第38話 もう片方も斬り落としておきましょう

「おい、何だ、テメェらはぐがっ!?」

「こいつ……よくも兄貴をぎゃっ!」


 建物の中には、いかにもといった見た目の男たちが大勢いた。

 俺たちに気づいて次々と襲いかかってきたが、それをリュナさんがあっさりと片づけていく。


 話には聞いていたが、リュナさん、本当に強い。

 俺の出番がまったくないほどだ。


「おらあああっ!」

「恐らくギャングの拠点ですね。大方、うちの商会と敵対している連中が、ギャングに依頼してコモリ様を拉致したのでしょう」

「ぶげっ!?」


 話をしながらも、躍りかかってきた男を軽く斬り捨てるリュナさん。

 そうして建物内を進むことしばらく、俺たちは地下の一室へと辿り着いた。


 そこにいたのは、あのお姉さんだ。


「どうも、お久しぶりでーす」

「~~~~~~~~~~~~っ!?」


 俺を見た瞬間、お姉さんが声にならない悲鳴を上げた。

 恐怖に引き攣った顔で後退りながら、震える声で叫んでくる。


「な、な、な、何で……。た、確かに首を切ったはず! 何で生きてんのよっ!?」

「俺、不死身なんで」


 アバターの方はな。


「ひぃっ……こ、こっち来んな……っ!」


 俺が一歩距離を詰めると、お姉さんは二、三歩も下がって壁に背中をぶつけた。


「なぜ、いきでる? おで、ごろじだ」


 と、そこへ割り込んできたのは、俺の首を切ってくれた巨漢だ。


「ごんどごぞ、ごろず」


 手にした戦斧を振り回してくる。

 俺はそれをさっきリュナさんから貰った剣で受け止め、それどころか弾き返してやった。


「っ!?」

「散々俺の身体を傷めつけてくれたよな。お返しだ」


 アバターだから別に痛くはなかったが。


 俺は巨漢の腹に思い切り蹴りをぶち込んだ。

 体格差に加えて、格闘技の経験もない俺だったが、やはりこの世界はステータスの差がモノを言うのだろう、巨漢は吹っ飛んで壁に思い切り激突する。


「ぐげ……」


 そのままあっさり気を失う巨漢。

 その間にリュナさんが他の男たちを仕留めてくれていたようで、残ったのは壁にへばりつくようにして震えるお姉さんだけだ。


「お、お願いっ……命だけはっ……あ、あたしはここじゃただの下っ端なの! 男たちに命令されて、逆らえなくて……っ! それで仕方なくあなたを嵌めたのよ……っ!」


 その割にはずっと偉そうにしてたけどな。


「コモリ様、この女、いかがなさいますか? 背後を吐かせたいので、できればまだ殺さないでいただきたいのですが……腕の一本や二本、斬り落としておきましょうか?」

「ひぃぃぃっ!」


 リュナさんが脅すと、お姉さんは涙ながらに懇願してくる。


「な、何だって、何だってするからっ……何だったら、あなたの性奴隷になってもいいわ! ほら、見て、この身体っ! 夜の奉仕には自信があるのよっ!」

「性奴隷……」


 言われて、ついその豊満な胸へと目がいってしまう。


「……コモリ様?」

「い、いや、アリだなとか思ってないから! ほ、ほんとだって!」


 リュナさんに半眼を向けられ、俺は慌てて否定した。


 そのときである。

 強調するように自分の胸を触っていたお姉さんの手から、凄まじい速度で何かが放たれた。


 ナイフだ。

 俺とリュナさんを狙って一本ずつ、ナイフを投擲してきたのである。


 リュナさんは咄嗟に剣でそれを弾くも、油断していた俺は胸に直撃を喰らってしまう。


「コモリ様!?」

「死ねぇぇぇっ!」


 俺に気を取られているその隙を突いて、新たなナイフを手にリュナさんへと飛びかかるお姉さん。

 どうやらさっきまでの懇願は、俺たちを油断させるための演技だったらしい。


 対応が遅れたリュナさんに、ナイフが迫る。

 だが次の瞬間、ナイフごとお姉さんの腕が宙を舞っていた。


「っ!? ぎ、ぎゃああああああああああああっ!?」


 お姉さんの絶叫が轟く。

 さらにリュナさんは容赦しなかった。


「念のためもう片方も斬り落としておきましょう」

「ま、待っ……あぎゃああああああああああっ!?」


 両腕を切断され、地面にひっくり返って悶え苦しむお姉さんへ、リュナさんは腰からポーションを取り出して、


「このままだと出血多量で死んでしまいますからね。傷口を塞いでおきます」


 切断面にポーションを振りかけると、見る見るうちに傷が塞がり、血が止まってしまった。


 もちろん新しく腕が生えてきたりはしない。

 この世界には一応、失った身体の部位を復元させるような治療薬や、回復魔法もあるようだが。


「コモリ様、ご無事ですか?」

「ああ、問題ない」


 ナイフを胸が胸に刺さったが、一応無事だ。

 HPが少しずつ減り続けているところを見るに、どうやら毒が塗られていたらしいが、どうせこれもアバターなのでHPが0になったところでまた作り出せばいいだけだった。

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