第49話 ここにいるんでしょ

 頭上で凄まじい爆発が起こり、真莉は咄嗟に地面に伏せった。

 猛烈な爆風が背中に叩きつけられ、それだけで身体がぺしゃんこになってしまいそうだ。


 魔族が自爆したのだ。

 空で爆発したからこの程度で済んだが、これがもし地上、彼女たちのすぐ近くだったなら、恐らく真莉も王女アリスも無事では済まなかっただろう。


「っ……仮面の人はっ……」


 だがピンチに陥っていた真莉たちを救い、しかもその魔族を追い込んでいた謎の仮面は、恐らく自爆による被害を軽減するためだろう、爆発の直前、魔族を抱えて空へと飛び上がったのだ。

 あの爆発の直撃を受けて、無事なはずがない。


 海パンにマントという変質者そのものの格好をしていたが、彼は己を犠牲にして彼女たちを護ってくれたのだ。


 それから周囲を懸命に捜索したが、彼の死体すら見つからなかった。

 爆発と共に消し飛んでしまったのかもしれない。


「そんな……わたくしたちのために……」


 愕然としているのは王女アリスだ。

 自分を助けてくれた仮面の男が犠牲になったことに、ショックを受けているのだろう。


 真莉もまた、目の前で一人の人が犠牲になったことに、大きなショックを受けていたが、同時にある違和感を抱いていた。


(あの海パンのお尻……どう考えても……でも、だとしたら……それに……)



    ◇ ◇ ◇



 ベッドの上で目が覚めた。

 どうやら俺は魔族の自爆攻撃を喰らって、死んでしまったらしい。


 HPが一瞬で消し飛ぶとは、さすが命を賭けただけのことはある。


「死んだのはアバターだけどな」


 俺は新たなアバターを作り出す。

 魔族の自爆した後のことが気になるので、すぐに家を出ようとしたが、


「……まためちゃくちゃ汚くしたな」


 部屋のあまりの汚さに思わず足を止める。


 あちこちに食べ物の残骸や衣類などが転がっていて、足の踏み場がないくらいなのだ。

 ダンジョン潜って、それから街を襲う魔物や魔族と戦ったりしていたため、しばらくずっとアバターを操作していたとはいえ、これは酷い。


 犯人はレーニャだ。

 今も炬燵に下半身を突っ込んで、気持ちよさそうに寝ている。


「ゴミの捨て方とか洗濯機の使い方もちゃんと教えたんだけどな……。冷凍食品の食べ方だけはすんなり覚えたのに……おい、起きろ」

「ふにゃ!?」


 無理やり炬燵から引っ張り出そうとしたら、思い切り顔を引っ掻かれた。


「ふしゃああああっ!」

「いや、お前が掃除をしないからだ。ゴミ屋敷になるだろうが」

「……ふしゃああああっ!」

「威嚇しても無駄だって。……あっ、こら」


 炬燵の中に逃げ込んでしまった。

 ならばと炬燵ごと持ち上げたら、そこにレーニャの姿がない。


 どこに消えたんだと思いきや、炬燵の裏側に張り付いていた。

 とんだニャンコを拾ってしまったものだ、と溜息を吐きながら部屋の掃除をしていると、金ちゃんから通話があった。


『小森殿! 大丈夫でござるか!?』

『金ちゃんの方こそ』

『拙者は見ての通りピンピンしてるでござるよ!』

『見えないんだが』

『リュナ殿から聞いたでござるよ! 魔族の自爆に巻き込まれたと!』

『ああ、アバターがな。魔族はちゃんと死んだか?』

『そのようでござる!』


 どうやらあの自爆はかなりの威力だったようで、キンチャン商会の建物も爆風でめちゃくちゃ揺れたらしい。

 それでも俺がアバターを犠牲に高い位置で爆発させたことで、近くにいた人たちは無事だったようだ。


『リュナ殿が頑張って装備を回収してくれたでござるよ』

『おお、それはありがたい。ってか、無事だったのか?』

『どれも問題ないようでござる。さすがはエクストラボスの攻略報酬でござるな』


 マントとか海パンも綺麗なままらしい。

 一体どんな素材でできているんだろうか……。


『ただ、でござるな……』

『ん? どうしたんだ?』

『いや、リュナ殿も、頑張ってバレないようにこっそり装備を回収してくれたでござるが……生憎と、その、ある人物に見られてしまってでござるな……』

『見られてって、誰に?』

『それが……その……』


 金ちゃんにしては随分と歯切れが悪い。

 なんだか嫌な予感を覚えていると、


 ドンドンドンドン!


 突然、家の扉を叩く音が聞こえてきた。

 一体誰だと思っていると、


「飛喜っ! ここにいるんでしょ! 金太郎に聞いたわよ!」


 外から幼馴染の怒鳴り声が聞こえてきて、戦慄を覚えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る