第37話 黒い方が似合いますよ

『小森殿! 本当に大丈夫なのでござるか!?』

『いやいや、大丈夫だって。そんなに慌てなくても、放っておけばいいってば』

『そう言われてもでござるよ! 拙者のところには、毎日のように小森殿の身体の一部が送られてくるでござる! 今日なんてもはや、右腕が丸ごとでござるよ!?』

『あくまでアバターの身体だから。本体は相変わらず引き籠って、ピンピンしてるって』

『分かっていても、精神的にキツイでござるよ! そのうち小森殿の生首でも送られて来たりしないでござるな!?』

『それは大丈夫だろ。死んだらアバターは消えるから』


 しかしどうやら切断したアバターの部位は、HPが0になるまで消えることはないらしい。


「これだけやっても、まったく反応がないなんてっ……本当にこいつと友人なのっ!?」

「そのはずなんだが……」

「薄情にもほどがあるでしょ!」


 俺を誘拐した連中は、いつまで経っても金ちゃんが動かないことに戸惑っている。

 いや、それどころか、恐怖すら覚え始めているようだった。


「それにほんと何なのよコイツは……身体を切られて、何であんなに平然としてんのよ……? まさか痛くないっていうの……?」

「俺、怖くなってきちまったんだが……」


 彼らの恐怖の対象は俺だ。

 まぁ腕を切断されても悲鳴一つ上げず、飄々としている人間がいたら、そりゃ誰だって不気味に思うだろう。


「……もういいわ。これ以上やったところで、動く気配はなさそうね。せっかく捕まえたけれど、こいつはもう用済みよ。殺してしまうわ」


 ついに痺れを切らしたらしい。

 お姉さんが近づいてきて、冷たい床の上に転がる俺の頭を踏みつけた。


「さすがに死ぬときまで平然としてはいられないでしょ?」

「今日は珍しく白い下着ですね」

「っ……こいつ……」


 それからいつも俺の身体の切断を担当している巨漢が、戦斧を担いでやってきた。


「首を両断してやりなさい」

「おでに、まがぜろ」


 俺はうつ伏せに地面に寝かされる。

 巨漢が戦斧を振り上げると、俺の首目がけて思い切り振り降ろしてきた。


 ズガンッ!


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 HP:0

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 おっ、HPが0になったぞ。

 視界がぐるぐる回って、最後に再び下からのアングルでお姉さんの顔が見える。


「お姉さんには黒い方が似合いますよ」


 その一言を残したところで、アバターの方の意識が途絶えて、俺はベッドの上で目を覚ましたのだった。


「……よし、それじゃあ装備を取り戻しに行くか」


 その場で即座に新たなアバターを作り出す。

 幸い自分が捕まっていた場所の位置はだいたい分かる。


「そうだ。仮面が必要だな」


 通販スキルで適当な仮面を見つけ、注文。

 一瞬で現れたそれを装着すると、炬燵の中で幸せそうに寝ているレーニャを余所に、俺はアパートの部屋を出る。


『金ちゃん。拉致されてたアバターの方が死んだから、今から新しいアバターで乗り込むよ』

『小森殿! それならリュナ殿も同行させてほしいでござる!』

『リュナさんを?』

『敵のことを探りたいでござる。……うちに喧嘩を売ったらどうなるか、相手に分からせてやらないとでござるよ……ふふふふ……』

『……そ、そうか』


 リモート通話越しに金ちゃんの黒い笑い声が聞こえてきて、俺は思わず顔を引き攣らせる。

 こう見えて金ちゃん、敵には容赦しない男だからな……。


 それから俺はリュナさんと合流した。

 装備一式を持ってきてくれていたので、ありがたくそれを使わせてもらう。


「それでコモリ様、場所は?」

「こっちだ」

「ここは……貧民街ですか。犯罪組織ギャングの拠点も多い一帯ですね」


 街の片隅、ボロボロの家々が建ち並ぶ貧民街。

 その中のとある建物の前で足を止める。


「多分、ここだな」

「では乗り込みましょう」


 リュナさんが腰に提げていた二本の剣を同時に抜く。

 そうして俺たちは襲撃を開始したのだった。



   ◇ ◇ ◇



「お姉さんには黒い方が似合いますよ」

「~~~~っ!?」


 ななな、何なのよ、こいつは!?

 首を切断されたってのに、普通に喋りかけてきたんだけど!?


 これまで色んな悪事に手を染めてきたあたしたちだけれど、さすがに怖すぎて言葉を失ってしまったわ。


 だけど、本当の恐怖はその直後だった。

 信じられないことに、切った首も含めて、一瞬にして死体が消失してしまったのよ。


「こ、これは一体、どういうことなの……?」

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