第19話 予想外の反撃

「畜生!!なんで一人も仕留められないんだ!!」


 銃という名の異世界の武器を手にしているというのに思ったように成果を上げられず、親衛隊の男は苛立っていた。せっかく獲物を見つけても少々ちょっかいをかけて逃げてしまうので、自慢の火力を披露できないのだ。


「まあいいさ。これでも着々と奴らを追い詰めていって居るんだ。この調子で———————」


 などと口にしていた時だった。木々の間からゴウッとすさまじい風が吹いてきた。しかも相当に冷え込んでいるらしく、当たりがうっすらと白い霜に覆われる。


「な、なんだ!?」


「あのゼロって野郎の魔法じゃ無いか?!」


 ボボボボッ!!と耳元で暴れる暴風に負けじと声を張り上げる。幸い、吹雪いてきた方角は一定だった。これが魔法による吹雪だったら、この先に吹雪を起こした張本人がいることになる。


「へへへ・・・・・・勝手に居場所を晒してくれやがって・・・・行くぞ!!」


 などと先導を切って進もうとする男。だが、それ以外の二人はなぜか動かない。


「おい、何やってんだよ!!」


「悪ぃ、脚が・・・・・・・・」


 そう言っている間にもみるみるうちに体に霜が付着していき、徐々に崩れ落ちていく二人。これこそがゼロ達の狙いだった。


 本来、氷属性の第六位階魔法「フリージング・ヘルズパーク」は周囲一帯を氷漬けにする魔法である。それをゼロは威力を犠牲にし、代わりに攻撃範囲を広げていたのだ。中途半端に下げられた威力と森の構造のせいで半ば吹雪に近い状態となったそれは、ゼロのテリトリー内に居る敵の体温を奪い無力化させていたのだ。


 そしてそれに耐えられるものは尋常ならざるもの、つまり異世界人だった。


「まあいい。そこでせいぜい暖め合っていろ。俺は先に行く」


 寒さを意に介さず進むのは、ひとえに彼が頑丈だからでは無い。「ブレイブワールドプログラム」に内包されるシステム加護の一つ「ペインイレイサー」や「テンプバランサー」のおかげで、灼熱の火山だろうが極寒の氷山だろうが適温の様に活動できる。


 そして、そうやって活動することによって「浮いた駒」を狩るのがラドルの役割だった。


「おい、止まれ」


「あ?」


 ケープを裏返しにして仮面を被ったラドルは、その異世界人の男「ブライアン」の前に立ちはだかった。


「これは警告だ。今すぐ引き返せ。龍帝ゼロはおまえらなんかじゃ太刀打ちは出来ない。無駄死にしたくなければ逃げろ」


「はぁ?何言ってんのお前。その龍帝とやらをぶっ倒すのが俺らの役目なんだけど。どいてくれる?」


 そう言って、ブライアンはラドルに銃口を向ける。それを見た瞬間、ラドルは敢えて全速力で前に飛び出した。


「!?」


「遅い。シンとかいう奴の方がまだ速かったぞ」


 ラドルはそのまま引き金を引く隙も与えず、ブライアンの顔面を殴り飛ばした。ブライアンは面白いように転がり、そのまま伸びてしまった。


「フン。こんなものか」


 ラドルはそれだけ吐き捨てると、すぐさま狩り場を移動した。











 そんな吹雪が吹き荒れるゼロのテリトリーの外側から、アルトはほくそ笑んでいた。


「へえ。ユニットを一斉に無力化させるなんて、たいした魔法じゃ無いか」


 大して気にもしていないような口調でアルトはつぶやく。のぞき込んだ照準の先には森の上空で悠然と羽ばたくゼロの姿を捉えていた。


「あんな堂々と姿をさらして、オマケにその場から動かないとか、とんだ間抜けだぜ」


 そう言って、照準のレティクルをゼロの頭にあわせる。実物の銃など持った事が無かったアルト—————正確に言えばその前世の有人ゆうと——————だが、保有しているスキル「銃の名手」で勝手に狙いを定めてくれる。「弾道補正」で風や重力によるブレも無視できるし、オマケに「隠密」のスキルのおかげでこちらから攻撃しない限りはばれない。そして基本一撃必殺のスナイパーライフル・・・・・・この時点でアルトの勝ちはほぼ確定したも同然である。


「俺は英雄になる。英雄になって俺の名を轟かせて、皆にちやほやされるんだ」


 そんな事を口にしながら引き金を引いた。パァン!!と破裂音と共に弾丸が飛び出し、そのままゼロの頭に吸い込まれ———————パァン、とバリアのようなものに阻まれた。


「————————は?」


 バリアそのものは砕け散ったようだが、異変に気付いたゼロが頭を動かす。その向いている方向は明らかにアルトの方だった。


 そして、照準を覗いているせいでゼロが口を動かしているのが見えてしまった。その口の形は—————————










(そ)

(こ)

(に)

(い)

