第3話 キツネ

 部屋に入ると、さみ子はベッドサイドに腰かけて、トランクの中から小さな写真立てを取り出しました。そこには小さな女の子とキツネの子どもが映って居りました。

「そう云えば、キツネの赤ちゃんがうちに来たのは、1978年頃だったかも知れないわ」

 さみ子はぼんやりと考えました。

 ある晩、さみ子のうちにキツネの子が迷い込んできたのでした。キツネの子は後ろ足を怪我して居りました。さみ子のお母さんは、キツネの子を近くの動物病院へ連れて行き、足に包帯を巻いて貰いました。さみ子は、キツネの子に赤ちゃんと名前を付けて、果物や野菜をご飯に与えました。キツネの子はそれはそれは可愛らしく、さみ子によくなつきました。やがて、足がよくなると、キツネの子は自然の中へ帰ってゆきました。

「あっ、お湯湧いたかしら?」

 さみ子は立ち上がりました。そしてゆっくりと階下へ降りてゆきました。

 さみ子が1階へ降りると、ほどなくして、

「こんこんこん」

と、ノックの音がしました。

「はい」

 さみ子が応えて、玄関ドアまで行くと、

「こんにちは。よろしければ、お湯をいただきたくて」

 さみ子は頷きました。

(ああ、今年も来てくれたのね)

 さみ子はドアを開けました。

 するとそこには、色白のひょろっと背の高い青年が立って居りました。

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