第12話 先輩に勝負飯を食べてもらいました ー 寺本聖
その日、私は朝四時に起きました。決戦の日の初日です。
お昼のお弁当は気合を入れて作りました。だって先輩と一緒にランチなんですよ! 変なお弁当なんか持っていけませんから。
朝ごはん用のおにぎりはお得意の梅昆布ツナ鮭の四種混合の具をいれます。ちょっと大きくなるのが難点ですが私の勝負飯です。
でも、女子生徒に大人気の小野里先輩と中庭でランチなんて。今日は夢のような日です。しかもこれがこれから毎週二回もやって来ます。
あっ、もう出かけないと。
学校に着いて教室にカバンを置いて中庭に急いで向かうと先輩はもう来ていました。遅れました。
「遅れました。すみません先輩」
私は先輩に謝ります。
「まだ集合時間前だよ」
先輩は優しく言ってくれます。よかった。
「じゃあ、さっそくやっちゃいますか。ホース出しといたから聖は水栓の開け閉めとホースのリールを持ってついて来てくれる?」
「はい!」
ん? 元気よく返事をしたのですが何か違和感を感じました。何でしょう?
でも、考える間もなく私は水道の蛇口のところにスタンバイします。
「聖、水出して」
「あっ、はい。出します」
水道の栓を回します。
ホースが先端に向かって徐々に膨らみ先輩の持つ先端からシャワーが出ます。
「聖、もっと出せる?」
「出せます。出しますよ」
「頼む」
私は水道の栓を全開まで開けます。
「リールをこっちに持って来て」
「今行きます」
私は急いでホースが巻かれているリールを持って先輩の方に近づいて行きます。
こうして私たちは中庭の花壇の水やりを端から端まで満遍なく済ませました。
時間はかかりましたが結構、楽しいですね。
作業が終わり道具の片付けも済んだ時でした。
「腹減ったなぁ。パンでも買ってくるか」
「おにぎりでよければ食べますか? 私、朝ごはん用におにぎりを握ってきたので」
反射的に言ってしまいました。
「僕の分もあるの?」
先輩が尋ねてきます。
「二個作ってきましたから一個ずつでよければ。一個が結構大きめなので小さいおにぎりの二個分くらいあります」
「十分だよ」
「じゃあ教室に置いてあるので取ってきますね」
「そこのベンチで待ってるよ」
私は教室に急ぎます。先輩に私の握ったおにぎりを食べてもらえます!
今日はお昼ご飯を一緒に食べられるっていうだけでテンションマックスだったのに、その前にもっと凄いイベントが来ました!
カバンの中からおにぎりを取り出すと私は急いで中庭に戻ります。
先輩はベンチに腰掛けていました。
「お待たせしました」
私は先輩から三十センチほど離れてベンチに座り、おにぎりの入った包みを先輩との間に置きました。
包みを開くと大き目のおにぎりが二個。大き目に作ってきて大正解です。
「小野里先輩。好き嫌いはありますか?」
「いや、ないよ」
「どっちも中身の具は同じです。どうぞお好きな方を」
「中身って何が入ってるの?」
「好き嫌いがないのでしたら食べてみてのお楽しみで。おにぎりに入りそうな具ですから。奇抜な物は入っていません」
「じゃあ、いただきます」
そう言って先輩はおにぎりを一個取って口に運びました。
「どうですか?」
ん? 先輩の口が一瞬止まりました。そしてまた一口、二口動く。中身が分かりましたか?
先輩がかじったおにぎりを見つめた後に私を見て言います。
「これ色んな具が入ってる」
「正解です。梅、昆布、ツナ、鮭の四つの具が入ってます」
「聖、これ美味いぞ」
うわっ。先輩の笑顔頂きました。
今、この笑顔を見ているのは世界中で私一人だけです。
「ありがとうございます。お口にあってよかったです」
本当に良かった。喜んでもらえて何よりです。
先輩はおにぎりの残りもムシャムシャと食べ進めていきます。私も負けじと食べます。
労働した後のご飯は美味しいですねえ。
「ご馳走様でした。こんなに美味いおにぎりを食べたのは初めてだよ」
「そんなに褒められると照れちゃいますよ」
「もしかして聖って料理が得意だったりする?」
「それ程でも」と言いたいところですが、すぐにバレそうなので正直に答えます。
「得意か不得意かと言われれば得意です。一応プロの料理人仕込みなので」
「プロの料理人?」
「ウチって食堂をやってるんです。だから小さい頃から家の手伝いをして覚えました」
「聖も料理を作るの?」
「従業員さんが足りない時には普通にキッチンに入って作ってます」
「聖、凄いじゃん」
「家業ですから」
「聖のウチの店の料理でオススメは?」
「私的にはオムライスです」
「で、お店はどこにあるの?」
「西窪川駅前商店街です。寺本食堂って言う名前でやってます。大衆食堂ですよ」
「へぇ、憶えておこっと」
片付けをするとそろそろ楽しい時間も終了です。
「じゃぁ、お昼休みが始まったらすぐに集合で、水やりの後にここでランチをご一緒にするというのでよいですか?」
「うん、それでいい。そうしよう」
「ではお昼休みにまた。お先に失礼します」
水やりの前に感じた違和感が小野里先輩が私のことを『聖』と下の名前を呼び捨てで呼んでいたからだ! と気付いたのはその日の夜ベッドに入って目を瞑った後のことでした。
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