第29話 バランスブレイカーでござる
「ということはあれだな。簡単なダンジョンから攻略していって、エクストラボスの攻略報酬を集めていくのがよさそうだ」
「そ、そうでござるな……こんな性能の装備が幾つも手に入ったら……。正直、とんでもないことになりそうでござるが……もはやバランスブレイカーでござる」
「そうか? 装備できるのは俺だけだし、その俺はレベルの割に雑魚ステータスだしで、そんな大した影響力はないだろ」
金ちゃんによれば、ここ王都の近くにあるダンジョンは全部で五つだという。
そのうち二つがDランクで、二つがCランク、そして最後の一つがBランクらしい。
次はもう一つのDランクを攻略するかな。
それから徐々に難易度を上げていこう。
「そうだ、金ちゃん。このアバター、今夜はここに置かせといてくれないか?」
俺はそう言って、壁に背中を預けて座り込む。
わざわざこのアバターを家に戻すのは面倒だからな。
部屋も狭いし。
「か、構わぬでござるが、それならちゃんとした部屋を用意するでござるよ」
「部屋? 別にいいって。本体に意識を戻したら、ただの人形と同じだから」
「そういうわけにはいかないでござるよ。万一、従業員が見つけたら驚くでござるし」
そんなわけで、俺はここキンチャン商会本社に隣接する社員寮の一室を貸してもらい、そこにアバターを置いておくことにしたのだった。
翌朝、引き籠っている自室で目を覚ました俺は、レーニャのために朝食を用意した後、再びベッドに寝転がって意識をアバターへと移した。
「そうだ。次のダンジョンに行く前に、ちょっと一つだけ確かめておきたいな」
借りている一室でアバターを起き上がらせると、俺はある実験を行うことにした。
すべての装備を外して、剣だけを手にする。
そのまま剣を自分に向かって振り下ろした。
---------------------------------------------------------------
HP:2931
---------------------------------------------------------------
「おっ、自分への攻撃でもちゃんとダメージを受けるんだな。てか、キングコボルトから受けたのよりダメージあるんだが」
ちなみに痛みは一切ない。
昨日のダンジョン攻略中に魔物の攻撃を受けたときもそうだったが、何の痛みも感じないのだ。
一方、昨日レーニャに顔を叩かれて痛かったように、本体だとしっかり痛覚がある。
どうやらアバターの方だけ、痛みがないようになっているらしい。
それに剣で斬っても血が出たりはしない。
これもアバターだからで、本体の方は普通に出血する。
「さて、後はこのままHPを削り続けて……」
俺は自分で自分を攻撃し続けた。
防具類を身に付けていないこともあってか、順調にHPが減っていく。
そう。
このアバターのHPが0になるとどうなるのか、確かめようとしているのである。
---------------------------------------------------------------
HP:0
---------------------------------------------------------------
そしてついに削り切ったと同時、突如として視界が切り替わっていた。
「なるほど、本体の方に意識が自動的に戻るわけね」
俺はベッドの上に仰向けになっていた。
完全にアバターに意識を移す前とまったく同じ光景だった。
ただ一つ違ったのは、レーニャが俺の顔を覗き込んでいたことだ。
さっきまで炬燵の中に潜り込んでたのだが……。
「ふぎゃっ!?」
俺が急に目を開けたせいか、レーニャは驚いて炬燵の中へと逃げ込む。
「……どうしたんだ?」
俺が昨日から寝てばかりなので心配したのだろうか?
訊いても答えてくれないだろうし、レーニャに食べ散らかされたお皿を片づけてから、新たなアバターを生成した。
「よし、問題なく作れるな」
MPは全消費するものの、クールタイムなど必要なく、すぐに新たなアバターを作り出せるらしい。
俺はベッドに戻ると、意識をそのアバターへと移動させる。
その新しいアバターで家を出たときだった。
「あ、兄貴! 中から出てきやがったっすよ!」
「やっとか! クソガキが、余計な手間をかけさせやがって!」
「って、あれ? いつの間に家に……? 昨日、初めて出ていくの見てから一度も戻って来てないはずっすけど……」
「んなこたぁ、どうでもいい! とっとと拉致って連れてくぞ!」
「へ、へいっす!」
だいぶ前にドア越しに見かけた三人組が、俺の前に立ち塞がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます