第52話 あんなに膨らんでいるなんて
「ふしゃああああああああっ!」
炬燵の中から顔だけ出し、真莉を威嚇しているレーニャ。
一方で真莉もまた、憤怒の形相で俺を睨みつけていた。
「ねぇ、どういうことよ……? 何で炬燵の中に女の子が隠れているの……? もしかして一緒に住んでるとかないわよね……? ねぇ、説明して……? 説明しなさい……ねぇねぇねぇ……?」
冷静な口調が逆に怖い!
ただ、彼女が要求している通り、説明する以外に方法はないだろう。
俺はレーニャが家に住みつくことになった経緯を話すことにした。
「というわけで。……一応、金ちゃんにどうにかしてもらえないかとも頼んだんだが、本人が出て行こうとしないんだよ。何があったか知らないが、相変わらず外が怖いみたいで」
「……そういうことだったのね」
懇切丁寧に事情を説明したら、真莉は嘆息しつつも何とか納得してくれたようだった。
た、助かったのか……?
「だけど、こんな可愛い女の子と二人きりで生活してるなんて、絶対にダメよ! ダメに決まってるわ!」
「そう言われても……」
「いつ手を出すことか、分かったものじゃないし……っ!」
「出さないって!」
俺を何だと思っているんだ。
真莉は、未だ警戒して炬燵でヤドカリ状態になっているレーニャに話しかける。
「ねぇ、レーニャちゃん」
「ふしゃあああっ!」
「大丈夫。怖くないわよ」
「ふしゃあああっ!」
「ねぇ、お姉さんと一緒に外に出よっか?」
「ふしゃあああっ!」
「……ダメね」
レーニャの警戒心は相当なものだ。
俺でさえまだ全然懐いていないくらいだからな。
「でもこんな状態、絶対に不健全よ! 必ず何とかしないと……っ! そうね、うん! レーニャちゃんが私に懐いてくれるようになるまで、何度もここに来ることにするわ! 安心させてから、ここを連れ出すのよ! アリスにもお願いして、どこか彼女が他に住めるところを探してもらわないと!」
「は?」
「何よ? 私が来ることに何か不都合でもあるのかしら?」
「い、いや、そういうわけでは……」
マジか……。
せっかくの楽しい引き籠り生活が……。
◇ ◇ ◇
「アリス、入っていいかしら?」
「マリ! 戻ったのですね!」
幼馴染が引き籠っているボロアパートの部屋を後にした真莉は、王宮に戻り、王女アリスの私室を訪れていた。
一国の王女の部屋なので当然だろうが、先ほどの部屋とは比較にもならないくらい豪華絢爛な空間である。
王宮に残ったクラスメイト達でも、こんな風に気軽に王女アリスの部屋を訪ねることができるのは、真莉だけだ。
アリスに気に入られて、ほとんど友達同然の付き合いを許されていた。
「それで、どうでしたか? あの仮面のお方は……」
「ええ。生きているわ」
「本当ですかっ!?」
「はい、間違いないわ」
「一体あの方は何者なのですっ!? それにどうやって突き止めたのですかっ!?」
「ちょ、ちょっと、アリスっ?」
「はっ……申し訳ありません。つい、興奮してしまって……」
いきなり物凄い剣幕で問い詰められて、動揺する真莉。
アリスは我に返って、恥ずかしそうに顔を赤くした。
「思った通り、異世界人の一人、坂本金太郎が知っていたわ」
「あのキンチャン商会の……?」
「ええ」
「ということは、もしかしてあの仮面のお方も異世界人の……い、一体、どなたです!? 勿体ぶらずに教えてください! って、わたくしったら、また……」
「アリス……?」
先ほどから王女の様子がおかしい。
真莉はハッとして、恐る恐る問う。
「もしかして……まさかとは思うけど……アリス、あなた……あの仮面のことを……」
「~~~~~~~~っ!」
最後まで言い切る前に、顔を真っ赤にし、恥じらうように頬を手で包み込むアリス。
これは……と確信する真莉に、アリスは開き直ったように叫んだ。
「そ、そうですわっ! わたくし、あの仮面の方のことが、好きになってしまったのです……っ!」
「好きにって、仮面越しで、顔すら見てないわよね!?」
「そうですけどっ……で、でもっ……あ、あ、あの部分を見てしまいました……っ!」
「あの部分……?」
「わ、わたくしっ、殿方のあんなところを見たの、初めてでしたのっ! 女性とはまったく違うとは聞いていましたけれど……まさか、あ、あ、あんなに膨らんでいるなんて……っ!」
「ちょ、アリス!? あなた一体、どこを見て惚れてるのよ!?」
「そそそ、そんなこと口で言えるわけがありませんっ! ですがっ……あの瞬間、わたくしは恋に落ちてしまったのです……っ!」
「……」
真莉は思った。
王女アリスには、絶対に仮面の正体を明かしてはならない、と。
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ここでweb版としてはいったん完結となります。
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