第16話 医療行為だから

「金ちゃん、聞こえるか?」

『っ!? その声は……もしかして小森殿でござるか!?』

「よかった。ちゃんと聞こえているみたいだな」

『一体どういうことでござる? 小森殿の姿は見えぬのに、声だけは聞こえてくるなんて……』

「実は俺の新しいユニークスキルの力なんだ。離れた場所にいる相手と会話ができる」

『なんと! またしても便利なものを手に入れたでござるな! さすが小森殿でござるよ!』


 どうやら電話やネットがあった地球と違い、遠く離れた相手と話をするのは、この世界では難しいことらしい。

 一応そういったことを可能とする魔法や魔道具はあるらしいが、非常に珍しいそうだ。


『情報を一瞬でやり取りできるというのは大きな力でござるよ。どれくらいの距離まで可能なのでござるか?』

「今のところ分からないな。まだ金ちゃんにしか使ってないし」

『もしクラスメイト全員と通話できるようになれば、各地の情報が簡単に手に入るようになるでござるよ』


 それはシステム的には可能かもしれないが、俺の心理的に無理な話だ。


『って、リュナ殿!? そ、その恰好は一体っ……ちょっ、待つでござる! 拙者は今、小森殿と……』

「金ちゃん?」

『すまぬでござる小森殿! いったん切ってもらってよいでござるか!? リュナ殿がっ……ベッドに――』

「……」


 俺は無言で通話を切った。

 ……リア充爆ぜろ。


「金ちゃんが大人の階段を上っていく……」


 一方で俺は一人寂しく部屋で引き籠り生活。

 出会いがあるはずもない。

 べ、別に悲しくなんてないけどな!


 そう言えば一度、金ちゃんから「小森殿も奴隷を買ってみてはいかがでござるか? 無論、性奴隷ではなく、メイドとしてでござるよ」と言われたことがあったっけ。

 もちろん俺は「こんな狭いところにメイドなんて要らない」と言って断ったのだが。


 だいたい他人がずっと自分の部屋にいるとか、俺には耐えられない。

 某幼馴染みたいにまったく気を遣う必要がないような相手だと少しはマシだが、それでも長時間は御免だった。


「まぁペットとかならありかもな。喋る必要がないし」


 ペットって通販で買えないんだっけ?


 と思ったが、どうやら無理そうだった。

 そりゃそうだよな。


〈来客です〉


 そんなことを考えていたら、また来客が来たようだ。


「誰だ、こんな時間に? 夜なんだが?」


 ドア越しに外を確認する。


「あれ? 誰もいない? ……いや、下に何か置いてあるな? 荷物? 頼んだ覚えはないけどな……」


 暗くて見えにくいが、毛布くらいの大きさだ。

 というか、丸みというか、柔らかそうな感じもあって、本当に毛布ではないだろうか。


 だがよくよく目を凝らして見ていると、規則的に動いている気がした。


「……え? これ……もしかして人じゃね?」


 そう思うともはや人にしか見えなくなった。

 しかもサイズ的に子供だ。


 子供がドアの向こうで倒れているとなると、さすがに放っておくわけにはいかない。


 俺は恐る恐るドアを開けてみた。

 幸い内開きなので、向こう側に人がいても邪魔にならない。


 外は酷い雨だった。

 ボロボロの衣服を着た子供が、びしょ濡れになってそこに倒れている。


「おいおいおい、マジかよ。ええと、救急車……って、この世界にそんなのあるわけねぇ」


 俺は外に出ないよう気を付けつつ、倒れた子供を抱えて部屋に入れた。

 てか、めちゃくちゃ軽いな。


 可愛らしい女の子だった。

 年齢はせいぜい十歳くらいだろうか。


「だ、大丈夫か?」


 呼吸をしているので生きているのは間違いないだろう。

 見たところ怪我をしている様子はないが……。


「うわ、すごい熱だな……」


 どうやら高熱が出ているようだ。


「べ、ベッドに寝かして……いや、その前にこの濡れた身体をどうにかしてやらないと。服も着替えさせた方が……し、仕方ないよな! 医療行為だから! 医療行為!」

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