第18話 侵攻開始

 ゼロ率いる魔族集団「アルテミス」。彼らはブギースプーギー王国周辺の森林地帯を根城に活動している。龍人と呼ばれる彼らは一見して人間と大差ない姿を持つが、翼と尻尾を有していて、人間などとは比較にならない膂力と魔力を持つ。


 しかしそんな彼らを制圧しようとするのがブギースプーギー王国のアルトだった。彼はその森林地帯前の広い空間に自分の親衛隊を集めていた。王国の王子直属の騎士部隊といえば聞こえは良いが、彼らは元々スラム街の破落戸ごろつきばかり、礼儀も態度もなってはいない。各々が勝手にグループを作り、下品な笑い声を上げて手を叩いていたり、どっしり地べたに腰を下ろしていたりしている。


「はいはーい!!ちゅうもーく!!」


 パンパンパン、と手を叩いて注意を促すのがアルトだ。彼の後ろには元奴隷だった少女達が控えている。その中にはドラテアの姉であるエキドナもいる。


「それじゃあ皆にはここ一番の大仕事にかかってもらいたい。このブギースプーギー王国を取り囲むこの森林地帯に救う魔族集団“アルテミス”。彼らを退ければ彼らの領土をそのままこの国の管理下に置くこと出来る・・・・・・つまり、領土が広がるんだ!!」


「で、俺たちはどーすりゃいいんすか」


 一人の騎士がけだるそうにアルトに問いかけた。王子に対する言葉遣いでは無いが、この場でそれを注意する者は居ない。


「簡単だ。・・・・・・・・・彼らを殲滅しよう!!」


「殲滅!!良い言葉だぜ・・・・・・・」


 親衛隊達は不気味に笑う。王族に仕えている者とは思えない表情だ。


「それじゃあやり方は任せる!!作戦開始!!」


「「「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」


 親衛隊達はアルトのかけ声に奮い立ち、武器を掲げた。その手握られているのは剣や斧・・・・・ではなく、銃火器だった。


 異世界の武器「アサルトライフル」。その中でもメジャーなものの一つ「M16A1」を模したものだ。親衛隊はぞろぞろと勝手にグループに分かれ、森の中にドカドカと足音を立てながら脚を踏み入れる。


「それじゃあ君たちは、ここで彼らの救護にあたってくれ」


「かしこまりました。アルト様は・・・・・・」


「僕は僕で単独で行動するよ。なあに、心配ない」


「もう、またアルト様ったらお一人で行動なさって・・・・・」


「夜こっそり抜け出しているの、お父様にも言っちゃいますよ」


「ちぇ、ばれてたか」


 アルトは大して驚いたような顔をしていなかった。そもそも彼女たちが夜にアルトが抜け出しているのは知っていたし、彼女たちもそれを国王である親に言うつもりも無かった。


「それでは、気をつけてくださいませ」


「うん。行ってくるよ」


 そう言って、アルトも銃を担いで一人、森の中に脚を踏み入れた。手にしていたのは「アサルトライフル」・・・・・・・ではなく、「スナイパーライフル」だった。


「へへへ・・・・・・・どんな“ゲーム”になるか楽しみだぜ」


 一人になり本性を現したアルトは、破落戸達よりも下品な笑みを浮かべていた。












「さぁて、龍人さんとやらはどこにいやがるんだ?」


「ゼロって奴を討てば終わりなんだよな?」


「手柄は俺のもんだぜ」


 ガチャンガチャンと鎧を鳴らしながら歩く三人組。アルトの親衛隊のうちの一つのグループだ。彼らはスラム時代からの腐れ縁で、互いにものを奪い合いながらもしぶとく生き残り、気がつけば息のあったトリオとなっていた。


 そんな彼らが手に持っているのは、おおよそ甲冑とは釣り合いが取れていない、極めてメカニカルな武器だった。


「ストリーム・アロー」


 木陰に隠れていた龍人がその三人組に風属性の魔法を放った。バヒュン!!とそれは男達の眼前に着弾する。


「ハハッ!!向こうから来てくれたぜ!!」


「おらよ!!俺たちからもプレゼントだぜ!!」


 すかさず三人はドドドドドッ!!と発砲する。龍人は咄嗟に翻るが、数発が肩や太ももに着弾する。


「くそっ!!これが噂の武器か!!思ったよりも厄介だぜ!!」


 龍人はそのままヒュン!!と跳躍し素早くその場から離脱する。


「逃がしやしないぜ!!囲め!!」


 親衛隊の男達はそのまま龍人を包囲しようとする。が、意外なことにそれ以上龍人は手を出してこなかった。


「なんだ、この程度か!!この腰抜け魔族が!!」


 親衛隊達はさらに龍人を罵倒するが、龍人は意に介さずそのまま森の奥へ消えていった。


「フン、王子様の秘密兵器に怖じ気付いたか」


「ま、いいさ。どうせこの先は奴らの拠点のハズ。ゆっくりと追い詰めるか」


 へへへ、と意地汚い笑いを浮かべながら、三人は悠々と龍人達の領域を踏み荒らしていく。









「本当に良かったのか?」


「良くはないが、こちらとしても必要上の犠牲は出したくない。だからそこの異世界人殿の案に乗ったまでだ」


 森林地帯の奥深くの拠点で、ラドルとゼロ、そしてトーヤは額を合わせていた。


「奴が何を隠しているのか解らない以上、可能な限り広い空間で戦わなければなりません。そのためには、こうするしかありませんでした」


「その割には、今からやる作戦は屋外には不向きだがな」


 そんな会話をして居る間に、龍人の部下がゼロの元にやってくる。


「頭、奴らはすぐそこまで来ています」


「こっちもです。恐らく奴らの半数がここら一帯に集まってきているかと」


「上出来だ」


 本来なら絶望的な状況。しかしゼロはほくそ笑んだ。


「それじゃあ行くぞ。死にたくなければさっさと俺たちの所に来るんだな」


 それだけつぶやくと、ゼロはその巨大な翼をはためかせ、ふわりと空中に浮かんだ。そして他の龍人よりも一際鋭利な翼爪に魔力を込めて、そのまま思いっきり地面に叩きつける。


「フリージング・ヘルズパーク」


 ドォン!!という轟音と共に周囲に膨大な冷気が巻き起こり、木々を揺らす。


「これだけ思いっきりやったんだ。しばらくは持つだろうな」


「わかった」


「承知しました」


 それだけ口にすると、ラドルとトーヤはその場から勢いよく飛び出した。ここからは彼らの時間だ。


「さて、その間にもう一仕事しなくてはな」


 ゼロは再び翼をはためかせて舞い上がった。今度は木々をも超えて、さらに空高く。

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