第14話 開けねぇとぶち破るぞ

「あれ? またリュナさんかな? でも、次の仕入れはもう少し先のはずだけど……」


 ある日のこと。

 来客通知を受けた僕は、玄関越しに来客の姿を確認する。


「……知らない連中だ」


 そこにいたのは見知らぬ三人組だった。

 ガタイが良く、その人相から考えて堅気とは思えない。


 一体、何の用かは知らないが、


「こういうのは無視するに限るな」


 俺は読んでいる途中の漫画に戻るのだった。



      ◇ ◇ ◇



「兄貴、ここみたいっすね」

「はっ、随分とボロいアパートだな、おい。こんなとこにターゲットがいんのかよ。拉致って連れてこいなんて、これじゃ子供でもできるだろ」

「……」


 年季の入ったアパートの前に、人相の悪い三人組が集まっていた。

 三人とも見た目がよく似ているのは、彼らが兄弟だからだ。


 彼らは裏の世界ではそれなりに名の知られた三兄弟で、殺しに盗み、破壊に拉致など、依頼されればどんな悪事にでも手を染める何でも屋だった。


 今回彼らはとある依頼人から、このアパートの一室に住む少年を攫ってこいとの依頼を受けていた。


「お貴族様の屋敷に侵入しての暗殺とかよ、もうちっとヒリヒリするような依頼にしてくれねぇとやる気でねぇんだよな。報酬がいいから引き受けてはやったけどよ」

「確かに内容の割に破格の報酬っすよね。こんなとこの住人に、そんな価値があるとは思えないっすけど」

「なぁ、お前はどう思う?」

「……」

「ったく、相変わらず無口だな、お前は」


 長男が吐き捨て、ドアに近づいていく。


「おい、開けろ。開けねぇとぶち破るぞ」


 ドンドンとドアを叩いてみるが、返答はない。


「中に誰かいるのは分かってんだよ。俺様の捜索スキルを舐めんじゃねぇぞ」


 長男はドアの向こうにある気配をはっきりと捉えていた。

 これまでもターゲットの居場所を突き止めたりするときなどで、役に立ってきたスキルだ。


 だがやはり反応はなかった。

 ちっ、居留守かよ、と長男は舌打ちして、


「マジでぶち破るしかねぇな。こんなボロいドア、俺の拳でも楽勝だろ」


 ところどころ腐りかけ、いかにも薄っぺらいドアである。

 戦闘専門ではない長男だったが、自信満々で拳を振りかぶると、軽く助走をつけてドアを殴りつける。


 ガンボキッ!


「~~~~~~~~~~~~っ!?」


 まるで鉄の塊を殴ったかのようだった。

 ぶつかった瞬間に骨が砕けたような音が鳴り響き、長男は悶絶してその場にひっくり返ってしまう。


「痛ぇぇぇっ!? な、なんだこのドアは!? めちゃくちゃ硬ぇじゃねぇかよ!?」

「あ、兄貴!? 大丈夫っすか!?」

「ぽ、ポーションだっ! ポーションを出せぇっ!」


 慌てて回復ポーションを拳に振りかけながら、長男は親の仇でも見るかのような目でそのドアを睨みつけた。

 放っておいても破れそうなドアだというのに、殴った箇所には何の痕もない。


「くそったれ! ボロドアの分際で、よくも俺様の手をやりやがったな!」


 怒りのあまり今度はドアに蹴りを見舞った。


「~~~~っ!」


 やはり硬かった。

 蹴った足に流れた電流に、再び悶絶してしまう。


「……兄貴、任せろ」


 兄の仇を取ろうと前に出たのは無口な次男だった。

 三人の中で最も体格のいい彼は、背負っていた巨大な戦斧を片手にドアへと近づいた。


「ははっ! そのムカつくドアをぶっ壊しちまえ!」

「やっちまえ!」


 兄弟からの声援を受け、次男が戦斧を思い切りドアに叩きつける。


 ガキィィィィィィィィィィンッ!!


 戦斧の刃が砕け、破片が周囲に飛び散った。


「……は?」


 これには怒り心頭だった長男も唖然とするしかない。


「お、おい、どういうことだ……? 何で戦斧の方が砕けてんだよ……? このドア、木製じゃねぇのか……?」

「こ、ここはおれに任せておくっすよ!」


 兄二人の失敗を受け、手を上げたのは三男だ。


「どんなに硬かろうと、木製のドアなら火には弱いはずっす!」

「なるほど、そいつは間違いねぇ!」


 三男は魔法使いだった。

 杖を構えて詠唱し、渾身の火魔法を放つ。


「こいつで終いっす! ファイアランス……っ!」


 燃え盛る炎の槍が一直線にドアへと向かっていく。

 今度こそ一溜りもないだろうと、忌々しいドアが燃え尽きる様を想像していた彼らは次の瞬間、最悪の展開に陥ってしまう。


 炎の槍は決してドアを焼くことはなく。

 それどころか勢いよく激突したせいか、弾き返されて周囲に大きく四散。


 その結果、三兄弟に炎の雨が降り注いだのだった。


「「「ぎゃああああああああっ!?」」」

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