もう一人の使者
こうして、僕とエリカさんの新しい生活が始まった。
まだ未成年のエリカさんとの同居については、念のため山田さんと会計の河井さんに確認してみたんだ。
そうしたら、法律的にもちゃんとした交際なら問題ないってことや、僕たちの関係を山田さんが後見人になって認めてくれるっていうことで、とんとん拍子で進んでいった。
エリカさんもそうだし、僕も母さんと気軽に連絡できるような状況じゃないから、山田さんがそう言ってくれたのはとても嬉しかった。
そ、それに……いくら僕のことを認めてくれたって言っても、母さんに僕がエリカさんとお付き合いしてるなんて連絡したら、その日のうちに殺し屋マンションに〝太陽〟が降ってきちゃう……!
ただでさえみんなには凄く迷惑をかけてるし……もう少し落ち着くまでは、母さんには僕たちの関係は黙っていようと思う。
「
「わぁ……とっても素敵な小物入れだね。それならどこに置いても良いよ。また後で使いやすい場所に動かせばいいし」
「はいっ。そうさせて頂きますねっ!」
いつもよりも作業しやすい格好に着替えたエリカさんがやってきて、とっても嬉しそうに小さな木箱を僕に見せてくれた。
僕は自分の部屋を片付けながら、エリカさんと一緒に引っ越し作業の真っ最中。
殺し屋マンションって、基本的にはファミリー向けの広い間取りだから、僕みたいな一人暮らしだと部屋が二つくらい余っちゃうんだ。
だからエリカさんと二人で暮らすために、今まで物置みたいになってた部屋の荷物の整理をしてる。
暫くはエリカさんも、自分のお部屋は借りたままにしておくみたいだけど……その……もうエリカさんには、自分の部屋で寝泊まりするつもりが全然ないみたいで……。
「私の部屋と鈴太郎さんの部屋は、直線距離で〝27メートルも〟離れてるんですよっ? そんなの絶対許されませんっ! そうですっ!」
「う、うん。もちろん僕もエリカさんと一緒の方が嬉しいよっ。もし僕の普段の習慣で嫌なところや、直して欲しいところがあったら教えてね」
「ふふ……それは私もです。ふつつか者ですが、どうか末永くよろしくお願いします……」
「え、エリカさん……っ」
そう言って、エリカさんは僕に体を寄せて静かに目を閉じる。
エリカさんの透き通った唇は僕の方に向けられていて、さすがの僕も、エリカさんが何をして欲しいのかはすぐに分かった。
そ……そうだよね、もう僕たちは恋人同士だし……っ!
き、きき、キスの一回や二回くらい、して当たり前だよね……!?
が、頑張れ……!
頑張れ鈴太郎っ!
今こそ、年上の僕がビシッと……ッ!
どんなに頑張っても、今にも爆発しそうな僕の心臓の音は隠せない。
でも……触れ合った場所から伝わるエリカさんの鼓動も僕と同じ。
うん……やっぱり僕は、エリカさんのことが大好きだ。
もう何度目かわからない気持ちを自覚した僕は、そのままエリカさんに――――。
「な、ななな、なんとーーーーっ!? お、お主ら……! いつのまにそのような仲になったのだッッ!? い、今すぐスーリヤに知らせなくては……ッ!」
「ぶーーーーーっ!?」
「え……っ!?」
でもその時。
僕とエリカさんしかいないはずの部屋に、もう一人の女の人の声が響いたんだ。
ただでさえ限界までドキドキしてた僕は、その声に驚いてエリカさんにしがみついてしまった。そうして――――。
「まったく……! 人がせっかく遠路はるばる来てみれば、まさかこんなところでイチャコラしているとは……ッ! 禁欲を是とする九曜の名が泣くぞソーマよッ!」
「あ、あなたは……シュクラさん!? なんでここにっ!?」
「〝九曜の金〟……っ! よくも……! せっかく鈴太郎さんと良い雰囲気だったのに……ッ!(ギリッ)」
「なーーーっはっはっは! その通りだ爆弾娘よ! 覚えてくれていたとは光栄だ! 我こそは九曜の金……シュクラ! こうして〝我が愛機〟を駆り、六業会からの通告を伝えに来た! ソーマよ、他でもないお前を〝救うために〟だ!」
僕とエリカさんがぴったりとくっつき合っている〝部屋の外〟。
そこには、殺し屋マンションの外で翼を広げて滞空する金色のロボットと、そのロボットのコックピットから顔を出して得意げにポーズを決める、褐色肌の女の子……六業会の金――――シュクラさんが、どこからか取り出したスマホのカメラで僕たちをパシャパシャ撮っていたんだ!
「ちょ……! 撮らないで、っていうか撮ってどうするつもりなんですかっ!?」
「無論、スーリヤに送ってやるのだっ! 愛しい我が子と離れ、日々寂しい思いをしているスーリヤに、立派に成長したソーマの姿を見せてやらねばなっ!」
「それ一番ダメなやつーーーーーーッ!?」
「たとえどのような理由があろうと……! 私と鈴太郎さんのかけがえのない時間を邪魔した報いは受けて頂きます……っ!」
「ハッハッハ! 面白いッ! ならば見せてみろ、爆弾娘……ッ!」
「ちょ、ちょっと待って、待ってええええええええ――――っ!?」
結局――――。
そのまま勃発した二人の戦いを止めるために、僕は〝
でも、その後にシュクラさんが僕に教えてくれたこと。
そして、僕たちとは別に何かあったらしい悠生とレックスさんが、みんなに話してくれたこと。
その二つの話は、僕たちのこの平和な時間がもうすぐ終わることを告げていたんだ――――。
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