第17話 逆転の発想
「それじゃあ、今回の調査の成果を報告しましょうかね」
サルサたちはブギースプーギー王国・・・・・・・ではなく、そこから少々離れた場所にある小屋に集まっていた。王国内の宿屋だとアルトの監視下に置かれている可能性も無くは無いのだ。実際にアルトの親衛隊の人間が刺客として送り込まれて来ている。情報漏洩のリスクを極力減らすためにも、最低限あの王国からは離れるべきだとしていた。
そして国を離れているのにはもう一つ理由がある。
「まず私の方ですが、ラドル様と共にゼロ様へお話をしに行き、そこからアルト王子が魔族の集落を相次いで襲っている事が解りました。その親衛隊達が見知らぬ武器を手にしていたと言うことも目撃しています。そして・・・・・・・・」
ドラテアはちらっと気まずそうに隣を見る。そこに居るのはラドルでは無く、アルテミスと呼ばれる魔族の小国の主、ゼロだった。
「そのブギースプーギー王国が攻め込んでくるという事で、お前達の作戦会議に参加させてもらう」
「まさかオイラもご本人がやってくるなんて思いもしませんでしたよ」
「本当なら今すぐにでも攻め入ってやりたいところだが、そこの半魔族の旦那に免じて見送ってやるよ」
「ありがたいことだ」
背中に生える巨大な翼を器用に動かし、鉤爪で指さしている先にはラドルが居る。
「先ほども言ったとおり、喧嘩を売られて黙っていられるほど俺は気が長くない。だが、そこの娘の親父がその王子様に殺されている可能性がある以上、無策で突っ込むのは危険だと考えている」
「だからこそここにいてくださるんですよね」
カティウスは魔王ほどでは無いが相当な実力者だ。強靱な肉体に強力な魔法、あらゆる面で隙が無いはずの彼を一瞬のうちに葬る手段があると解っているのならば、ただ突っ込むだけでは彼の二の舞になるだろう。
「それじゃあ、オイラとトーヤさんの方の収穫ですね」
「私の方はこれを聞いていただければ一目瞭然かと」
そう言って、トーヤは懐に隠し持っていた小さな筒状の道具を取り出した。
「これはなんですか?見たことない魔道具ですね」
「これは“録音機”、起動している間は周囲の音を記録することができ、後でそれを再生することが出来ます」
そう言ってトーヤは録音機を起動し、録音した音声を長し始める。サァー・・・・・・というノイズに混じりメイドとアルトの話し声がしばし流れる。バタン、と扉が閉じられる音が聞こえた後しばらくすると、突然品性の欠片も無い笑い声が聞こえてきた。そこから先は既にトーヤ達が知っている展開になる。
「いつ聞いても耳障りな声ですねぇ」
「なんだか腹が立ってきたな」
アルトの本性むき出しの笑い声にサルサとラドルは顔をしかめる。
「これによって解ったことは2つ。一つはこの国の治安を改善したと見せかけて、裏では奴隷の取引を手引きしていたと言うこと。もう一つは異世界の武器は完全に王子が作り出していたと言うことです」
「とんだマッチポンプだ。質が悪いな」
ラドルは眉間に皺を刻んだまま腕を組んで静かにして居た。しかし長年ラドルに付き合っていたサルサは彼の考えていることが解っていた。
「ラドルさん、気持ちはわかりますが落ち着きましょう」
「俺が取り乱したことがあったか?」
「割とここ最近はありましたよ」
一見すればいつも通りのラドルだが、サルサとのやり取りでトーヤは彼の思惑に気付いた。
「ラドル様。今城に向かうのはよした方が良いでしょう」
「なぜだ?あいつの準備が整う前に叩くべきだろう」
ラドルは既に、どうアルトに仕置きしてやろうかと考えていた所だった。今もアルトはアルテミスに侵攻するための準備を続けているところだろう。本格的に戦争が始まる前に手を打たなければならない、そう感じていたのだ。
