作っていなかった。


 僕としては無能極まる考え方だとは思うがそのために上とけんかする気もなく、わざわざ近所の公園に歩き、そこのベンチで日を浴びながら、子ども達の笑い声をBGMにまどろむ。


 休憩の終わる15分前にアラームが鳴れば、職場に戻って気持ちを仕事にリセットし、ふたたび社会活動に参加する。


 PCに向かい合って、顔も知らないクライアントの望むものや、現場では全く思いもつかないような経営陣のアイデアを形にしようと四苦八苦する。


 いや、それだけならまだしも、回線がわるいのか、PCが古いのか。それともその両方か。


あらゆるものが遅いPCを使うのがストレスフルだ。


 一つのソフトを立ち上げるのに8秒以上かかってしまう。こんなポンコツを使う理由などないように思うが、それは「予算の都合」なのだろう。


 経営陣は8秒ルールをご存知ないらしい。もっとも8秒ルールはWEBページへのアクセスの話で、僕より若い世代の人では聞いたことのないものだろう。僕より年上なのだから当然に知っておいてほしいものだ。


 脳内であらゆるものに、不満をぶちまけながら嵐の日に家にこもってやり過ごすような気持ちで作業を進めていく。


 終業時刻まではまだ5時間以上の時間があった。


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