偶然か運命か
「こんな偶然あるんだね。」
カフェに入って席に着くなり美優がそう言った。
一度目は曽我部や久遠と遊びに行ったショッピングモールでの再会。
二度目は須田に誘われた合コンでの再会。
しかも美優と須田が従姉弟だとは。
美優とは極々稀にメールで連絡を取る事はあるが、殆どが生存確認みたいなもので『何々をして楽しかった』とか『今度どこそこへ行く』のような事を話す事は無かった。
なのにこうして再会出来るのは偶然にしては出来過ぎている。
「ホントにな。普通は有り得ん事だ。」
「連絡取れるのに連絡しなさすぎってのもあると思うけどね。」
美優はコロコロと笑っていた。
「何?もっと連絡しろって?」
「してくれるの?」
「した方がいいのか?」
「したいならしてもいいよ?」
お互いが探るような言い回しをしていて、何だか可笑しくなって2人で笑ってしまった。
笑い終えると、ふと無言の時間が流れる。
夜9時をとっくに過ぎているのに繁華街のカフェは人の出入りが多く、居酒屋ほど騒がしくは無いもののあちこちから話し声が聞こえていた。
「偶然って……何回くらい続くんだろうね?」
突然美優が真面目な顔をしてそんな事を尋ねてきた。
美優が何を言おうとしているのか掴みかねた俺は、美優の目をじっと見詰めるしか無かった。
「『偶然も二度目なら運命だよ』……か……」
美優は小さな声で某アーティストが歌う歌詞を口ずさんだ。
「え?」
「ねぇ。何度目の再会までが『偶然』だと思う?」
「は?」
俺は美優の言いたい事が何なのかさっぱり分からず、美優の目を見ているだけだった。
「私が引っ越した後にあのショッピングモールで会えたのは本当に偶然だと思うの。」
少し身を乗り出して美優が語り出した。
「涼太くんに再会出来て嬉しいなぁって思ったけど……」
「けど?」
「ただそれだけ……偶然会えただけだから次は会う約束しない限りもう会えないだろうなって思ってた。」
「うん。」
「でも今日また会えて……約束も何もしていないのに会えて……これは偶然なんかじゃないのかなって思い始めてるとこ。」
少しずつ理解が追い付いて来た。
しかし、二度の再会だけで美優が言わんとしている事だと決めて良いものかどうかの判断は出来なかった。
「それでね……」
少しアルコールが入っているせいなのか分からないが、美優の頬は軽く紅潮しているようにも見えた。
「私……涼太くんのことが……好き……」
ぽつりと呟くように、だがその目は俺の目をじっと捉えたまま美優が言った。
正直に言うと、俺はこのまま天に召されるんじゃないかと思うほど嬉しかった。
ずっと好きでいた相手が俺の事を好きだと言ってくれたのだから当然だ。
だが、長い間会う事もなく過ごしてきて、偶然再会出来たその日に、突然思ってもいなかった事を言われたことで、(このまま流れても良いものか……)という考えの方が強く頭に浮かんでいた。
「ありがとう。俺も美優のこと好きだ……ずっと前から好きだった。」
美優の笑顔が眩しい。
「でも……」
なのに俺は否定の単語を口にしていた。
美優の顔が一瞬曇る。
「でも?」
俺は先程美優が口ずさんだ歌を思い出していた。
「『偶然も二度目なら運命』と言うなら、過去に何人か思い付くんだ。」
美優は空間を眺めるように視線を泳がせながら『あぁ……』と少し納得したような顔になった。
「けど『三度目』って今のところ俺は経験が無いんだよな。」
「うん……そうだね……私も無いよ。」
「だから……『三度目』を信じてみたい。」
美優の少し曇りかけた顔がぱっと笑顔に戻る。
「面白いね!」
とは言うものの正直『賭け』である。
いや寧ろ、次の偶然があるという保証は何処にも無いし、偶然が無い確率の方が圧倒的に高いのだ。
だがそれを美優は『面白い』と言ったことで、心の中に少しだけ燻っていた不安は綺麗に掻き消された。
「『三度目』がいつになるか分からないけど、私も信じてる。」
その晩は日が変わる直前まで色々と話し込み、まるで明日もまた会うかのような感じでそれぞれの家路へと着いた。
次また美優に会える日の事を思いながら。
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