第27話 関わってはいけない相手だと思う
エクストラボス、なんて言うので期待していたのだが。
「正直、大したことなかったな」
キングコボルトの巨体は地面に倒れ込み、ピクリとも動かない。
「――エクストラボス:キングコボルトを倒しました」
そのアナウンスが聞こえるまでは、ここから起き上がってきてもう一戦あるのではと身構えていたが、どうやら終わってしまったらしい。
受けたダメージは500にも達していない。
しかもほとんどノーガードで戦っていてそれだ。
その気になれば、攻撃を喰らわずとも倒すことができていただろう。
キングコボルトからドロップしたのは、【コボルトの大牙】だった。
いや、コボルトリーダーからも同じの落ちたわ。
【コボルトの牙】の上位素材だろうが、さすがにエクストラボスでこれはない。
渋いドロップだなと思いつつ、とりあえず魔法袋の中に仕舞っておく。
「あ、また宝箱が出てきたぞ。今度はエクストラボスの攻略報酬か」
開けてみると、そこにあったのはふさふさの尻尾だった。
「何だ、これ? 【狗人王の尻尾】?」
名前だけは分かるが、鑑定スキルがないため、何に役立つアイテムなのかまったく分からない。
ただの素材だったら怒るぞ。
だがこれ、どうやら装備アイテムだったらしい。
試してみたら装備することができたのだ。
「……いや、しかしこれは恥ずかしいぞ……」
装備することはできたのだが……その場所はお尻だった。
そう、傍から見ると、まるで尻尾のコスプレアイテムを装着しているようなのだ。
仮面をかぶり、高性能装備に身を包み、お尻には尻尾のアクセサリー……うん、さすがにカオス過ぎる。
ただ、普通のアクセサリーと違うのは、自分の意思で動かすことができる点だ。
ふりふりふり、と思い通りに尻尾が動き、まるで獣人になったような気分。
「そもそも獣人がいる世界だ。獣人だと思われるだけかもな」
それにしてもこの尻尾、ベルトに引っかけているわけでもなければ、お尻の穴に挿しているわけでもない。
単にお尻に当てているだけで、まるで磁石のようにくっ付いてしまっているのだ。
そして装備していれば、簡単な説明を見ることができる。
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狗人王の尻尾:『コボルトの鉱窟』のエクストラボス攻略報酬。敏捷50%上昇
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「敏捷50%上昇……? もしかしてこれ、かなり凄い装備なのでは?」
この世界の装備品の相場がまだ分からないので何とも言えないが、結構な上昇率に思える。
「まぁでも、エクストラボスの攻略報酬とはいえ、あくまで超初級ダンジョンだしな。そう珍しいものじゃないのかもしれん」
一応この状態で試しに走ってみると、めちゃくちゃ速度がアップしていた。
ちなみに二体のボスも含め、かなりの数の魔物を倒しているが、それによる獲得経験値はゼロだった。
自室にいる以外の方法では経験値を得ることができない、って言ってたしな。
ゴゴゴゴゴゴ……。
「奥にあった扉が開いたぞ」
入ってきたのとはまた別の、部屋の奥の扉が独りでに開く。
その先には上への階段が見えた。
「これで地上まで帰れるってことか」
階段を上っていくと、やがて扉が見えてきた。
それも勝手に開いて、出てみるとそこはダンジョン出入り口のすぐ近くだった。
「ここに出られるのか。あれ? 扉が消えた」
振り返ると、上がってきたはずの扉が跡形もなくなっていた。
完全に一方通行の階段だったらしい。
ダンジョンを出ると、すでに外は暗くなっていた。
王都に帰ろうとしたところで、前方に複数の人影を発見する。
「「あ」」
そのうちの一人と目が合ってしまう。
それを皮切りに、他の者たちもこちらを向く。
「げ」
「仮面の……」
「また会った……」
げ、って……。
暗くても、彼らが明らかに嫌そうな顔をしたのが分かった。
あのとき逃げてしまったせいか、変な奴と思われているのかもしれない。
俺は軽く会釈だけして、そそくさと彼らの脇を通り過ぎる。
気まずい思いをしながら、慌ててその場を立ち去るのだった。
「な、なぁ……俺の見間違えかもしれないが……あの仮面、お尻に尻尾を付けてなかったか?」
「奇遇ね……私もそう見えたわ」
「やっぱり、あまり関わってはいけない相手だと思う……」
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