第19話 言わんこっちゃない

〈設備獲得ボーナスです。獲得したい室内設備を一つだけ選んでください〉


 250日が経ったとき、これまでになかったアナウンスが流れてきた。


「設備獲得ボーナス?」


 これまでだと50日ごとにユニークスキルを取得できるようになっていたが、どうやら今回は違うらしい。


〈獲得できる室内設備は以下の通りです〉


---------------------------------------------------------------

電気

バスルーム

シャワートイレ

システムキッチン

ウォークインクローゼット

---------------------------------------------------------------


「つまり、この五種類の中から一つ選べば、それがこの部屋で使えるようになるってこと?」


 ……正直どれも欲しい。


 電気があれば、わざわざ発電機に蓄電してもらわなくても済むようになるだろう。

 あまり何度も蓄電を頼むのも気が引けるので、かなり節電している毎日だ。


 電子レンジや電気ポットなんかが使えるようになれば、インスタントラーメンや冷凍食品系を気軽に買うことができるようになるはずだ。

 ゲームだってできる。


 バスルームは清潔維持スキルがある俺には必要ないが、レーニャはぜひ入れてやりたい。

 汚いからちゃんと身体を拭くよう口酸っぱく言っているものの、なかなか言うことを利かないのである。


 トイレは今のところどうにかなっているが、やはりあれば嬉しい。

 俺がテント内のブツを回収しようとしたら、レーニャが立ち塞がって邪魔をしてきたりするのだ。

 一応、女の子だから嫌がっているのだろうか……。


 キッチンは最近よくやっている料理のためにも欲しい。

 せっかく自炊スキルも取得したし、カセットコンロではなくちゃんとしたキッチンでやりたいところだ。


 ウォークインクローゼットって、確か人が出入りできる収納スペースのことだ。

 最近、通販で購入した物に加えてレーニャも増え、かなり手狭になってきたので、できれば収納できる場所が欲しいと思っていたのである。


 それにしても、電気以外はそれなりのスペースが必要だと思うのだが、一体どうするのだろう……薄壁一枚で隣と隔てられたこの部屋に、拡張する余地なんてないはずだが。


「……やっぱり電気かな」


 通販スキルで電化製品が手に入るから、一番汎用性が高いだろう。


〈部屋に電気が通りました。五か所にコンセントが出現しました〉


 確認してみると、確かにコンセントが見つかった。

 最大容量どれくらいだろう?


「てか、何でこの職業、世界観があっちの世界なんだ? この世界にコンセントなんてないはずだ。それにシャワートイレとか、システムキッチンも」


 それを言ったら、そもそも「ひきこもり」自体がこの世界にはない概念である。


「まぁ通販なんてスキルがある時点で、今さらっちゃ今さらだが……」

「……?」

「あ、こら。そこに指を突っ込むな。感電するぞ」


 バチンッ!


「んぎゃっ!?」

「言わんこっちゃない」

「ふしゃあああああっ!」


 せっかく制限なく電気が使えるようになったし、また一段と冷え込む季節になってきたので、炬燵を購入した。


 ずっと家の中にいるから気づかなかったが、家の外を覗いてみたら雪が積もっていたほどだ。

 向こうの世界で言えば、一月二月の本格的な冬が到来したという感じか。


「にゃぁぁぁ……」


 するとこれまでベッドの上を定位置にしていたレーニャが炬燵へと移動し、そこから全然出てこなくなってしまった。

 炬燵の中で猫のようにずっと丸くなっているのだ。


 別にそれはいいのだが、俺が足を入れようとすると引っ掻いてくるから困る。


「しゃぁっ!」

「俺にも足くらい入れさせてくれよ」

「う~~。…………くさい!」

「臭くはないだろ。清潔維持スキルがあるんだから」


 人んちに居候しているくせに、なかなか我儘な猫だ。


「炬燵と言ったら鍋だし、今日は鍋にするかな」

「……なべ?」

「肉や野菜なんかを入れて煮込む料理だよ。そうだ。猫鍋にするのもありかもなー。ちょうど一匹いるし」

「~~~~っ!?」


 レーニャが物凄い速度で炬燵から飛び出し、部屋の隅っこまで逃げた。


「冗談だよ、冗談。ていうか、猫鍋は料理じゃない」


 それからしばらくの間、また警戒されるようになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る