真の狙いは見えず
「なっはっは! つまりこういうことだ、間もなくこの地は我ら
「逃げるなんて、僕はそんなこと……!」
「だろうな! ソーマ……いやさ
突然やってきた毒の王を追い返した後。それを山田に知らせに戻った俺たちは、そこでさらに意外な来客を迎えた。
「やはり円卓も六業会も、どちらもここで決着をつけようというわけですか……ですが、双方共にその目的が
「ほっほーう? 既にそこまで知っていたか。さては先ほどギリメカラが感知した〝どこぞの王〟がお主らに伝えたな? ならば、私も少し話してやるとしよう!」
俺と永久。そしてレックスが山田の部屋に入ると、そこには既に鈴太郎とエリカ。そしてそのど真ん中でソファーにふんぞり返るチビ女……〝
どうやら、毒の王が俺たちの前に現れたのと殆ど同じタイミングで、シュクラも鈴太郎とエリカのところに来ていたらしい。
「太極とはな、二千年ほど前に
「命と願いを食べる樹……!? そんなものを育てるために、大勢の人を生け贄にしてたっていうんですか!?」
「そのとーりだ。惨い酷いと言うなら幾らでも言うがいい。だがな、円卓の主である〝あの男〟が起こしてきた戦乱による犠牲者は、我らが太極に捧げた命の比ではないぞ?」
「落ち着け、鈴太郎。それで……なんで親父はあの化け物に目をつけた? 大体、あれはあの〝紅い月〟に食われて枯れちまっただろ」
珍しく声を荒げる鈴太郎の肩を叩き、俺はシュクラに話を続けるよう促す。
「太極はすでに地球そのものに深く根を張っている。あの場で砕かれたのはほんの先っちょなのだ。しかも、我らが破壊を目指す大神エールは今や月から〝地上に降りた〟……そうだな?」
「…………」
「フフン……そう警戒するな! 私一人で今すぐどうこうするつもりはない。だがな……地上に降りた〝神〟と、この地に根を張る〝星樹〟……あの男は、この二つを使って今度こそ自分の手に神を取り戻そうとしているらしい」
シュクラは言うと、ソファーにふんぞり返った姿勢から勢いをつけて部屋の窓際へと飛び跳ねた。そして音もなく着地すると、部屋のカーテンを開けてそこから見える夜空を……紅く染まった月を見上げた。
「円卓が太極を使って何を企んでいるのか……それは我らの〝遠見〟でも完全には見通せぬ。だが、すでに〝
「親父の意識が、月に?」
「そうだ、拳の王よ。たしかに神はお前の妻の中に舞い降りた。だがそれにも関わらず、あの天に輝く月は紅く染まったままだ。あそこには何がある?」
「何がって……もしかして!?」
窓際に飛んだシュクラの視線の先。
そこに輝く紅い月。
シュクラのその言葉に鈴太郎は驚きを露わに、俺は静かに息を呑んだ。だが――――。
「うむ……! ここからは私の推測なのだが……。あの男は太極を使い、もう一度あの紅い月に向かおうとしているのではないか……? 我らが月で見た、円卓の母を取り戻すために……!」
「んんーー……? でもでもっ、お月様にいた〝もう一人の私〟は、とっくに〝心も体も〟私と一つになってるんですよ? だから、あのお月様にはもう〝なんにも残ってない〟はずなんですけど……」
「な、なんとーーーー!? そうなのかっ!? そんな芸当ができるとは、お主の体はいったいどうなっているのだ!?」
「私たち二人はエルの欠片でできていたのでっ! 最近まで知らなかったんですけど、どうも色々できるっぽいのですっ!
「な、なるほど……っ!? だがそうなると、私には円卓がなぜ太極を狙うのかも、どうしてあの男が月に意識を向けているのかもさっぱり分からんっ! はっはっは!」
「あれだけ雰囲気出してたのにっ!?」
おいおい……結局お前も分かってないのかよ!?
「わからん物はわからんっ! とにかく円卓の狙いが〝ここにいる永久〟と〝アマテラスにある太極〟の二つであることだけは確かだ! 故に、我ら六業会はこの大都市を犠牲にしてでも円卓の狙いを阻止する!」
薄い胸を張り、なぜか得意げに笑うシュクラ。だが、シュクラの言う円卓と六業会の決戦がこのまま東京で勃発すれば、東京は数日で更地になるだろう。
「……そんなことをすれば、人が沢山死ぬぞ。もうすぐ始まる新イベントも遊べないし、ガチャも回すこともできない。巻き込まれた奴らは、みんな死ぬ……」
「そうです……っ! 六業会だって円卓を止めたいのでしょう!? なら、今は一時的にでも私たちと協力して、大きな被害を出さないように……!」
すぐさま横で聞いてたレックスとエリカがシュクラに意義を唱える。
だが、それを聞いたシュクラはそのガキみてぇな顔に鋭い眼光を宿して応えた。
「ハッハッハ! 我らを舐めるなよ刃の王、そして爆弾娘よ。今さらこの程度の犠牲を気にするのであれば、太極などという得体の知れぬ力に手を出したりはしない。たとえこの地が焦土と化そうとも、我らは円卓の野望を阻止する……! そして――――」
シュクラが俺と永久に視線を向ける。
その赤い瞳には幼さとは無縁の、固い決意の光が灯っていた。
「永久……お主は私と同じ、ロボを愛する同志。私もできれば殺したくはない……だがもはや時は満ちてしまった。我ら六業会は神であるお主を〝必ず殺す〟……その時が来るまで、せめて悔いなく生きるのだな……!」
「……っ。シュクラさん……」
「させるかよ……! 六業会だろうが円卓だろうが、永久を傷つける奴は全員叩き潰す……!」
怯える永久を後ろ手に庇い、俺はシュクラの挑戦的な眼光を受け止める。
円卓も六業会も、結局はそれぞれの都合で何もかもぶち壊すクソ野郎の集まりだ。
永久と太極の根。
円卓と六業会がどっちも狙ってくるっていうのなら、どっちもぶっ潰す。
俺はちらと部屋の隅に立つ山田と目を合わせて頷き合うと、いよいよ迫るその時に向けて覚悟を決めた――――。
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