第36話 仲が良いのよねぇ
お礼をしたいというお姉さんの誘いに、ホイホイ乗ってしまったのが間違いだった。
い、いや、もちろんお姉さんの胸が大きかったからとか、ワンチャン期待していたとか、そんなことはないぞ!
単にせっかくの厚意を無下にはできないと思っただけだからな、うん。
だが連れて行かれたレストランでの食事中、飲み物に薬を入れられてしまったらしい。
眠ってしまった俺は、そのままどこかへ連れて行かれ、こうして牢屋みたいなところに監禁されたようだ。
手足は金属製の枷で拘束され、身動きが取れない。
装備はすべて外されている。
というか、お姉さんとのデート、もとい、お礼に、仮面と武装で行くわけにはいかないと思い、魔法袋に収納しておいたんだっけ。
その魔法袋は……やはりないか。
こんな真似、どう考えても単独犯ではないなと思ったら、お姉さんの向こうに男たちが見えた。
見覚えがある。
確かあのとき、お姉さんを襲っていた連中だ。
グルだったのか。
「キンチャン商会。あそこの商会長とあなたって、仲が良いのよねぇ?」
どうやら彼らの目的は金ちゃんの方らしい。
「二人とも一年前に召喚された異世界人よね。向こうで友達だったのかしら。まぁ、なんでもいいわ。あなたを助けたければ身代金を持って、一人で来るようにって伝えておいたから。ちゃんと来てくれるといいわね? 来てくれなかったら……とぉっても痛い目に遭っちゃうもの」
俺を人質に取り、金ちゃんを誘き出すつもりのようだ。
彼らが何者かは分からないが、恐らく金ちゃんの成功をよく思わない連中だろう。
どこかのライバル商会が彼らに依頼して、俺を拉致させたのかもしれない。
『てなわけだから、俺のことは気にせず無視してくれ』
『そういうわけにはいかぬでござるよ!』
『いや、忘れたのか? この拉致されてる俺はただのアバターだ。死んでもアバターが消えるだけで、本体には何の影響もない。その辺は実験済みだから間違いない。ちなみに痛みもないから、何されても文字通り痛くも痒くもないぞ』
『なるほど……何度聞いてもチート過ぎる能力でござるな……』
俺はリモート通話を使って金ちゃんと話をしていた。
まさかリアルタイムで人質とターゲットがやり取りしているなんて、こいつらには思いもよらないだろう。
すでに俺を拉致したことを伝える手紙が、金ちゃんのところに送られてきたらしい。
俺を助けたければ、身代金を持って一人で所定の場所に来るようにと書かれていたようだ。
『身代金なんて持ってきても意味ないぞ。こいつらの目的は金なんかじゃない。金ちゃんを殺すことだ。どうせ端から人質と交換する気なんかないって。……って、金と金ちゃんで分かりにくいな』
そして金ちゃんを殺したら、その後には用済みになった俺(アバター)も殺すつもりだろう。
『だから放っておいてくれ。むしろちょっと楽しみなんだが。いつまで経っても無視され続けたら、こいつらがどんな反応をするのか』
それから三日が経った。
「どういうことなのよ!? 何でずっと無視し続けてんのよ!?」
金ちゃんから何の反応もないので、お姉さんはめちゃくちゃ苛立っていた。
「あんた、友人なんでしょ!?」
「さあ、どうだろうな」
「確かに調べは付いてんのよ! なのに、何で一向に来ないのよ!?」
その怒りをぶつけるように、お姉さんが俺の身体を思い切り踏みつけてくる。
がんっ!
もちろんアバターなので全然痛くない。
ちなみにHPの減少は30ほどだった。
今の俺は何の装備も身に着けていないというのもあるが、このお姉さん、意外と強いのかもしれない。
俺を傷めつけて少しすっきりしたのか、お姉さんは良いことを思いついたとばかりに嗤って、
「……そうだわ。一日経つごとに、こいつの身体の一部を送りつけてあげるのはどうかしら? うふふふ、それならさすがに放置はできないでしょうねぇ?」
なかなか猟奇的な発想だった。
……マジでアバターでよかったな。
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