第11話 週二回の放課後キープ ー 小野里拓真
「この子にするよ」
俺は隣にいるあの子を見ながら宣言した。
四人とも呆気に取られたみたいだけどすぐに隣にいるあの子を見る。
「誰も選べないよ。だから手を挙げていないこの子とペアを組んで火金を担当することにするよ」
俺は隣のあの子の左右の肩を両手で掴みグイッと引き寄せて自分の前に立たせた。
肩を掴んだあの子が固まっている。
「その子とですか?」
「だって誰も選べないもの」
もっともらしい言い訳だ。
「小野里先輩がそう言うなら仕方ないわね」
「何よあの子」
「でも、なんか暗そうだし害はなさそうね」
捨て台詞を吐いて諦めてくれた。さて、ここからが本番だぞ。
俺は肩を掴んでいるあの子をクルッと百八十度回転させて正面を自分の方に向ける。
「僕らは火金でいいか? えーと、名前は……寺本さんでいいのかな?」
名前はとっくに調べ上げて知っていたけれども名札を読んで今知った風を装う。
「は、はい。寺本
面白い子だなぁ。優しいだけじゃなくユーモアもありそうだ。
「寺本さん、面白い自己紹介だね。でも、お陰で名前を覚えたよ。寺本聖。うん。俺は小野里拓真。三年生。宜しくね」
大手を振ってあの子に、寺本聖に右手を出す。すると寺本聖は恐る恐るといった風ではあるけれども右手を出して俺の手を握った。その手を俺も力強く握り返した。
「こ、こちらこそ宜しくお願いします」
「あの? 小野里先輩。つかぬことをお伺いしますが、何をするんでしょうか?」
やっぱり寺本聖は面白い。
「俺と寺本さんの二人で火曜日と金曜日の週二回、朝昼晩の三回、中庭花壇の水やりをするから。その日は朝早く来てよ」
「小野里先輩と私がふ、二人で、ですか?」
おい! 寺本! さては何も聞いてなかったな!
「そう。二人でだね。二人で水やりするのは嫌かい?」
念のために聞いてみるが、ぶるぶるぶると頭を左右に振ってくる。どうやら嫌でないようだ。
「滅相もありません。朝早起きしてきます。昼はどうすればよいのでしょうか?」
「昼休みになったら先に水やりやって、終わったら中庭で一緒に飯でも食おうぜ」
そう言うと寺本聖はこくんこくんこくんと頭を上下に振る。
よし、これで堂々と昼飯を一緒に食える口実ができた。
しかも朝はともかく昼は管理棟からも教室棟からも中庭は大勢の生徒に丸見えだからね。他の男子生徒たちに寺本聖には手を出すなよ! と自然と宣戦布告が出来る。
「夕方は放課後だね。四時過ぎくらいかな。それまでは図書室で勉強でもしてるか」
何気なくそう言ったのだが、ここで思いもしなかったことを寺本聖が言い出した。
「いいですね。じゃあ私も図書室で勉強しよっかなぁ」
これはチャンスなんじゃないか? チャンスだよね? うん。チャンスだ! このチャンスを逃してなるものか。
「じゃあ一緒に勉強する? 時間になったら一緒に中庭に行けばいいから待ち合わせもしなくて済むし。時間も無駄にならないし。放課後は図書室集合で水やりの時間まで一緒に勉強して水やりして帰る。どう?」
俺は一気に寺本聖に畳みかけた。
「よ、宜しくお願いします。火金の放課後は図書室集合ですね」
寺本聖は俺に頭を下げて来た。
「うん」
やった。これで週二日。寺本聖の朝昼夕は俺がキープした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます