第28話 そういう性癖に目覚めたのかと

 王都に帰ってきた俺は、その足で金ちゃんのところへ向かった。


「おお、小森殿。無事に戻ってきたでござるか」

「お陰様で」

「どうでござったか?」

「思ってたより簡単だったな」

「予想通りでござるな」


 金ちゃんが言うには、この世界のダンジョンはその難易度から、D、C、B、A、Sの五段階に分類されているという。


 そして『コボルトの鉱窟』はDランク。

 最も攻略が容易なダンジョンに位置付けられているそうだ。


「小森殿のステータスを考えると、ソロでもまずやられることはないでござるよ」

「エクストラボスですら、大したダメージ喰らわなかったからな」

「……エクストラボス?」


 金ちゃんが首を傾げた。


「もしかしてあまり一般的ではないのか? 通常のボスをソロで、しかも初見で倒すと出てきたんだ」

「そんなボスが……リュナ殿、知っていたでござるか?」


 金ちゃんの傍で話を聞いていたハーフエルフのリュナさんは、「はい」と頷いた。


「聞いたことはございます。ただ、エクストラボスを攻略しようと考える人は、ほとんどいないと言っても過言ではありません」

「マジか。悪くない攻略報酬に思えたんだが……」


 ソロでボスを初見攻略する、という条件は一見厳しいように思えるかもしれないが、少なくとも低ランクダンジョンでは難しいことではないはずだ。


 なぜなら事前に攻略情報を得ておいたり、あるいは適正レベルを大きく超えた状態で挑んだりすれば、問題なく達成できるはずだからである。


「となると、やっぱ大した効果量じゃないってことか」


 考えられるのは、攻略報酬が労力に見合ったものではないという可能性だ。

 敏捷が50%上昇するというのは、なかなかの性能だと思ったんだがな。


 むしろ俺の感覚だと、ぶっ壊れ性能と言ってもいいぐらいだ。


「小森殿、もしかしてその攻略報酬というのは、お尻に付けられたそれでござるか?」

「え? ああ、そうだ。見た目はちょっと恥ずかしいけどな。ただ、これを装備してるだけで素早さがめっちゃ上がるんだよ」

「そうだったでござるか。拙者はてっきり、小森殿がそういう性癖に目覚めたのかと……」


 お尻に尻尾を付ける性癖って何だ。


「なっ……エクストラボスの攻略報酬を、装備した、というのですか……?」


 なぜかリュナさんがわなわなと声を震わせている。


「リュナ殿、どうしたでござる?」

「……エクストラボスの攻略報酬は、どれも破格の性能を持っていると言われています。なのに、なぜ誰も攻略しようとしないのか。それはひとえに、手に入る装備のレベル制限が異常に高すぎるからです」

「なるほど、レベル制限でござるか」


 どうやらレア装備の中には、誰でも装備できるわけではなく、特別な条件を必要とするものあるらしい。

 判明している限り、エクストラボスの攻略報酬はすべてがレベルによる制限、すなわち、一定以上のレベルに到達していないと、装備することができないという。


「レベル80を超えた人ですら、どれも装備不可能だったことから、最低でも100以上のレベルが必要なのではないかと言われていますが……」


 リュナさんが恐ろしいものを見たような目で俺を見てくる。


「ええと……俺のレベルは……300」

「しゃっ、しゃんびゃく!?」


 いつもは冷静沈着なはずのリュナさんが変な声を出した。


「さ、さすが、ご主人様と同じ異世界の方……」

「小森殿はその中でも規格外でござるからなぁ。それで小森殿、その尻尾の性能は……っ!? な、何でござるか、その性能は!?」


 どうやら鑑定したらしい。


「敏捷50%上昇!? そんな装備、初めて見たでござるよ! そんなものがDランクダンジョンで手に入ったというのでござるか!?」

「すごいのか?」

「凄いどころではないでござる! 10%ですら、高レベル者たちが大金を支払って取り合うくらいでござるよ! 20%でも国宝級! 50%なんて、一度も見たことないでござる!」


 やっぱりぶっ壊れ性能だったようだ。

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