第50話 何でずっと黙ってたのよ

 幼馴染の真莉には、この場所のことを教えていない。

 金ちゃんにも黙っていてくれるようにお願いしていた。


 だって知られたら最後、当たり前のように毎日押しかけてきやがるに決まっている。

 正義感の強いあいつは、俺のような引き籠りの存在を許すことができないのだ。


 金ちゃんによると、密かに俺の居場所を探しているらしかったが、幸い王宮も、俺が王宮を出てからのことは把握していないようで、今の今まで見つからずに済んでいた。

 なのに、


「飛喜っ! ここにいるんでしょ! 金太郎に聞いたわよ!」


 ドアの向こうから聞こえてくるのは、間違いなく真莉の声だ。


『金ちゃんどういうことだよ!?』

『すまぬでござる! 仮面の男の正体が、なぜか小森殿であると気づいてしまったみたいでござるよ!』 

『いやいや、どうやって気づいたっていうんだよ!? ちゃんと仮面を付けてたし、まさか俺の海パン姿で判別したなんてことないよな!?』


 幼馴染とはいえ、さすがにそんなはずはない。

 ……ないと信じたい。


『その可能性は捨てきれぬでござるな……最初から確信した様子で拙者のところに来たでござるから……「やっぱりあいつの居場所を知ってたでしょ!」と……』


 それでもはや隠し通すこともできず、ゲロってしまったそうだ。


『さすがの拙者もあの剣幕には耐えられなかったでござる! 済まぬでござるよ!』


 金ちゃんとリモート通話をしている間にも、真莉の怒声が響いてきている。

 今にもドアを蹴り破らんかという勢いだ。


 部屋セキュリティのスキルがあるので、本当に破ることはできないだろうが……。

 ……このまま放置しているわけにもいかないか。


 俺は仕方なくドアを開けたのだった。


「っ! ようやく開けたわね!」

「ちょっ」


 俺を押し退け、躊躇なく部屋に上がり込んでくる。

 そのまま我が物顔でベッドに腰を下ろした真莉は、じろりと俺を睨みながら、


「それで、何でずっと黙ってたのよ?」


 こうなるのが嫌だったからだよ……。


「し、心配したんだからっ。ちゃんとご飯食べてるかとか、どこかで野垂れ死んでないかとか……。金太郎があんたの居場所を知ってるようだったし、多分どっかにまた引き籠ってるんだろうとは思ってたけど」

「えーと、まぁ、見ての通り、元気にやってるよ」

「で、何だったのよ、さっきのあの仮面の変態は? あれ、あなたでしょ? 自爆に巻き込まれたはずなのに、何で平然としてんのよ?」

「……てか、よく自爆に巻き込まれたのに生きてるって分かったな?」

「そりゃ、本当にあれが飛喜だったら、あんな冷静に自分を犠牲にしたりできないでしょ。何か裏があると思ったのよ。探したって死体も見つからなかったし」


 さすが幼馴染……ご名答である。


 アバターだったからこそ、俺は即座に何の躊躇もなくあの判断ができたのだ。

 本当に命が懸かっていたらあんな真似は御免である。


 もはやこうなったら洗いざらい話すしかない。

 こいつのことだ、全部聞き終えるまで梃子でも帰らないだろうし……。


「す、凄いじゃない! まさか、『ひきこもり』にそんな能力があっただなんて……っ!」


 俺がこれまでの経緯やこの職業の特性などを話すと、真莉は驚愕したようだった。


「じゃあ、あの変態的な格好は、別にあなたの趣味とかじゃないのね」

「違うに決まってるだろ。エクストラボスの攻略報酬を集めてたら、自然とあんな感じになってしまったんだよ」

「よかった……」


 なぜか安堵の息を吐く幼馴染。


「しかもそのアバターで魔族を圧倒するなんて……」

「あれは俺も不思議だったんだが。レベルは高くても、ステータス的はそこまで強くないと思ってたんだよな」

「……今ってどれぐらいのステータスなの?」

「ええと……」

「あ、そうだわ。ほら、これ。リュナさんから預かってきた装備。これも込みの方がよさそうね」

「預かってたんだ……」


 俺は装備を身に着けた。

 あの爆発に巻き込まれたにも関わらず、傷一つ付いていない。


---------------------------------------------------------------

小森飛喜

 職業:ひきこもり

 レベル:330

 HP:3300 MP:3300

 筋力:627 耐久:426 敏捷:594 魔力:330 精神:495

 ユニークスキル:部屋の主 部屋セキュリティLV10 通販LV10 ゴミ捨て リモート通話

 スキル:排泄耐性LV10 空腹耐性LV10 暇耐性LV10 清潔維持LV10 騒音耐性LV10 寒さ耐性LV10 快眠LV10 消音LV10 瞑想LV5 日曜大工LV5 体型維持LV5 清掃LV5 怪力LV3 俊敏LV3 剣技LV3

 SP:3200

---------------------------------------------------------------


「こんな感じ?」

「ぶっ!?」


 なぜか真莉が吹き出した。


「れ、れ、れ、レベル300!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る