第21話 託される祈り
次にアルチュンドリャが指さしたのは、小さなサファイアブルーの石。
「『イヤシノタマノカケラ』だ。ぴっちぃちゃん、知ってるよね?」
ぴっちぃの心臓(?)が、またトクン、と鳴った。
あのときの旅は、Damin-Gutara-Syndromeに罹っていたママの魂を救うために、治療アイテム〈イヤシノタマノカケラ〉を探して、集めて回った旅だったんだ。
鬼火ちゃんたちと一緒にふわふわ飛びながらぴっちぃを優しく取り囲んでいたネプチュン鳥のうちの一羽が、石の傍へ舞い降りてきた。
「わたしの両親がドワフプルトのカロンの〈
「きみは・・・・じゃあ、ヒナちゃんの子孫なんだね!」
もう一つ、また一つ、胸がトクントクンと鳴り、ついでに目にはまたまた涙も浮かんでくる。
「うん。うちの家系ではぴっちぃちゃんたちの活躍は代々語り継がれているのよ。ネプチュン鳥語をマスターしたぺんちゃんの偉業もね」
「きみの一族は、いまも裏の巣へ通っているのか・・・あの家の人たちはどうしているだろう?」
「ああ、アレテー家の人々ね。みなさんお元気よ。ウースさんっていうおじさんがご主人で、お嫁さんとお子さんたちがいて、おじいちゃんとおばあちゃんも畑仕事をなさっているわ。とても朗らかなご家族ね」
「そっか・・・ウースにいちゃんも『おじさん』なんだね、ふふっ。幸せそうでよかった」
アルチュンドリャが両手でその石を大事そうに掬い、胸に当てて祈るように握りしめた。
「この石はグリンへのお守り。育児を頑張れるように」
そう言いながらアルチュンドリャは、幽霊なのに涙がこみ上げてくるのか、ちょっと言葉を詰まらせた。
「・・・グリンの魂の苦しみがぼくの魂へ伝わってくるんだよ」
「グリンさんの魂からアルチュンドリャさんの魂へ?」
「グリンはジュピタンで生まれ育ったから、意識の中ではネプチュン鳥島を故郷だと思うことはあまりない。でも最近になって、ときどき、グリンの魂のカケラが泣きながらここへ帰ってくるんだよ。ジュピタンではグルもデューンくんたちもグリンをサポートしてくれているし、旦那様も忙しいのに精一杯頑張っていて、愚痴を聞いてくれる友達もいる。なのに、グリンの魂の一部はどこか孤独で、まるで迷子になった子どものように彷徨いながら、ぼくの魂を探しにくる」
迷子の魂は悲しいけれど、我が子の迷子の魂を思うのはなお悲しいことだろう。
「この世(注:あの世)から何もしてやれないのがもどかしいよ。ネプチュン様とネプチュン鳥さんが授けてくれた〈裏の巣〉のイヤシノタマノカケラ。これを、グリンへ渡してくれるよう、デューンくんに頼んでほしい」
「わかりました、アルチュンドリャさん。グリンさんの長男くんは、サファイアブルーの瞳だそうですね」
アルチュンドリャからグリンを通してヒュィオスへ受け継がれた、ネプチュン鳥島人の瞳の色だ。
「それから・・・」
〈まだあるのか?〉
べつにうんざりしたわけじゃないけど、いろいろ預けられても説明をちゃんと覚えていられるか自信がない。
「ちょっと休憩しようか。ぴっちぃちゃん、これをあげる」
アルチュンドリャがぴっちぃの手に持たせたのは、なんとおまんじゅうだ!
「はい、これもどうぞ」
横からフォーチュンドリャがペットボトルの緑茶を差し出す。濃いめのやつだ!
「ソーラーシステム大御神様の祭壇に供えられていたのをネプチュン様がこっそりもらってきたそうだ。『ぴっちぃちゃんにおやつ』だって」
「えっと・・・。なんか罰当たりな気もするけど・・・」
「大丈夫。ソーラーシステム大御神様もネプチュン様も、甘いものはあまり得意じゃないそうだから」
「いや、そういう問題じゃなくて・・・」
そう言いはしたものの、ぴっちぃも、ま、いっか、ってな気分になり、乾燥してちょっとパサついたおまんじゅうをいただき、ペットボトルのキャップを開けてお茶を飲んだ。
おやつを食べて落ち着いたところで、ぴっちぃの掘った穴の中からもう一つの、一番小さい石をアルチュンドリャが手に取った。もはや石というより粒といったほうがふさわしい。
「ソーラーシステム全世界にとって、要石となり得る重要な物質らしい。デューンくんに渡してほしい」
赤黒い炭色の中にミクロの砂金が透けて見えるような粒。金色の光がその内部で呼吸するように微かに点ったり消えたりしている。
「不思議な粒ですね。まるで生きてるみたい。デューンさんの研究課題と関係があるのでしょうか?」
「『隠しておいたんだけど、グル・クリュソワが早くよこせってしつこいし、デューンにならあげてもいいかなと思って』と仰せなのはジュピタン様だそうだ。この世のものではない、と」
なんかヤバいやつだきっと。すごく大事な、そして革命的な物質にちがいない。そんなものを今まさに託されようとしているぴっちぃの手が少し震えた。震えるぴっちぃの手をアルチュンドリャが包む。
「神様たちが自然界の法則に隙間を開けて授けてくれたんだよ。ぴっちぃちゃん、これを人間世界へもたらす使者はキミしかいない」
ごくりと固唾をのみ、ぴっちぃはうなずく。
それから、預かった石たちをひとつひとつ、確認する。
〈そういえば、昔の旅で、サターンワッカアルやドワフプルトの石さんたちとおしゃべりしたっけ。この石さんたちもしゃべれるのだろうか? 話しかけてみようか・・・〉
そんな考えが浮かんだとき、ぴっちぃの手のなかで、石たちが順番に一瞬ずつ微かに光った。まるでぴっちぃへ向かってウインクするみたいに。
〈ああ、そうだね〉
なにがそうだねなのかわからない。でも、ぴっちぃには石さんたちの意思が伝わったような気がした。イシだけに・・・。いや、ダジャレじゃなくて、石さんたちのドーレマやグリンやデューンたち若い世代へ向けられる堅固な力と覚悟が、言葉を超えてぴっちぃにも感じられた。ぬいぐるみ人生経験を積んできたぴっちぃならではのセンサーだ。
フォーチュンドリャがひとつひとつ大事に大事に、祈るように、石さんたちをぴっちぃの手のひら(?)から巾着袋に入れてくれた。どこから調達してきたんだろう?
あのときの旅でも、みつけたイヤシノタマノカケラを巾着袋に入れて持ち帰った。あの巾着袋は、ひとつめのイヤシノタマノカケラ〈一歩踏み出す意志〉をみつけたとき、占い師のジュピ田さんがくれたものだ。入れ物にすぎない小さな巾着袋だけど、神様やご先祖様や、みんなの祈りを包んで守ってくれるんだ。
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