第30話 家には戻らない方がいいな

 確か、前にドア越しに見かけた三人組だ。

 もちろんこんな連中に用事なんてないので、無視したんだっけ。


 てか、今、拉致とか言わなかったか……?


「えーと……間に合ってるんで結構です」


 俺は部屋に戻ってドアを閉めた。


「なっ……て、てめぇ!? 戻るんじゃねいでぇっ!?」


 一人がドアを殴りつけてきたが、ボギャッ、という随分と痛そうな音が鳴った。

 ……折れたんじゃないか?


「ああ、クソっ! 何なんだよ、このドアはよっ!? 硬すぎだろっ! おい、聞こえてんだろ! とっとと出てきやがれ! この野郎っ!」


 ドアの向こうでめちゃくちゃ怒鳴っているが、大人しく出ていくわけがない。


「と思ったけど、こんなところで叫び散らされたら近所迷惑だよな。しかもあの感じだとずっと外を張ってたみたいだし……いつまで帰るのを待ってたらいいんだって話だ」


 仕方がないので強行突破することにした。


 ちなみにこのドア、鍵をかけなくても俺以外は勝手に開けることはできない。

 自動施錠機能が付いているようなものだ。


「出て来ねぇと火をつけ――」


 バンッ!


「――ぶごっ!?」


 思い切りドアを開けたら、すぐ近くにいた男が吹っ飛んでいった。


「あ、兄貴ぃぃぃっ!?」

「っ!?」


 残り二人の意識がそれに引っ張られている隙に、俺はその脇を駆け抜ける。

 よく見たらこの三人、ちょっと顔が似てるな……兄弟だろうか?


「ば、ばか野郎……っ! 奴を逃がすんじゃねぇ……っ!」

「へ、へいっ!」


 兄貴と呼ばれた男が叫び、慌てて追いかけてくる。

 だがそのとき俺はすでに曲がり角を曲がって、路地へと逃げ込んでいた。


「ふう。どうやら撒いたようだな」


 しばらく走り続けると、追ってくる気配はなくなっていた。


「それにしても何だったんだ、あいつら? 何にしても、基本、家には戻らない方がいいな」


 幸いアバターが死ない限り、家を出入りする必要はない。

 今後も金ちゃんのところにアバターを置かせてもらうことにしよう。


 そうしてキンチャン商会の社員寮の一室に戻ってきた。

 部屋に入ると、そこにアバターはおらず、それ以外は先ほど出ていったままの状態だった。


「HPが0になるとアバターは消失するみたいだな。剣が地面に落ちてるところを見ると、装備は自動的に外れてその場に放置されるのか」


 ということは、ダンジョンなどでアバターが死んだ場合、そこに装備品が残されることになってしまう。

 後で回収に行くことはできるだろうが、誰かに拾われたり魔物に壊されたりするかもしれないので、やはり可能な限りアバターは死なせない方がいいな。


「検証終わり。さて、それじゃあ次のダンジョンに向かうか」


 武具を装備し、仮面を装着。

 お尻には尻尾を付け、それから金ちゃんにリモート通話を使う。


「金ちゃん、おはよう。昨晩は部屋を貸してくれて助かったよ」

『おはようでござる、小森殿。よく眠れたでござるか?』

「寝たのは自宅だけどな」

『そうでござった』

「じゃあ、俺はこれからダンジョンに行くから」

『頑張ってくれでござるよ』


 これから向かうのは、もう一つのDランクダンジョンだ。

 王都の北東部に位置しており、こちらも行き来だけなら日帰りができる距離らしい。


 そして王都を出発し、およそ一時間。

【狗人王の尻尾】の効果か、走っていくと予想よりかなり早くダンジョンの入り口に辿り着くことができた。


「ここがDランクダンジョン『ゴブリンの巣穴』か」


 言わずと知れた最弱の魔物、ゴブリンばかりのダンジョンらしい。

 難易度はコボルトと大差ないそうだが、王都からの距離や得られる素材の程度もあって、こちらの方が遥かに人気がないという。


 あと、ゴブリンはキモいしな。


 ダンジョン産のゴブリンに関しては、女性を襲って子種を植え付けるみたいな真似はしないそうだが、それでも女冒険者などからは敬遠されているとか。


「野良のゴブリンは違うのか……」

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