嬉しかったから
「スティール! ユールシルもか……! このクソ忙しいときに……!」
「ご機嫌いかがかな、拳の王。君にやられた傷はこの通り完治したよ。その間、随分と大量に食べる必要があったがね」
「やあ
雷鳴轟く高層ビルの狭間。インドラ様と対峙する僕たちをちょうど中間にして、僕たちの背後から二人の王が現れたんだ。
『円卓の王か……神の力を宿せし蛇ならまだしも、今さら汝らごときに何ができよう――――万象一切、我が雷撃の前に滅び去れ』
「あわわ……! ど、どうしよう悠生!? このままここで戦ってたら、アマテラスまでもたないよっ!」
「隙を見て切り抜けるしかねぇ――――! 来るぞ!」
刹那。閃光と轟音が鳴り響く。
そしてそれと同時に、反対側に立っていた円卓の二人も動く。
それを見た僕たちは、互いに背中合わせになって身構えると、双方からの攻撃に対処しようとした。だけど――――!
「ハハッ! いいねぇ……! たまには私の鏡も役に立ちそうじゃないか!」
「灼熱の太陽が相手では、私も少々分が悪いのだがね。ふふ……君の雷撃ならば話は別だ、六業会の主よ」
『む……!? 汝ら、まさか……!』
だけど、インドラ様と一緒に僕たちに攻撃するかに見えた円卓の二人は〝僕たちをスルー〟した。
二人はそのまま一直線にインドラ様目掛けて襲いかかって、インドラ様が撃ったとんでもない威力のカミナリを、正面からまともに受け止めていたんだ!
「どういうことだ……!? お前ら……!?」
「誤解しないでほしいものだね、ロード・フィスト。我々は何も、君たちを〝攻撃しに来たわけではない〟のだよッ!」
「そういうこと……! 私たちの役目は君たちの〝護衛〟なのさ……! 六業会はそっちにいる君の奥さんを殺したいようだけど、私たちにとってはそうじゃない。円卓は、せっかくの器を殺されるわけにはいかないのさ……!」
僕たち全員の力を集めても防ぐのがやっとだったインドラ様のカミナリ。
それを今、僕たちを庇うようにして受け止めた二人の王。
とっくにムキムキの姿になったスティールさんは、輝く金属の体で雷撃を上手く地面や空に流してる。そして凄く綺麗なもう一人の女性……ユールシルさんは、目の前に展開したいくつもの鏡に雷を乱反射させて押さえ込んでいた。そして――――。
「行きなよ……悠生。私たちがこいつを抑えていれば、今の君なら他の奴に手こずったりしないだろう?」
「なんの真似だ……! またろくでもねぇことを企んでるんじゃねぇだろうな!?」
「心外だな、ロード・フィスト。我ら二人が主から命じられたのは、君たちの護衛のみ……君たちの道行きを阻めとも、レディ・トワを捕らえろとも言われてはいない。行くがいい、我らの主が……〝君の父上〟が待っている」
「スティール……お前……!」
『愚かな……その程度の小細工で、我が力を阻めると思うてか?』
瞬間。インドラ様の雷撃がのたうつようにして出力を増す。
ユールシルさんの鏡が何枚も割れて、スティールさんの体が凄まじい電熱で溶けていく。
「……ッ! いいかね、ロード・フィスト。君たちの護衛を命じられたのは〝私とバルトレミー女史のみ〟だ。残る他の王も、数多の殺し屋も、殺しはせずとも躊躇なく君たちからレディ・トワを奪うべく襲うだろう。だがだからこそ……我らは君たちの護衛という、主から与えられた誉れある使命に命を賭けるのだよ。実にエレガントだと思わんかね……ッ!」
「分かったら、さっさと行って貰えるかな……!? 今の私は、君たちの護衛よりこの六業会の木を味わいたくてウズウズしてるんだ……! そしてこの戦いが終われば、二人とも今度こそ私と遊んで貰うよ……!」
「……行こう悠生っ! 僕たちがここを抜けるには今しかないっ!」
「チッ……お前ら、俺とケリつけるまで死ぬんじゃねぇぞ!」
スティールさんも、ユールシルさんも。
別に二人が僕たちの味方になったわけじゃない。
でもそれでも、たとえどんな理由でも、二人が今ここで僕たちのために戦ってくれるっていうのなら、それを台無しになんてできない。
僕たちは互いに頷き合うと、一気にその場から加速して離れる。背後では今も眩しいくらいの閃光が弾けて、爆音と衝撃を幾つも巻き起こしていた。だけど、その時――!
