第6話 価値観の違い
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ギルドに帰ったラドルとトーヤの間に流れる空気は険悪そのものだった。
ラドルは本来、マサトを殺すつもりは無かった。いくらマサトやその取り巻きの少女達が諸悪の根源だったとしても、彼らをあの場から立ち退かせるだけで済むはずだった。そもそもラドルは母親を異世界人に殺されている。その母親の遺言である「異世界人を懲らしめてやる」という言葉を守り、彼らには手痛い仕置きはしても命までは奪わなかった。
だが、トーヤは違った。同じ異世界人でありながら異世界人を非道く憎み、彼らを目の敵にして居た。元の世界では彼らを取り締まる機関に所属しているが、相手が余りにも強大すぎることから「逮捕」することが難しく、結果としてその場で「処分」する羽目になっていた。そしていつしか「対転生者特別防衛機関」は異世界人を殺害して回るという組織として認識され、「
「あのマサトって野郎を殺したせいで、あいつに匿われていた女どもは路頭に迷うことになった。一応孤児院に預けられたみたいだが・・・・・・・おまえはそうなることを解ってやっていたのか?」
「そうなるも何も、本来はそうなるはずだったでしょう。いずれにしてもあのガキが諸悪の根源だと言うことは明るみに出ます。そうなった場合、あのガキだけでは無く彼女たちまで犯人扱いされるでしょう。そうで無くとも、生態系には多大な影響を与えます。あの樹海の環境が完全に破壊される前に、手を打つべきだったのです」
「だからと言って、あいつを殺す必要がない。あの力さえ使わなければ、奴と一緒に居ても良いはずだ。それを奪ってまで、一体何になるんだ」
「他の者は兎も角、あの獣人の少女は幼い。あのままではあのガキの能力ありきで生活できると身に染みついてしまいます。そうなれば、あのガキと離れたときに何も出来なくなる。たとえ今後能力を使わなかったとしても、あのガキの存在そのものが”もしかしたら”と思わされてしまいます。それは異世界人がもたらす被害としても捉えられるのではないでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、まあ過ぎたことですから」
ギスギスした雰囲気の二人の仲裁に入るのはサルサだ。しばらくにらみ合っていた両者だが、やがてため息を吐いた。
「仕方が無い。あいつが元凶だったのは事実だ。今後同じ事が起こらないことを祈るしか無い」
「そうですね。私ももう少し穏便な解決策を提案すべきでした」
まだぎこちない空気のまま、両者は言葉を交わし始める。
「しかし、なぜおまえはあいつにとどめを刺せたんだ?俺は今まで異世界人を何人も相手してきたが、致命傷になるような部分の攻撃は全て弾かれてきた。おまえも何かスキルとかいうものでもあるのか?」
「ああ、それですか。・・・・・・・・まあ、少々私の場合は特殊なのです」
トーヤは少々言いづらそうにしながら軽く咳払いした。
「・・・・・・・・・・私は今もこうしてラドル様の世界にお邪魔させていただいていますが、元の世界でも———————私は異世界人であるのです」
「元の世界でも異世界人?どういう意味だ?」
ラドルはトーヤの言っている意味がわからず、彼の言葉を復唱した。
「恐らくではありますが、私はこの世界に流れ込んできている異世界人と同じ世界から来ています。私の場合はラドル様とは別の世界に召喚されているのですが、そこからさらにこの世界に来ている、という事になります」
「あー、だからあなたは異世界人によくありそうな名前なんですね」
「納得がいった。俺もおまえと同じような名前の奴とやり合った事がある」
ラドルはトーヤとは別に「トウヤ」と言う名前の異世界人と戦ったことがある。その人物は有り余る魔力を持て余しており、自分でも加減というか、制御が出来て居なかった。そのトウヤはラドルの親友である獣人王ガルファンを瀕死の重傷まで追い込んでしまった。そのせいで交易などに多大な悪影響が及び、獣人と人間との間で軋轢が起きてしまったのだ。ガルファンが親友だったこともありラドルは激怒、トウヤを失禁するほどキツいお仕置きをしたのだ。
語感から妙に聞き慣れた名前だとは思っていたが、その出自を聞いて納得がいったのだ。
「ええ。その際に本来ならゲーム的なシステム——————こちらの世界では確か“ブレイブワールドプログラム”と言うのでしたか、それを私は施されなかったのです。彼らが持つ加護は受けられませんし、異常な力やスキルも身につけられません。しかしそれ故に逆に彼らの持つそういった加護を無視する事が出来るのです」
「なるほどな。おまえがその“対転生者特別防衛機関”って奴に所属しているのも、その力が重宝されるからってことか」
「・・・・・・・・・・まあ、そうですね」
トーヤはばつが悪そうに首肯する。
「しかし、だとしたら樹海で見せたあの動きは何だったんだ?言っちゃ悪いが、異世界人であんな動きをする奴は見たことがない」
「そうですね。それにあなたは村一つを氷漬けにするほどの規模の魔法を使いましたが、呪文を一切唱えていませんでした。普通はなにかしら詠唱が必要なのに・・・・・・・オイラ達はあんな魔法を見たことがありません」
ラドルはあれだけいがみ合っていたというのに、スルスルとトーヤへの質問の言葉が出てくる。そんな自分を不思議だと思いながらも、ラドルは口を動かすのを止めない。やはり同族に近い匂いを感じ取ったのだろうか。
「それは・・・・・・・・・・」
と、話の続きをしようとしていたときだった。トーヤはふと、明後日の方向を向いた。
「・・・・・・・・・・・・・」
「どうしました?」
トーヤの妙な動きに眉をひそめるサルサ。しかし、ラドルの反応は違った。
「おまえも解るのか」
「ええ。私の場合は単に職業病といった感じですが」
そう言って、二人は席から立ち上がる。
「こりゃまた随分、キナ臭い匂いがしてきましたね」
「ああ。プンプンするぜ」
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