第20話 触ってみても完全に人間だぞ

 ついに300日が経過した。


 俺たちが異世界に召喚されて、そろそろ一年。

 だというのに、俺が見ている光景は初日からまったく変わっていない。


 ただひたすらレベルだけが上がっていく。


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小森飛喜

 職業:ひきこもり

 レベル:300

 HP:3000 MP:3000

 筋力:300 耐久:300 敏捷:300 魔力:300 精神:300

 ユニークスキル:部屋の主 部屋セキュリティLV10 通販LV10 ゴミ捨て リモート通話

 スキル:排泄耐性LV10 空腹耐性LV10 暇耐性LV10 清潔維持LV10 騒音耐性LV10 寒さ耐性LV10 快眠LV10 消音LV10 瞑想LV5 日曜大工LV5 体型維持LV5 清掃LV5

 SP:12000

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 今やレベル300だ。


 金ちゃんが言うには、この世界ではレベル100に到達したことのある人間すら、歴史上たったの数人しかいないという。

 レベル300なんて恐らく史上初だろう。


 だが残念ながらステータスの方は随分としょぼい。

 相変わらず常に1ずつしか上昇していかないのだから当然だった。


 あと戦闘系のスキルを一切持ってないしな。

 戦闘では、単なるステータス以上にスキル構成がモノを言うものだ。


 まぁこの部屋から出る機会すらないし、正直どうでもいいのだが。


〈ユニークスキル:アバター生成が取得できるようになりました〉


「アバター生成……?」

「……?」


 俺の独り言に、炬燵から頭だけ出していたレーニャが「誰と喋ってんの?」という顔で首を傾げる。


 アバターは「化身」という意味を持ち、仮想空間における自分の分身となるキャラクターのことだ。

 それを生成するというは、一体どういう意味だろう?


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アバター生成 10000

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 取得に必要なスキルポイントは10000。

 今までで最大のポイントを要求されている。


「めちゃくちゃ高ポイントだな……だからこそ期待できるとも言える」


 今までユニークスキルで役に立たなかったものはない。

 幸い12000ポイントあるし、ここは取る以外の選択肢はないだろう。


「よし、取得してみるぞ」


 俺は10000ポイントを消費し、新たなユニークスキルを獲得した。


〈アバター生成を取得しました〉

〈アバターの生成が可能となるユニークスキルです。生成にはすべてのMPを消費します。生成したアバターは本体と同一のステータスを持ち、遠隔で動かすことが可能です〉


 生成にはMPが必要らしい。

 MPを使うなんて初めてだ。


 しかも全MPを使い切ることになるらしい。

 HPだって減らしたことがないのに。


「とにかくやってみよう。アバター生成!」


 次の瞬間、俺のすぐ目の前に、俺とまったく同じ姿形をした人形(?)が出現していた。


「にゃっ!?」


 いきなり俺が二人に増えたので、レーニャが驚いて炬燵の中に引っ込んでしまった。

 見間違いかと思ったのか、恐る恐る顔を出してきたが、やはり俺が二人のままだと分かってすぐに炬燵の中に隠れる。


「すごいな。瓜二つだ。……っ!? これ、触ってみても完全に人間だぞ!?」


 ちゃんと人間の身体の感触だった。

 しっかり体温まであるし、常に胸が上下していて呼吸をしているように見える。


「動くのか? 右手を上げてみろ」


 命じるままにアバターが右手を上げた。


「歩け」


 今度は部屋の中を歩き出す。


「しかし命じないと動けないんじゃ、俺が常に傍にいないとダメってことか?」


 それでは家の中に引き籠っている俺が二人に増えただけ。

 何の意味もない。


 だが色々と試してみた結果、どうやら意識を集中させると、アバターの視点から周囲を見れるようになることが分かった。

 そしてそのままアバターを動かすことができる。


 要するに意識をアバターへ移動させたような状態だ。

 何のラグもなく、本当に自分の身体のようにアバターが動いてくれた。


「まるでフルダイブ型のVRゲームみたいだ。いや、それ以上か」


 五感すべてでゲーム世界を味わうことができる、革新的な技術が開発されてから十年あまり。

 俺も様々なゲームをプレイしてきたが、ここまでリアルなものはなかった。


「って、そもそもリアル異世界なんだった」


 もしかしてこのアバターなら、部屋の外に出ることができるのでは?

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