(た)

(か)






「~~~~~~~~~~~ッ!!」


 アルトの背筋をドッと嫌な汗が伝う。ゼロは身を翻して、すごい勢いでアルトの方に滑空してくる。


「(いや、焦るな!!一直線に来てくれるならかえってありがたい!!)」


 アルトは素早く弾を装填してライフルを構え直し、ゼロに向けて発砲した。明らかに頭部に当たっているのにもかかわらず、再度弾丸はパァン!!とバリアを砕いただけで終わった。


「な、なんでだよ!!なんで弾が当たらないんだ!?」


 残り数十メートルの時点で、ようやくアルトは逃げ出した。余りにも判断が遅すぎた彼は、たちまちゼロの勢いに乗った蹴りを食らってしまう。ドゴッという鈍い音とともにアルトは吹き飛び、ゴロゴロと転がった。


「ゴホッ!!いてぇ・・・・・いてぇよぉ!!」


「フン、他愛ない」


 ゼロを守っていたのは、トーヤから渡された異世界の道具「ワンタイムシールド・トリプル」というものだった。これは攻撃を受けた際に自動でバリアが張られ、一定以上のダメージを受けると砕け散るというものだ。


 これの特筆すべき点は「バリアが受けるダメージを道具に仕込まれたパーツに肩代わりさせる」というものだ。これによって本来即死するようなダメージさえも道具本体が代わりに受けてしまうため、この機構を無視した攻撃をしない限りはほぼ絶対に防御できるという代物となっている。

 ただしそのような特殊な構造を持っているせいで非常に高価なこと、最大で三回までしかバリアを張ることが出来ないこと、この道具を所持しているものにしか効果が無いことなど色々デメリットが多いが、これでもかなり改善しているらしい。何しろ元々は「起動している間に攻撃を受けないと勝手に壊れて無駄になってしまう」「バリアは一回しか展開できない」という燃費の悪ささえ兼ね備えていたほどらしい。


「ち、畜生!!やりやがったな!!」


 そう言ってアルトは虚空から新たな武器を取り出した。「ショットガン」と呼ばれるタイプの武器で、射程は短いものの広範囲に弾丸をばらまくため回避が困難で、しかも威力が高いという特徴を持つ。アルトは引き金を引くが、ゼロが展開した翼に阻まれる。並の魔獣の甲殻ですら容易に破壊できるそれが、見るからに薄い翼膜に阻まれる様に戦慄せざるを得ない。


 そしてこの銃撃音を聞いた援軍が、さらなる追撃を喰らわせてきた。弾を撃ち尽くしてリロードしている最中に、一瞬にしてパキィン!!とアルトは氷漬けにされた。


「ここにいやがったか」


「ああ。お前の道具の機能は半信半疑だったが、随分役に立ったよ。死ぬかと思ったけどな」


「く、クソッ!!」


 アルトは悪態を吐いたが、やはり身動きが取れない。「ブレイブワールドプログラム」のおかげで本来はこんな氷漬けにされるような事は無いはずなのだが、トーヤはそのシステム加護をまるごと無視する体質である事をアルトは知らない。


「お前、あの時のキザったらしい奴・・・・・・!!」


「おや、覚えていてくださったのですか。キザったらしいとは余計だとは思いますが」


 口調とは裏腹に、トーヤは冷酷極まりない視線をアルトに向けた。まさに氷の様に冷たい眼差しにアルトは恐怖する。


「う、うるせぇ!!お前みたいな金髪ロン毛の野郎をかませにして俺は人生を送りたいんだ!!お前みたいな奴なんか・・・・・・・・」


「はぁ・・・・・・・オマエ、ラノベの読み過ぎじゃ無いのか?」


 まさにそのかませ犬のように吠えるアルトだが、圧倒的不利な状況には変わりない。


「オマエがどんな思惑で動いているのか知らないだろうが、この国はこの龍帝に守られていたって自覚はあるのか?」


「はぁ?龍帝に守られていた?ふざけんな!!なんで魔族なんかに助けられなきゃ行けないんだよ!!」


「魔族に守られるのは癪だってか?そんな薄っぺらいプライドを優先して、オマエはアルテミスに攻め込んだと。馬鹿の一言に尽きるな」


「馬鹿にするんじゃねぇ!!俺はコイツらを殺して領土を広げて———————」


「成る程。そういうゲームばかりやってきたって訳か」


「・・・・・・・・・・・!!」


 悉く図星を突かれたアルト—————否、有人は悔しそうに歯ぎしりしながらも黙るしか無かった。


「さて、コイツをどうするかだが・・・・・・・」


 そう言って、トーヤはなぜか背後を振り返る。


「———————やっぱりラドル様は許せませんか?」


「ああ」


 そこには騒ぎを聞きつけてやってきたラドルが居た。いつもだったら先ほどの様に「浮いた駒」を黙々と狩っていたところだが、今回ばかりは事情が違った。









「おまえ、

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