どうか、守れますように
「しかし君、今までどこにそんな剣を持っていたんだね?」
「む……これか……」
沢山の高層ビルが全て崩れ、瓦礫の山になった街の中。
雷じいさんを倒し、どうにか死なずに目を覚ました俺に、スティールはそう言った。
「俺の力は……実体の剣を使う。俺の手を剣に見立てて斬ることもできるが……それでは殺し屋相手には通じない……」
「それは私も知ってるけど……ならもしかして、君がいつも戦う時に持ち出してた〝あの凄そうな剣〟が、そのオモチャの剣だったっていうのかい?」
「むぅ……どうもそうだったみたいだ……気がつかないうちに、俺の力でこんな形になっていたんだろう……」
「ふむ……なかなかに面白いこともあるものだ。こうして友誼も温めたことだし、ぜひ君とは今度ゆっくりと話したいものだよ、ロード・エッジ」
そう言うと、スティールは疲れて座り込んだ俺に向かって、白い手袋をつけた手を差し伸べてくれた。
なんだか、それが俺は嬉しくて……さっきから全身に戻ってきた痛みも忘れて、スティールの手を握り返した。
「なら、私もいいかい? 日本だと〝ぷにぷにチャット〟がメインだったよね」
「ユールシル……!? 俺の〝ぷに友〟になってくれるのか……!?」
「フフ……まさか嫌とは言わないだろうね? 実は、もう
「う、嬉しい……! もちろん頼む……! ありがとう……っ」
良かった。
本当に良かった。
戻ってきて良かった。
俺は思わず泣きそうになるのを我慢しながら、ユールシルにぷにぷにチャットのIDを教えた。
スマホを悠生に預けていたのを、少しだけ後悔した。
死にそうな戦いを乗り越えた自分へのご褒美に、500連ガチャを回したいと思った。
だが、そんな嬉しさで一杯の俺とは別に、スティールとユールシルは互いに合図を送り合う。
「じゃあ、悪いけど私たちは行くよ。悠生たちを守れっていう使命は、まだ継続中だからね」
「え……?」
「ふむ……バルトレミー女史の言う通りだ。少々服は薄汚れてしまったが、私は〝すでに万全〟だ。早速彼らを追うとしよう」
二人のその会話に、俺はとても驚いた。
あれだけの戦いをなんとか切り抜けたばかりなのに。
金属を食べて元気満々になっているスティールはともかく、ユールシルは俺と同じか、それ以上に傷だらけなのに。
とても綺麗な肌にはいくつもの傷がついているし、火傷だって酷い。
血はじいさんの雷で焼けて乾いて、とても痛々しい見た目になっていた。
「本当に今すぐ行くのか……? もう少し休んでからでもいいんじゃ……ユールシルも、酷い怪我だ……」
「心配してくれるのかい? って、そういえばレックスは、私たちを助けるために残ってくれたんだったね」
「ならば、〝今の君なら分かる〟のではないかね、ロード・エッジ。君が我々の些細な行動に恩を感じ、助けたいと思ったように……我々にとってもまた、
二人は笑ってそう言った。
俺にとっての友だちと同じように、円卓の父の願いは二人にとって大切だと。
「私は円卓〝最古の王〟……代替わりした他の王とは違い、私は遙か昔からあの方のことを見ていた……あの方が我々のためにどれだけ悩み、苦しみ……大切にしてくださっていたのか……私が〝イノ爺〟と呼ばれていた、遙か昔からね……」
「私には特に大した理由はないよ。けどね、私はあの人のお陰でいつも刺激に満ちた日々を送れてる。悠生や君みたいな〝美味しそうな雄〟とも知り合えてるしね……?」
「む……そうか……そう、なんだな……」
それを聞いた俺は、何も言えなかった。
俺にとっての円卓の父は、俺の自由を奪い、やりたくもない人殺しをさせた〝悪い奴〟だ。はっきりとは思い出せないが、きっと俺の親を殺したのもあいつなんだろう。
だが、この二人にとって円卓の父はそうじゃない。
きっと俺が悠生に感じるような、大事な存在なんだろう。
なら、俺にそれをどうこう言うことはできないと思った。そして――――。
「待ってくれ。俺も連れて行ってくれ……悠生の所に向かうのなら、俺も……」
「それはいいけど……今度こそ、本当に死ぬかもしれないよ?」
「死ぬのは嫌だ……。でも、悠生は俺の友だちだ……助けてやりたい……」
あまりにも血が抜けすぎてふらふらしながらも、俺は二人に頭を下げた。
悠生も
それに、スマホだって預けたままだ。
俺はまだ自分で動くことができる。
だから、二人の力になりたかった。
「いいだろう。しかし断っておくが、創世主の指示があれば我々はすぐに君たちの敵として立ちはだかることになる。それでも構わんね?」
「それでもいい……そのときは、俺がなんとかする……っ」
「へぇ……? いい顔つきだね。見違えたよ」
「グッド! ならば、行くとしよう!」
瞬間、スティールは俺とユールシルを抱えて金属の力を解放する。
きっと瓦礫に埋もれた鉄とかを食べまくったんだろう。本人が言うように、さっきまでの傷は全部なくなって、ムキムキのバッキバキになっていた。
だが、そのときだった――――。
『あーあ。やられちゃったねー?』
『やられちゃったねー?』
「っ!? 君たちは……!?」
二つの無邪気な声が、少し離れた場所から聞こえた。
『せっかくボクたちが力を貸してあげたのに、この人弱すぎー!』
『ねー? 昔は〝ただの従者だった人〟にやられるなんて、本当に弱いねー? 役立たずはいらなーい!』
そこには、お揃いの白い六業会の服を着た双子……さっき俺とユールシルが吹っ飛ばしたはずの、〝二人の子供〟が立っていた。
双子は地面に倒れて気を失っていた雷じいさんを足で蹴り飛ばすと、何が面白いのか、二人で同じ顔、同じポーズでケラケラと笑った。
「チッ……! でも、もう一番厄介なインドラは倒したんだ……! 悪いけど、君たちじゃ私たちの相手にならないよ……!」
『あはははは! ボクたちじゃ相手にならないだってー! 面白ーい!』
『面白いねー? 〝たかが人間〟のくせにねー?』
「なんだと……!? それは一体どういうことかね……!?」
「っ!? だめだ、逃げろ――――!」
フラグ。
この展開はフラグだ。
今まで何百というゲームをクリアしてきた俺には分かった。
だから、俺はすぐにスティールとユールシルを抱えて、全身の激痛を堪えながら飛んだ。だけど――――。
『君たち面白いねー? 面白いから、ご褒美に――――』
『特別に、今すぐ消してあげるー!』
光と闇。
さっき俺たちが戦ったときとは桁違いの力が、一瞬で俺たち三人を呑み込んだ。
『お掃除かんりょー! 早く〝他の二人〟のとこに行こー!』
『聖人を迎えに行こー! そーしよー!』
俺が最後に聞いたのは、双子の楽しそうな声だった。
ダメだった。
かなり頑張ったが、やっぱり俺の人生はここでサービス終了だった。
悠生……せめて、お前は――――。
〝大切なものを、守れますように〟
俺の最後の願いは、そのまま白と黒の中に消えた――――。
To be continued
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