第46話 変態です

 金ちゃんのところへと向かっていた俺は、その途中にある光景に遭遇してしまった。


「うわ、あれって、もしかしてドラゴンか?」


 大通りのど真ん中に倒れていたのは、全長十メートルはあろうかという、巨大な蜥蜴だった。

 この世界にドラゴンがいるということは聞いていたが、こうして実際に目撃したのは初めてである。


「まさかドラゴンまでいたとは……」


 瀟洒な街並みだったと思われる一帯は、ドラゴンが暴れたせいか、めちゃくちゃになってしまっていた。


 それにしても一体、誰がドラゴンを倒したのだろうか。

 あそこに騎士っぽい人たちがいるし、彼らかもしれない。


「ん? 何か揉めてる……?」


 一人の男を前に、騎士たちが深刻な顔をして武器を構えているのだ。

 かと思っていると、数人の騎士たちが男に躍りかかった。


「うわ、吹き飛ばされた? 今、どうやったんだ?」


 さらにその直後、女性が俺の近くへと吹き飛んでくる。


「って、リュナさん!?」


 しかもよく見たら知り合いだ。

 瓦礫の中に突っ込んでしまった彼女の元へ、俺は慌てて走り寄った。


「ちょっ、大丈夫かっ!?」

「……コモリ様? 何ですか、その格好は……」

「今はそれどころじゃないだろ! ほら、ポーションを」


 どうやら死んではいないようだった。

 すぐにポーションを取り出して飲ませる。


「金ちゃんは無事なのか?」

「はい。そのはずです。従業員たちを避難させるために自ら指揮を執っておられましたが、今はご自身も安全な場所にいらっしゃいます」

「よかった。それで、今はどういう状況だ?」


 詳しく訊いてみると、どうやらあの男、魔族らしい。

 魔物の群れを率いてこの王都を襲った張本人で、その狙いは彼ら魔族にとって将来的に大きな脅威になるだろう異世界人だという。


「なるほど」

「あの騎士たちの中にも、異世界人がいらっしゃるようです」

「って、あれって……真莉?」


 俺の幼馴染の加藤真莉だった。

 確か天聖騎士とかいう、勇者には及ばないが、それに次ぐレベルのチートな職業を授かって、金ちゃんによると王宮の騎士団に所属することになったとは聞いていたが……。


「しかも王女までいないか?」

「はい。王女殿下は戦闘に長けた方で、自ら戦場に出向かれたようなのです」


 そんな王女は、魔族に首を掴まれて大ピンチに陥っていた。

 真莉も必死に助けようとしているが、結界らしきものに阻まれて近づくことすらできない。


「このままではっ……」

「いやいや、まだ立てないって!」


 リュナさんが剣を杖にしながら立ち上がり、加勢に向かおうとしている。

 だがポーションを飲んだとはいえ、まだ身体はボロボロなはずだった。


 誰かいないのかと周囲を見回すも、すでに立つこともままならない騎士たちばかり。


 ……うん、俺しかいねぇ。


「くそっ、こんな格好で……っ!」


 仮面をかぶっているので俺だとバレる心配はない……と信じるしかなかった。

 幾ら幼馴染だからと言って、海パン姿だけで分かったりしないよな?


 しかしレベルだけは高いかもしれないが、今の俺が魔族相手に戦力になるとはとても思えない。

 それでも死んでも問題ないアバターであることを生かして、囮役くらいはやれるだろう。


 そう思いながら全速力で突っ込んでいき、その勢いのまま思い切り【豚人帝の牛刀】を、魔族を護っている結界へと叩きつけてやった。


 まぁ真莉の攻撃すら通じない結界が、俺ので破れるはずもないのだが。


 パリイイイイイイイインッ!!


 ……あれ、割れた?


 予想に反して牛刀が結界を貫き、さらにそこから亀裂が走って、結界そのものが粉々に砕け散る。

 しかも勢い余って、牛刀は王女様を掴んでいた魔族の腕まで切断してしまった。


 開放された王女が地面に落ち、魔族の腕はくるくると宙を舞う。


「げほげほげほっ……い、一体、何が……?」


 咳き込みながらも目を開けた王女と、仮面越しに目が合う。

 ちなみに真莉はちょうど俺の後ろにいるので、どんな顔をしているのか分からない。


「あ、あなたは……?」


 王女の視線が、ゆっくりと下へと降りてきて、やがて海パンへ。


「~~~~~~~~っ!? へ、へ、へ、変態です~~~~っ!?」

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