第47話 こんな変な格好の人間ごときに

「~~~~~~~~っ!? へ、へ、へ、変態です~~~~っ!?」


 王女が顔を真っ赤にして叫んだ。

 いやいや、助けてやったのに、一言目がそれかよ!?


 だが相手は王女だし、きっと今まで男の下着姿すら見たことがないのだろう。

 耐性ゼロの状態で、いきなり海パン姿なんて見せられたら、こんな反応をするのも無理はない。


 と思っていると、


「な、なんて破廉恥なっ! こんな白昼の街中で、そのような露出度の高い格好をするなんて……っ!」


 後ろの幼馴染からも非難の声が飛んできた。


 ……そうだった。

 こいつもめちゃくちゃ初心でクソ真面目な奴なんだった。


 ズボンをズラした男子のパンツがちょっと見えているだけで、声を荒らげ咎めてくるのだ。

 まるでマンガに出てくる風紀委員である。


 俺が親父からこっそり拝借したちょっとエッチな本も、こいつに見つかって即行で捨てられたっけ。


 しかし二人とも、今はそれどころじゃないと思うんだが。


「ぐああああっ!? わ、私の腕がっ!? ば、馬鹿な……っ!?」


 腕を切断され、喚く魔族。


「何者だ、貴様っ!? 私の結界をいとも容易く破るとは……っ!」


 どうやらこの魔族だけは、俺の格好に対して思うところはないらしい。

 助かる。


 まぁ自分の腕を切断されて、それどころではないだけかもしれないが。


「許さんっ! 許さんぞぉっ!」


 激怒して襲いかかってくる魔族。

 繰り出される拳を、俺は牛刀の腹で受け止めようとするが、咄嗟の判断でスキル「大防御」も併用する。


 ガアアアアアアアアアンッ!!


「うおっ……」


 なんて破壊力だよ!?

 牛刀越し、しかも「大防御」スキルを使っていたにもかかわらず、凄まじい衝撃が全身に伝わってきて、俺は数メートルほど弾き飛ばされてしまった。


「私の一撃を耐えただとっ!?」


 なぜか驚いているようだが、今のでこちらのHPが30近くも減っている。

 これまで遭遇してきた魔物とは桁違いの強さだ。


 エクストラボスすら可愛いものだろう。

 これが魔族なのか……。


 しかもよく見たら、先ほど斬ったはずの腕が再生していた。

 こいつ再生能力まで持っているのかよ。


 だが先ほど腕を斬れたくらいだから、こちらの攻撃は通じるはずだ。

 守りに入るより、攻めた方がいいかもしれない。


 そう考え、俺はこっちから距離を詰めていく。

 真っ直ぐ攻めては良い的でしかないので、左右に跳びながら接近していった。


「っ!? な、何だ、この速さはっ!?」


【狗人王の尻尾】による敏捷50%上昇のお陰か、俺の動きに目を見開く魔族。

 最後はフェイントで一気に近づいて牛刀を振り下ろすと、見事に右肩に直撃した。


 しかし思ったほどの手ごたえではない。

 これは……魔力を集めて、防御したのか?


「ククク、先ほどは油断してまともに喰らってしまったが、魔力で身を護っていれば、大したことはなあがああああっ!?」


 カウンターをするつもりだったようだが、その前に右肩から血が間欠泉のように噴き出した。

 どうやら護り切れていなかったらしい。


 ……ちょっとダサい。


「馬鹿なっ……なぜ、これだけの攻撃力を……っ!?」


 驚いているところへ、すかさず追撃を繰り出す。

 魔族は咄嗟に跳び下がって、距離を取ってしまう。


 せっかくダメージを与えても、さっきみたいに回復されてしまっては面倒だ。

 逃がして堪るかとばかりに追い縋る。


「がぁっ!? くそっ! がっ……この私がっ……こんな変な格好の人間ごときにっ……」


 あ、変な格好とは思っていたのね……。


 それにしても魔族は俺の素早さについて来れていないし、ほとんど一方的に俺が押し込む形となっていた。

 もしかして魔族ってあんまり強くない?


「はぁはぁ……貴様っ……この私を怒らせたなっ!」


 それでもすぐに与えた傷が治ってしまう。

 ただ、肩で息をしているところをみるに、体力は消耗しているのかもしれない。

 再生能力も万能ってわけではないのだろう。


「下等な人間相手に、これだけは使いたくなかったがっ……背に腹は代えられまいっ! おおおおおおおおおおおおおっ!」


 魔族の身体から魔力が膨れ上がる。

 そして全身から角が生え、瞳は赤く染まり、より禍々しい姿へと変貌してしまった。


「こ、これは一体……っ!?」

「魔族の中には、変身することで力を増す者もいるのですっ!」


 真莉と王女の驚く声が聞こえてくる。


 どうやら魔族が本気を出してきたらしい。

 ……さすがにヤバいかも?


 って、そうだ。

 俺は【小鬼王の首飾り】のお陰で、「王の威光」というスキルを使えるんだった。


 魔族相手に効くかどうか分からないが……。


「王の威光、発動!」

「な……っ!?」


 ……効いた?

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