『ふん……ならば致し方なし。
『はい、インドラ様』
『はい、インドラ様』
その時。インドラ様の呼び出しに応じて、まだ子供にしか見えない二つの影が闇から飛び出す。あの二人……まさか!?
「なるほど……! やはり、単独でこれほどの力を操っていたわけではなかったようだ……! バルトレミー女史、頼んでもいいかね?」
「いいけどね! でも、私が抑えられるのは片方だけだよッ!」
インドラ様をスティールさんが。飛び出した二人の内、片方をユールシルさんが封じにかかる。止められなかったもう一人の子供……九曜の中でも特別な力を持つ〝双子星〟の一つ……ケートゥさんが僕たちに追いすがる。
「はわわ! ちびっこが追いかけてきますよー!?」
「チッ! 俺が吹っ飛ばす――!」
『ダメです。逃がしません』
とんでもない速度で追いかけてくるケートゥさん。
それを見た悠生が足を止め、くるりと空中で振り向いて拳を握る。
けどその瞬間。
悠生よりも早く、僕たちから離れてケートゥさんに挑みかかった人がいたんだ。
「…………悠生、こいつを頼む」
「……!?」
それは僕たちとケートゥさんの間に建っていた高層ビルごと空間を断ち切る。
ケートゥさんが空中で動きを止め、目の前に立ち塞がる一振りの剣を握った男の人――レックスさんを見据えた。
「そのスマホは俺の命だ……だから、お前に預けておく」
「どういうことだ!? お前まで何言って……!」
「すまない……俺はここに残る……このまま放っておけば、〝あの二人は死ぬ〟……」
加速を止めて僕たちから離れていくレックスさん。
その間にも、僕とエリカさんが再構築した光と炎のトンネルの入り口が開いていく。
「馬鹿野郎! なら俺たちだってここで!」
「ダメだ悠生! 君の力も、
「
悠生はすぐにレックスさんの方に駆け寄ろうとしたけど、僕はそんな悠生を止めた。
だって……。
「円卓にいた頃の俺と喋ってくれたのは、あの二人だけだった……俺は恥ずかしくて一度も返事ができなかったが……それでも、嬉しかった……」
「お前……っ!」
「だが……ずっとぼっちだった俺に、一緒に遊んでくれる友だちの良さを教えてくれたのはお前だ、悠生……。それをお前に教えて貰ったから……今の俺はあの二人を……〝友だち〟を助けたいと思えるようになったんだ」
だって……レックスさんの言葉の意味が、僕には痛いほどよく分かるから。
僕だって、悠生っていう大切な友だちに救われた一人だから。
だからこそ、死んでしまうかもしれない友だちを助けたいっていうレックスさんの気持ちが、とてもよく分かったんだ――――。
「どうせ、どこかであの男も仕留めないといけないんだろう……? 俺も昔は円卓最強の王だった〝らしい〟からな……案外、良い勝負ができるかもしれないぞ……?」
最後。
神々しく輝く聖剣を構えて僕たちを見送るレックスさんの姿は、見たことがないくらいかっこよかった。
いつも猫背の背中もピンって伸びて、金色の髪と青い瞳がまっすぐに僕たちを見つめていた。
「負けるなよ……悠生。帰ったら……また一緒に遊んでくれ」
「レックス――――ッ!」
僕に制止されたままの悠生が、最後にもう一度だけレックスさんに手を伸ばした。
僕たちの視界は光と炎の渦に飲まれて、レックスさんの大きな背中も、その光の向こうに見えなくなった――――。
To be continued
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