「確かに早急に奴を止めなければならない事は確実です。しかし、私が懸念しているのはそれ自体では無く、奴に仕掛けたときに生じる被害です」
「奴に仕掛けて起こる被害?」
「はい。仮にこのまま奴の元に突撃するとします。その道中で出くわすであろう親衛隊達が暴れ出すでしょう」
「それの何が問題なんだ?」
「この異世界の武器です」
そう言ってトーヤは簡単に異世界の武器——————つまり銃火器が描かれた紙を机に出した。
「これらは単純な魔法と違い、使い手に依らず一定の成果を、即ち同程度の破壊行為を行うことが出来ます。しかも厄介なことに、この武器は扱いが素人であればあるほど被害は大きくなります。下手に城の中で戦えば、関係無い者まで巻き込んでしまいます。それこそ、”ロケットランチャー”など使われたら一般人はひとたまりもありません」
「そうか」
「俺からしたらどうでも良いことだがな」
ラドルはばつの悪そうに顔をしかめた。異世界の武器が魔法であれ何であれ、ろくな結果を残さないのは身に覚えがある。最もわかりやすいのが異世界の冒険者であり「大魔導師」のトウヤだろう。彼によって四肢が欠損するほどの重傷を負ったガルファンをこの目で見ている。ガルファンよりも上がいるとは言え、こんなものをごく一般的な人間が喰らえば文字通り跡形も無くなってしまうだろう。
「それからもう一つ。昨日我々を襲ってきた侵入者の血液を調べたところ、奇妙なものを発見しました」
「奇妙なもの?」
「はい。これらの波形がどういう意味なのかはさておきますが」
と言って、トーヤは懐から侵入者の血液を解析していた機械を取り出し、その画面を見せた。するとそこには一本の線が鋭角にひどく往復しながら引かれている様子が表示されていた。これが所謂折れ線グラフであるのは、サルサもラドルも見たことがなかった。
「で、この“総魔力量”の値を見ていただきたいのですが、3人の中で明らかに一人だけ異常な数値を記録しています」
「うわっ」
サルサは余りの数字の違いに声を出してしまった。2人は102とか140とか表示されているのに対して、1人だけ999と表示されていた。一瞬この機械が壊れているのか?と言いたくなるが、もしそうなら正常に波形が表示されるわけが無い。つまりこの数字は、正真正銘カンストしているのだ。
「おわかりでしょう。恐らく親衛隊の中に異世界人が紛れ込んでいます。もし戦いとなるのであれば、王宮のような狭い空間で戦うのは分が悪いです。そもそも城の中に罠を設置している可能性すらあります」
「成る程。で、あいつを止めるにはどうするんだ?」
「逆転の発想です」
「逆転の発想?」
トーヤの妙な言葉選びにサルサが唸った。
「侵攻を開始するのが1週間後ということは、逆に言えば1週間も猶予があるということです。そしてアルテミス陣営のゼロ様もいる。これは大きいです」
「確かに、前回の事を考えるとだいぶ楽ですねぇ」
「戦ってたのはおまえじゃないけどな」
サルサが言って居るのは、魔王シグナが女神イザベラの元に侵攻しようとしていたときのことだ。その時はシグナを止めつつイザベラの元に殴り込みに行かなければ行けなかったため、ラドル及びその一行は非常に苦戦を強いられた。何しろ両陣営の猛攻に晒されなければ鳴らなかったからだ。実際に異世界人の勇者であるタカトを筆頭とする協力者のおかげでラドル自身は両方を全力で相手する必要が無かったのだが、それでも今までの戦いの中でも消耗が大きかったのも事実だ。
「成る程な。で、俺に1週間の間に何をしろっていうんだ?」
ゼロはこちらを疑うような眼差しでにらみつける。そんなゼロにトーヤは臆すること無く作戦を告げた。
「地形と環境を最大限に利用するのです」
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